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Seymour Duncan JB™️ Trembucker TB-4

赤外線ピックアップやタッチコントロールも登場した21世紀。樹脂の弦でさえも振動を捕らえてデジタルでどんな音にも加工できる。先輩方が言っていたように時代は変わるのですよね。

鉄弦が磁場を動かして、単線密巻きコイルから電流が発生し、それが電気信号としてポットやキャパシタ、スイッチを介してジャックからアウトプットされる、電磁誘導を利用したマグネティックピックアップ搭載のエレキギター。

それが聴き分けられる変化かどうかは別にして、弦の太さ、ボディやネックの種類、各部金属部品など、弦を響かせる構造や仕様を変更すれば、弦の振動もそれなりの変化をし、弦の磁場のかき混ぜ方もそれなりに変化し、その極めて弱い電気信号は、その通り道でも変化し、最終的にアウトプットされる信号は変化して当然です。そのわずかな変化は、ケーブルやワイヤレスシステムを介し、エフェクター、アンプなどで増幅され、私達の耳に届きます。

音の入り口とも言えるピックアップが音を決める、という目線での要素はコイルとマグネット。マグネットの種類、マグネットの強さ、マグネットの位置、コイルワイヤのサイズ、コイルのターン数、ギター上でのピックアップの位置などなど。

ボビンに巻かれたコイル。この絶縁された銅線の距離が長いほど電気的には抵抗となりますので、ピックアップの直流抵抗値を測る事で、コイルワイヤーのサイズが関係してくるものの、ターン数が多いのか少ないのか程度は予想できますが、数値で語ろうとすると他の要素も必要になってくるかと思われます。

ネジであるポールピースを上下させることができ、マグネットとコイルの弦に対する高さも調整可能。マグネットの磁場が広い程、振動の影響範囲は広くなり、より複雑な倍音を拾うP-90からの流れを踏襲しつつ、更にハムノイズの打ち消しと相殺される高周波の倍音、大きな出力、様々な応用性を持たせる事を可能とした Seth Lover の Gibson Humbucking Pickup 。Humbucking Pickup は、GRETSCH の Ray Butts をはじめ、何人か開発をしていたようで、パテント競争的な側面もあったように思います。

シングルコイルピックアップと比べて複雑な構造が、アフターマーケットにおいて様々なタイプに発展させることが可能な要素が多くなる事になり、Seth Lover は後に Fender に移籍し、CuNiFe マグネットを使用した、Fender Wide Range Humbucking Pickup も生み出しています。

Seymour Duncan が Jeff Beck との仕事の経験から生み出したとされる、JB™️ SH-4。これだけ直流抵抗値が高ければ、バンドアンサンブルに不要な低音に伴ってハイ落ちするんじゃ…なんて考えてしまいそうですが、しっかりと明朗な音を奏でる、絶妙なバランス。

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JB™️の誕生秘話は先輩方に委ねるとして、シンクロナイズド・トレモロを搭載したギターの弦ピッチにマッチさせたTB-4は、ボビンが若干幅広くなる為か、抵抗値も高くなっている。

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マグネットは AlNiCo Ⅴ の中でもかなり磁力の高いものを選定し、コイルワイヤーは、AWG(American Wire Guage)44 という Fender Telecaster のフロントピックアップよりも細いゲージを使う事によって、決められたサイズのボビンの中で巻き数を稼ぎ、低域を上げつつも、高い磁力で高域を稼ぎバランスをとっているように思います。

まずはネック調整、ナットの溝確認とフレット整形。ギターに与えられた弦の響きを可能な限り稼ぎます。フレット整形こそがミソで、ここがダメだと、そのギターの性能は発揮できていないと言ってもよいくらいです。チューナーの種類、イナーシャブロック、サドル、サドルスクリュー、トレモロスプリングも Stratocaster  では大きな要素です。

このギター、1990年代アメリカンスタンダードシリーズのサドルとイナーシャブロックはダイキャストで、木部を生かした響きという観点では疑問符が付く部分ではありますが、安定したサステイン、ボディインサートを使用した2点支持トレモロという、スームースな操作感、スプリングの響きを生かせる構造によって、これにしかない響きを持ったブリッジだと個人的には感じています。サドル、サドルスクリューは変更したいところではありますが。

ピックアップカバーの大きさもストックのものと異なるので、ピックガード加工の際は注意が必要です。ブリッジやネックポケットなどと、ピックガード自体の位置関係も加味し、弦に対しての位置決めをします。

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ポールピースのセンターを弦が通る。各弦のアタックとボリュームの微妙な調整ができるという意味でも、ここはやはりこだわりたい。

オーナーとの相談で、まずは 5way switch 仕様で組み上げました。ネックピックアップにはスタンダードな、PAF系 AlNiCo 5 のものを選択し、センターには直流抵抗値の高めなストラトシングルコイル、こちらも AlNiCo 5 かと思われます。TB-4 は 4 conductor wire なので、それを活かしてハーフトーンはコイルタップ。

いわゆるHSHのサウンドで、まずはレイアウトの基本として、この仕様でオーナーにサウンドを聴いていただく必要がありました。しかしながら、エレキギターとして面白味に欠け、現場でも楽曲中での操作が難しい結果に。

このギターならではの音、このギターでしか出せない音を目指したい。ハムバッカー を2基載せているので、Les Paul model や Telecaster のようなベルサウンドも聴いてみたい、センターピックアップも載せているので、ハムバッカーとのハーフトーンや3ピックアップトーンも聴いてみたい。センターピックアップを単独で使う音はこのギターに求めず、ドライブさせた時にはハムバッカーにしっかり歌ってほしい。

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ポールピースのでないカバーを採用する事で客席からはセンターピックアップが目立たず、ピッキングの邪魔になりにくいバランスの良いルックスを保ちつつ、このギター独自の機能の両立を目指し、回路変更を施すことに。

まずは現場で使いやすいよう、3way switch に変更。コイルタップはせず、マスターボリューム、マスタートーンとし、ブレンドコントロールをフルアップでセンターをミュート、絞っていくにつれ、センターピックアップの音が加わる回路としました。

Position1 : ネックピックアップ
Position2 : ネックピックアップ + ブリッジピックアップ
Position3 : ブリッジピックアップ

ポジション全てにセンターピックアップの音を混ぜられますが、お察しの通り、センターピックアップ単体での出力は出来ない為、ピッキングも邪魔しにくいカバー形状が選択されています。この回路は Bill Lawrence が、当時 Centralab 社の 3way switch がデフォルトだった Jimi Hendrix の Stratocaster の為に考案したとされる回路の流用。
ちなみに5way switch は当時も存在はしていたようです。

「シングルコイルコイルとハムバッカー でハーフトーンを出す時はハムバッカー側をコイルタップさせる」これは打ち消される倍音を減らすなどなど、昔からのセオリーとして存在していますが、ご存知のようにハムバッカー のコイルタップサウンドは、好みが分かれる部分。

このギターはハーフトーンも3ピックアップトーンも、コイルタップさせずとも独特なクリーントーンを奏でてくれました。ハムバッカー2基のミックスとはまた違った、もうちょっと音圧下げたい的な場面で使えそうなストラミングサウンドを出すことができます。

配線材などのセレクトも重要になってきます。ピックアップから発生する信号は、スイッチ、配線、ポット、キャパシターなどのフィルターを通って、ジャックから出力されますから、その素材の選択によって気持ちの良い音にも、何かが足りない音にもなりえます。ピックアップのジャック直結のサウンドが、どこか味気ない音に感じてしまうのは、この辺りの関わりですね。

ブリッジポジション TB-4 単体使用では、エフェクターやアンプの入力ゲインを上げる事ができるので、ローパワー(笑)ピックアップと比較してボリュームコントロールとトーンコントロールの幅も広がり、いわゆるクリーン〜クランチ〜ドライブサウンド、及び音のエッジを手元で明確に操作できる事は現場ではかなり有利です。

ハイフレットでの軽いタッチの表現や、サステインが必要な、トレモロアームコントロールでの繊細なハーモニクスコントロール、スライドギターなど、小さな音がバンドアンサンブルに埋もれずにちゃんと前に出せて、フィードバックもコントロール可能。ギターの上手な、表現力としての技術を持った方には確実にその幅が広がるピックアップ。

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ところで、Seymour Duncan JB™️ これは Jazz Blues だ、という先輩もおられました。
日常、私たちが演奏させて頂く場はマスターボリュームを抑えたアンプを使用する場面がほとんど。小さい音においても表現力を失わず、アンサンブルに埋もれないという意味でも、個人的にはJazz にもBlues にもマッチする音質だと思っています。とにかくボリュームコントロールとトーンコントロールが活きやすい。

弦を響かせる構造を変えずに、サウンドをどうしたいのか。先にピックアップの直流抵抗値を測ってもワイヤーサイズが関係してくるものの、ターン数が多いのか少ないのか程度しか判断できないと書きましたが、どんな種類の磁石で、どのくらいの磁力を利用するか、パーツの構成はどんな選択をするのか、内部配線の選択も重要です。ピックアップ以外にも目を向けた方が、理想のサウンドに近道かもしれないです。最終的には数値ではなく、どう聴こえるかですから。

21世紀ですね。さすがに James Brown ですね。
ご協力いただきました、このギターのオーナーに感謝申し上げます。最後まで閲覧いただき、ありがとうございました。Pōmaikaʻi

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