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初めてSS席で観劇して狂った話

宝塚歌劇の沼に落ちてから早二年が過ぎた。
まずトップスターを筆頭としたタカラジェンヌの美しさを浴びて沼へ入水し、贔屓(推し)の方を見つけたことでさらに奥深くへと沈み、これからの公演予定に胸を躍らせる幸せな沼ライフ。
ただ1点、チケットだけが問題であった。
ハマってからは友の会や私設ファンクラブに入会したりしてチケットを取るようになったが、中々当たらなかったり、折角当たってもコロナで全て飛んだりで、ましてやSS席など幻に等しい存在だった。

そんな折、私を沼に突き落とした張本人である友人から一通のlineが。

「SS席1列目当たったんだけど、よかったらご一緒にどうですか?」

……夢かと思った。しかも1列目。自分が一番好きな組での大劇場公演。
全てがそろい過ぎている。このチャンスを逃したら、人生でもう二度とこんな機会訪れないかもしれない。
日程は平日ではあったが、この素晴らしいお誘いに瞬時に乗り、その週には有給申請していた。この時ばかりは休みやすい職場に感謝した。

そんな訳で、先日とうとう観劇してきた。
ただ恐ろしいことに、あまりの衝撃でもう記憶が怪しくなっている部分がある。あの時感じた感動を何とか忘れずに、大切に記憶に留めておきたい。
そこで自分用の備忘録を書き残そうと思い、今回初めてnoteを利用した。
物語や個人等に関する細かい感想は語り尽くしたのでここでは省き、席からの見え方・聞こえ方等を記しておこうと思う。

1.開演までの流れ

観劇当日、あまり実感の湧かぬまま新大阪駅で友人と合流し、宝塚大劇場へ。友人もSS席観劇は初めてとの事だったが、やはり実感が湧かなかったようで「やばいね〜」なんて軽く言い合っている内に宝塚駅に着いた。

早めに到着したので、宝塚ホテルで展示されている舞台写真を見たり、劇場内ショップでお茶したりと、暢気に過ごしていた。抹茶わらび餅ドリンク、腹持ちもよくて美味しかったです。

開演30分前、いよいよ座席へ。この頃になってようやく実感が芽生え始めて、そわそわしてきた。普段上がっている2階席への階段をスルーし、1階席すぐ横の入り口から入場。
これまで座っていた座席を通り越し、前へ前へと歩いていく。
舞台がどんどん目の前に近づいてくる。
この時点であまりにも舞台との距離近くないか?と慄く私。
え??こんな前で見てもいいの???スタッフの人に止められない???と途中から挙動不審になりながら、ようやく座席到着。

そこには

席からの風景。幕の前にせり出しているのが銀橋。右の赤いのが階段。

なんだこの景色は。

いや銀橋近過ぎ。手を伸ばしたら演者の方に触れることが出来そうな距離。(しないが)
後方を振り返ると、花道の袖部分まで見える。やばい。円盤や配信とかでしか見た事のない景色が目の前に広がっている。

着席。放心状態でとりあえず友人と舞台の写真を撮る。
前に誰も座っていないことが、違和感しかない。
一方で周囲の人は非常に慣れている雰囲気を醸し出しており、その様は百戦錬磨の猛者と言い表すにふさわしかった。
どっしりと座ってパンフレットを読み込むマダムたち。その様にも圧倒される弱いオタクこと私。
あの方たちはいったい何者だったのだろうか。

そうして圧倒されたり、トイレに行ったりしている内に、あっという間に開演時間5分前となった。
心拍数が更に急上昇する。今から目の前をスターさんが行き来するんだ…と考えると変な汗が出てきた。隣を見ると、精神統一で深呼吸する友人。震える手。全然意味がない。
耐えられなくなったらお互い腕を掴み合おうと謎の約束をし、いざ開演。

2.お芝居中

近~~~~~!!!!!美~~~~~~~!!!!!!

始まって数分、もうこの感想で頭がいっぱいだった。
もう見える景色全てが違い過ぎる。

まず最初、ここに来るまではSS席1列目は近くても、舞台の全景は見ることはできないんだろうなと思っていた。全然そんなことはない。これだけ近いのに全て見渡せる。
舞台中央で主人公が話している姿を見ながら、同時に舞台端で小芝居をしている方も鮮明に視界に入れることができる。オペラグラス抜きで。
一人の表情をオペラで追いかけて、舞台の全景が見れなくなることもない。なんて贅沢な観劇体験なんだ…。

あと音の聞こえ方もまた全く違う。
このSS席観劇までに、B席で2回ほど観劇していたが、どちらも2階席後方で、その時は劇場全体に広く響き渡った歌声やオーケストラの音が耳に入ってくる感覚があった。それでも圧巻の演奏や歌だったのだが…。
一方SS席は骨に音を直接浴びせられている感覚がすごかった。皮膚を通り越して、もはや骨。初めての感覚。
特にすごかったのが3番手の方の歌声。B席で聞いていた際も背中がビリビリと震えるような歌声だったが、今回はもう背骨に直アプローチである。たまに見る骨伝導イヤホンってこんな感じなのか…と思いながら感動しっぱなしだった。

そして何より銀橋の近さ

いつの間にか物語に夢中になって見ていると、急にトップスター率いる舞台上の人々が全員銀橋へ向かって走ってきた。
え!?怖い!!!と美しさの過剰摂取に怯える私。
そして止まったと思いきや、歌い踊り始めた。
目の前で。

これが本当にすごかった。遠くから見てた際も圧倒されていたが、そのシーンが今まさに、すぐそこで繰り広げられているのである。衣装の衣擦れ音や、踊ることによって生まれる風、そして白粉の香りまで感じることができる。もはや五感全てが宝塚に支配される感覚。ジェンヌは実在していたんだ……。
これまでは映像や写真、または遠くから舞台を見て美しいなと思ってたけど、至近距離で見ると、あまりにも彫刻のようでもはや恐ろしくなってしまった。好きです。
あと全員スタイルが神なので、首を思い切り上げないと顔が見えない。終演時には首と肩の筋肉も死んでいた。SS席唯一の幸せなデメリットである。

しかしなんやかんやで当初思っていたほど狂うことはなく、お芝居は終了。登場人物それぞれをじっくり見ることもでき、音楽・衣装・世界観も堪能することができた。音楽めちゃめちゃ良い。
隣の友人も、ある程度落ち着いて見ることができたようで、無事二人とも生還を果たし、長蛇のトイレ列へ。

ただ並んでいる最中、次に控えるショーのことを考えるとまた動悸が止まらなくなった。
お芝居では何とか落ち着いて見れたものの、これからのショーはお芝居とは違い、スターからのウインクや目線が、惜しげもなくバンバン飛んでくるものとなっている。その様子を最前列で見ることができるのだ。

そして私は以前2回観劇した際に、とんでもないことに気付いていた。

3.前日譚

少し時はさかのぼる。
上にも記した通り、この直前の週末も2回ほど観劇する機会に恵まれていた。
連続で公演を見るのも初めてだったため、舞台の色々な部分を見よう!と意気込んで、新しいオペラグラスも買い、準備万端であった。

そんな意気込みで挑んだ初日であったが、案の定、贔屓の方にオペラが永遠に奪われる。お芝居で全景を見ている余裕がない。
ショーでも、激しく踊りながらも、コロコロと変わるその方の素敵な表情をひたすら追いかけ回していたのだが、ふとあることに気づいた。

今度座るSS席、贔屓の方の立ち位置すぐ近くでは?

ショーではスターの方たちが銀橋に並んで踊られることが多い。美しいお顔と華やかな衣装が、1列にずらりと並んで踊る様は圧巻という言葉に尽きるのだが……
今回銀橋に並んだ際の贔屓の方の位置は、友人に取って頂いた席のほぼすぐ右横だった。そして舞台上でも、私の座席から常に見やすい位置で歌い、踊っている。
見間違えではないか何回も確認した。顔の小ささといい、踊りのしなやかさといい、間違いなく贔屓の方である。噓やろ。

しかもショーの中詰めでは、銀橋にしゃがみこんで前列の人と目線を合わせるとかいう恐ろしい振りが用意されていた。その際の贔屓の方の立ち位置は私と友人の席の目の前。人生の運使い果たしたかもしれん。
いやでも最前列だったら近過ぎて逆に目線は合わないだろうし…とは思ったが、その姿を至近距離で見るだけでも十分致命傷である。

色々なことにキャパオーバーになりながら、その日の公演は終了し、偶然同じ観劇日程だった別の友人と合流。
感想等を話している中で、贔屓の方の目の前に座るかもと泣きつくと、宝塚沼歴の長い彼女は「その旨をファンレターに書いてお渡ししなよ」と即答。
ちょうど翌日もファンクラブでチケットを取っており、手紙自体はスタッフの方にすぐ渡せる。しかし肝心の便箋と封筒を家に置いてきてしまっていた。
私がそう言うと、彼女は力強く微笑んで言った。

「持ってきてるから好きなだけ書いて出そう」

あまりにも頼もし過ぎる……………。
今後、連続観劇の際は絶対にレターセット持参しようと誓った。
(※余談だが劇場にもレターセットは販売されていた。さすが宝塚。)

ということで、ホテルに帰ってから友人のレターセットをありがたく拝借し、今日の観劇の感想とSS席に座る日程と席番号を書いて、翌日ファンクラブでチケットを受け取る際にそのままお渡しした。
ただこの時点でもう2日前である。毎日多くの公演をこなし、他にもたくさんの手紙が届く中で、到底今すぐ読まれるとは思えない。
ほぼダメ元で、公演が終わった後に読まれて、あの時いたんだなと思ってもらえたら嬉しいくらいの気持ちであった。
そうして無事その日の公演を観劇し終わり、時はショーの開幕直前に戻る。

4.ショーの始まり

トイレも済ませ、体の準備は万端な一方、心は期待と緊張で全く落ち着かない。お芝居の時からそうだったが、手は冷たいのに手汗は止まらない状態であった。友人もお芝居の前よりそわそわしている。

開演の数分前に緞帳が上がり、撮影可能な舞台装置が現れる。
海を題材としたショーとのことで、海の上に浮かぶ月を表した装置も、間近で見ると迫力が違う。

夢みたいな景色

撮影を終えてスマホの電源を落としたところで、舞台装置の月が満月から新月へと移り変わり、劇場内の明かりが徐々に消えていく。
いよいよショーの幕開けである。

プロローグのアナウンスが終わると、場内が完全に暗転した。
しかしその最中でも、座っている席からは銀橋に走って集まってくる出演者の方たちの足がうっすら見える。銀橋の狭さを全く感じさせない、一糸乱れぬ動き(しかもほぼ無音)で集まって来られる様子に暗闇の中でまた圧倒される。
来るぞ来るぞ……と身構えていたところで、場内の明かりが一斉につき、銀橋に勢揃いした笑顔のスターの方たちが、とんでもない近さに現れた。

開幕眩し過ぎて見えん!!!!!!!

この俗に「チョンパ」と呼ばれる演出方法、非常に華やかなのである。
暗さに慣れた目に、物理的な光と、輝く笑顔のスターたち、スパンコールできらめく豪華なお衣装の3点が、助走をつけずに殴りかかってくる。まさに美の暴力
しかも今回はそこに距離の近さがプラスされている。目が眩むほどの美しさという表現があるが、それを身をもって理解する時が来るとは。

トップスターの方が歌い始め、音楽もスタート。視覚情報の整理がつかぬまま、体中の骨に美声が襲い掛かってくる。全身パニックである。
一瞬茫然としていたが、我に返り慌てて贔屓の方を探すと、見上げたすぐ右横で笑顔で踊られていた。その距離わずか1m未満。近過ぎて脳がバグる。というか近くでも見ても、等身がおかしい。顔ちっっっっっさ。あとシャツの開襟具合やばい。心配になるレベル。
もうこの瞬間から、私の目はその方に釘付けになっていた。恐らく口が半開きになっていたので、マスクがあったのが救いだった。

視線で追いかけまわしているうちに、プロローグが終わり、次から次へと場面が展開する。毎回思うが、ショーでの体感時間早すぎる。見たいところが多すぎて、あちらこちらに目を配っていると、気付けば次の場面になっている。ほぼ一瞬なのだ。
また今回はラテンショーということもあり、歌やダンスも情熱的なものが多く、少しでも気を抜けば一瞬の表情で撃ち抜かれてしまいそうだった。実際若手の方何人かに撃ち抜かれ、気になり始めてしまっている。

そうして夢中で眺めていたところ、気付けばショーも中詰め。早い。
相変わらず贔屓の方をメインで追いながらも、合間に他の方々にも目を配っていた。ただふと目の前にいる方を見上げた際に、時折ばっちり目が合って笑顔を向けられることもあり、その度に心拍数がカンストしていた。また他のお客さんへ向けたウインクや投げキスも、しっかり見えてしまうので流れ弾の飛んでくる頻度が大変高い。SS席怖い。圧倒的感謝。
また見ていて驚いたのが、どんなに激しい踊りをこなして歌っていても、息に乱れがなく、汗もほとんどかいていないこと。美しいだけではなく、体力も超人の域に達している。毎日厳しい稽古や1日2回の公演等に取り組みながらも、その大変さや疲れをつゆとも感じさせないパフォーマンスで、客席を毎回魅了するジェンヌさんたちは本当にすごい…としみじみ感動してしまった。

そしてとうとう贔屓の方が目の前にやってくる時間が来た。
これまでずっと遠くから眺めていた推しが、手を伸ばせば触れられる距離に存在していて、楽しそうに踊っている。
こんなに最高で幸せな景色が他にあるだろうか。
いや、ない。

もう至近距離で眺めることができただけで、充分幸せだわ…と感無量であった。死ぬ前に浮かぶ走馬灯の景色をもし前もって指定できるなら、あのときの景色を迷わず選ぶだろう。

しかしそれだけでは終わらなかった。

ダンスの最中、贔屓の方が目線を客席の足元に落とした際に、ニヤッと笑うのが見えた。直後、全員が銀橋にしゃがみこんで前を向く振り付けになった瞬間

バッチリ目と目が合った。

実際は1~2秒だと思うが、体感時間はその数倍長く感じられた。
完全にフリーズする私を尻目に、横の友人にもしっかり目を合わせ、再度私に目線を投げてから、彼女はすっと立ち上がった。
目をガン開きにして放心していた私は、友人から腕を小突かれて我に返る。

ファンレター多分もう読まれてる…!!!
嬉しさやら何やらでぐちゃぐちゃになった頭の中に、真っ先に浮かんだのはその感想だった。
書いた時点では、友人がどちらの席に座るか未定だったので、手紙には友人と一緒に行くことや、両方の席番号を書いていた。
恐らくそれを読まれて、私と友人の双方に目線を投げたのだろう。いやそうに違いない。私1人を狙い撃ちの目線であればただの偶然かと思うが、何せ一瞬の内に2人に向かってファンサしているのだから。(※オタクの妄言です)
また足元には、その贔屓の方のファンクラブで購入した、オリジナルの公演バッグを置いていた。客席の足元に目線を落とした際に笑われたのってそういうこと…!?(※オタクの妄言です)
もし読んで頂けていたとしたら、その内容を覚えていてくれたことが何より嬉しかった。あまりにも、しごできお姉さん過ぎる。そしておこがましいオタクですみません。一生推します。
始まる前は、もし偶然目線が頂けたら笑顔で返そうと思っていたのだが、実際そんな余裕は生まれず、真顔になってしまったことが非常に悔やまれる。

今まで私には3次元の推しというものがあまりできたことがなく、更にライブにもほぼ行ったことがないので、よくアイドルのライブでファンサを直接食らって死んだなどという話も、そんな世界もあるのか~などと他人事として見ていた。
が、今ならよく分かる。がっつり自分へと向けられたファンサがどれだけの破壊力を持つのかということを。「こっち見て♡」「ウインクして♡」などのライブでのうちわの重要さを、ここで学んでしまった。

何とか気を取り直し、そのあとの場面も食い入るように見ていたのだが、残念ながら目線を頂いた直後の記憶はほぼ飛んでしまっている。もう一回見たい。
終盤に近付くにつれ、沢山の素敵な場面があり、特に今回で退団される方たちを主とした場面では泣きそうになってしまった。オペラで見ていた時よりも、一人一人の表情の移り変わりがはっきりと分かり、目に焼き付けなければ…とここでも限界まで目を開いて見ていた。
そしていよいよショーの最後、幕が下りる前に出演者の方たちが客席へ手を振っていた際、贔屓の方に笑顔でこちらに手を振って頂いたことでまた死亡。でもこの時は拍手しながら何とか笑い返すことができた。
もう我が生涯に一片の悔いなし。

終演後、友人と固く握手を交わす。
連れてきてくれたことへの感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。
新幹線に乗り込むギリギリ前まで、お互い夢見心地で感想を語り合い、帰路につく。歩いていても、どこか気持ちがふわふわとしており、地に足つかずだった。
帰宅後は即贔屓の方へお礼と感想のお手紙を書き、翌日投函した。推敲をあまりせずに勢いだけで出してしまったので、怪文書と化していないか若干不安である。

その週の仕事がお粗末だったことは、言うまでもない。

5.現在

それからもう一週間近く経つが、未だ正気を失った状態である。
あれは幻?いや紛れもなく現実だった、と今でも脳内で自問自答している。
人生史上、間違いなく最高の観劇体験だったと思う。
また観劇前に手紙を出していて、本当に良かった。
ファンレター自体は以前からちょこちょこ書いて送っていたが、ちゃんと読んで頂けて、気持ちが伝わっていたんだなと思うと、とても嬉しい。例え読まれてなかったとしても、これからも手紙を送り続けることに変わりはない。だって好きだもの。
とりあえず大劇場公演が終わったら、また一通書こうと思う。今度はちゃんと落ち着いて書く。

そしてこの席を当てて、尚且つ声をかけてくれた友人氏には本当に頭が上がらない。夢のような時間をありがとう。これからはもっと私も徳を積みます。
あと手紙の便箋と封筒を恵んでくれた友人にも感謝を。

この日の記憶を噛みしめながら、来週は何とか正気を取り戻して現実に戻ろうと思う。東京公演に行けることを願って。















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