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MCR「逆光、影見えず」台本冒頭(MCR5月公演WSオーディションに際して)

MCR5月公演に向けてのワークショップオーディションにたくさんのご応募頂いております、ありがとうございます。送って頂いたメールに目を通しているのですが、思った以上に「MCRを見た事がない」という人が多いんですよね、まあ、そりゃあそうなんでしょうけれども。
見た事がなくても全然構わないので、それはそれでなんの問題もないんですけど、逆にですね、見たことないのに大丈夫?歌ったり踊ったりがメインの舞台じゃないですよ?などという心配と共に、勝手に幻滅されても嫌だな、という小賢しい気持ちが芽生えてきまして、なんというか、オーディション当日はお互いに「ある程度の共通認識(イメージ)を持った上での邂逅」を期待したいじゃないですか、いや、僕は期待したいんですけど、このままだとなんとなく「お互いに損する瞬間」が生まれちゃうんじゃないかと思うんですね。
なので、MCRで上演した作品のですね、まあ、冒頭部分ですけど、それをここにアップするので、読んだりなんかして、ははあ、こんな感じなんだね、というのを理解して貰った上で参加して貰えたら嬉しいな、というか、当日がお互いにとって有意義な時間になるんじゃないかな?と思うので、まあ、読んでみてください、という感じです。
オーディション参加を悩んでいる方も、これを読んで「なるほど、これなら俺は辞めよう」などと判断してもいいかと思います。
※当日はこれを読むわけではありません
MCR+三鷹市芸術文化センターPresents 太宰治作品をモチーフにした演劇 第13回「逆光、影見えず」冒頭です。

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舞台上、川島が一人、ベッドに座って、目を強く閉じたり、瞼を緩く開けてプルプルさせたりしている。しばらくして妻の飛鳥がやってきて、その光景を眺めている

飛鳥「あなた」

川島「・・・(目を開けて、飛鳥を見る)」

飛鳥「変な事してるところ邪魔してごめんなさい」

川島「いや、いいけど」

飛鳥「・・何か食べます?」

川島「・・・」

飛鳥「食べたいもの言ってくれれば何でも作りますよ」

川島「・・・」

飛鳥「食欲ないでしょうけど、何か食べないと」

川島「小豆かゆ」

飛鳥「・・・なんですかそれ」

川島「おかゆに茹でた小豆を散らして、薄い塩味をつけたものだよ」

飛鳥「・・もう一回いいですか、え、おかゆに?」

川島「茹でた小豆を散らして、薄い塩味をつけたもの」

飛鳥「・・それはどういった料理なんですか?」

川島「俺の、田舎の、郷土料理みたいなやつだよ」

飛鳥「・・・え、ごめんなさい、もう一回いいですか」

川島「何がだよ、何が?」

飛鳥「おかゆ、おかゆに?」

川島「茹でた小豆を散らして薄い塩味をつけたものだよ」

飛鳥「おかゆに茹でた小豆を散らして薄い塩味をつけたものなんか寂しくなるだけ!」

川島「・・・」

飛鳥「今日はドナルドダックの誕生日だからピーナッツバター入りガーリックトーストでも作りましょうか」

川島「・・・ごめん、え、なに?」

飛鳥「大好物なんですって、ピーナッツバター入りガーリックトースト」

川島「・・それは、でも、俺の大好物ではないだろ?」

飛鳥「ドナルドの」

川島「そうだろ?俺はだって、小豆かゆが食べたいって言ってるもんね」

飛鳥「そんなもの、何が美味しいんですか」

川島「ピーナッツバター入りガーリックトーストの方がどうなんだよ」

飛鳥「私だって食べたことないから分からないけど、ピーナッツバター美味しいじゃないですか、ガーリックトーストだって美味しいでしょう、それぞれ美味しいんだから二つが合わされば凄く美味しいでしょう」

川島「そんなものは子供とアヒルがときめく理屈なんだよ、ちょっと考えればわかるだろ、お互いの主張がぶつかり合って喧嘩してるところしか想像できねえよ」

飛鳥「・・おかゆと小豆はどうなんですか」

川島「何がだよ」

飛鳥「・・・おかゆと小豆はどうなんですか!」

川島「何がだよ!」

飛鳥「おかゆと小豆が一緒になったところで喧嘩も出来やしない、喧嘩も出来ない関係なんてどう思います?寂しくないですか?物足りなくないですか?なんの刺激もない、お互いがお互いの邪魔をしないところで存在しつつ肩を寄せ合う、片腕のない人間と片腕のない人間が一緒になっても両腕にはなりませんよ、片腕のない人間が二人存在するだけですよ!」

川島「なんでも作るんじゃねえのかよ!俺が食べたいジャンルのものとは対極に位置するようなものを意固地に提示してくるんじゃないよ」

飛鳥「だってそんな、迫害されている地域に住む人たちが有難がるようなものじゃなくて、ドナルドが誕生日に食べて嬉しがるような物がいいでしょう!」

川島「病人なんだよ、病気なんだよ!」

飛鳥「病気だからって小豆かゆに寄せていくことないんですよ、あなた小豆かゆを食べることで病気に浸りたいのかもしれないけど、そんな事しなくても充分病気ですから、あなたがピーナッツバター入りガーリックトーストを頬張ったところで誰もガッカリしないし、あなたも頑張る事ない、病気っていう事にアジャストして、わざわざ弱々しい食べ物を食べる事なんかない」

川島「小豆かゆが食べたいんだよ!」

飛鳥「違うの、聞いて」

川島「意地悪じゃないかよ!」

飛鳥「意地悪じゃないの、そもそもで言えば、小豆かゆなんてこの世にないの、あなたが病気にアジャストした結果導き出した、想像上の可哀想なとろみなの」

川島「・・想像上の可哀想なとろみ・・?」

飛鳥「それをすすることで自分をその気にさせて、私の気持ちを引っ張りたいの、そんな事しなくてもあなたは病気だし、私は、もう、充分、悲しい」

川島「・・だとしたら、それがそうだとしたら、俺はまた別の意味で病気じゃないか」

飛鳥「あなた病気ですよ、だけどね、そっちの病気は、いいの、あなた、なんていうか、嘘つきだし、でもそれは悪い気持ちから出る嘘じゃないって事、解ってるし、いや、悪い気持ちから出た嘘もあると思うけど」

川島「・・・」

飛鳥「それはもう、仕方のない事だとわかってるから」

川島「・・だけどな、小豆かゆはあるんだ」

飛鳥「もういいですよ」

川島「それはあるんだ、確かに、いろんな嘘はついてきたし、じゃあ、あれだ、甲子園に行った事があるっていうのも実は嘘なんだ、けどな、小豆かゆはあるんだ」

飛鳥「甲子園も嘘だったんですか?」

川島「甲子園は嘘だったんだ」

飛鳥「でもあなた、高校野球を見るたびにじんわり泣いてた」

川島「甲子園は嘘だったんだ」

飛鳥「甲子園、チームで唯一出場機会のなかったあなた、最後の最後、代打としてバッターボックスに送られ、ワンボールワンストライクからの3球目、相手ピッチャーが投げた牽制球で一塁ランナーがアウト、あなたは一回もバットを振ることなくゲームセットを迎えた」

川島「嘘だったんだ」

飛鳥「その悔しさを教訓として人生を過ごしてきたと言ってたじゃないですか、ちょっとボールだと思ってもとりあえずバットを振っていく生き方をしてきたと言ってたじゃないですか」

川島「そういう生き方はしてきた」

飛鳥「そういう経験はしてなかったのに?」

川島「そういう経験はしてないけど、いつの間にか自分の中でそれはあったことになってた、だからあの悔しさをバネに今日まで頑張ってこられたし、高校野球を見るときに流れる涙はなぜだか本物だ」

飛鳥「病気だそれ」

川島「・・・しかし、小豆かゆはあるんだ」

飛鳥「ごめんなさい、小豆かゆ一回ごめんなさい、ちょっと分からない」

川島「何が」

飛鳥「私、甲子園だけは本当だと思ってました、それだけは信じてた」

川島「うん、でもさ、俺が嘘つきでも構わないみたいなこと言ったばっかりだよ?」

飛鳥「だってあなた、甲子園があったから今の自分があるんだって言ってたじゃないですか、それが嘘だったら、今のあなたはあなたじゃないって事になりますよ?」

川島「・・いや、だからそれは」

飛鳥「私はね?あなたと一緒になって、好きにならなければ良かったと思う事もあったけど、何故だか好きで、あなたの好きなところを探しても、それがいつの間にかぼんやりとしか見えなくなってて、何故だか好きだってことだけハッキリ見えるから、じゃあもう、それだけでいいやと思ったの、今そこにいるあなたを見て、そう思っちゃうんだから、後のことはどうでもいいって吹っ切ったの」

川島「・・・」

飛鳥「だけど今そこにいるあなたがあなたじゃなかったとしたら、私ちょっと分からなくなる、ねえ、私が好きだったあなたはあなたじゃなかったの?私はあなたの何を見て好きだと思ってしまったの?」

川島「そんな大げさなものじゃねえんだよ!甲子園に行ってようが行ってまいがここにいる俺は変わらないし、さっきも言ったけど大丈夫なんだよ、甲子園には行ってないけど甲子園行った奴より全然甲子園行ってんだよ!」

飛鳥「・・・ごめんなさい、それが本当に分からない」

川島「人生がたるみそうになった時、何事かをバネにしないと頑張れないだろ?ダルくてしょうがない時、レッドブル飲んで頑張ろうとするだろ?レッドブルなんて人工的に作った発奮材料ですよ、それと一緒でさ、俺の場合はたまたま、人工的に作った、甲子園で悔しい思いをしましたというレッドブルをだな、飲んでみたら凄い頑張れちゃったから、人生の節目節目で甲子園を使って自分を奮起させているうちに、行ったこともない甲子園がどんどん近づいてきて、だんだんとそれはリアルになり、いつしか俺と甲子園は完全にアジャストした関係になったんだよ」

飛鳥「・・・私のアジャスト取らないでください」

川島「お前のアジャストじゃねえだろ、お前こそどこから拝借してきたアジャストなんだよ、病気にアジャストするなんて言わないもん、変だよお前のアジャスト」

飛鳥「じゃあもう、絶対小豆かゆも無い!」

川島「それはあるんだ、それはあるんだ!」

飛鳥「あなたの中でいつしか本当になった嘘なんですよ、甲子園と一緒ですよ」

川島「そうじゃない、小豆かゆはあるんだ」

飛鳥「なんでそこまで」

川島「何が嘘で何がほんとかって話を突き詰めれば小豆かゆなんだよ」

飛鳥「本当のことは小豆かゆだけってことですか?」

川島「だけじゃないんだけど、小豆かゆはありませんって言われると、小豆かゆはありますって言いたくなるんだよ、小豆かゆはあるんだもん、それがなかったら、それこそ本当のことなんか一個もないような気がして怖くなるんだよ」

飛鳥「小豆かゆ、調べました、探しました・・・ありませんでした」

川島「嘘つくんじゃねえよ、怖がらせにくるんじゃないよ」

飛鳥「あなた本当にもうすぐ死んじゃうんですか?それも嘘なんじゃないですか?」

川島「それはホントだろ、お前と詳細を共有してるんだから、嘘つきようがないだろ」

飛鳥「今まで三回ほど留置所にぶち込まれたことがあるっていうのは、嘘でしょう?」

川島「嘘だよ」

飛鳥「二十歳の頃、女性と心中を図って自分だけ助かったっていうのも」

川島「嘘だよ」

飛鳥「小さい頃、鬼をからかいに行ったことがある」

川島「嘘に決まってるだろ」

飛鳥「私のことは」

川島「大好きだよ」

飛鳥「怖い!」

川島「流れが悪いじゃねえかよ!どうしたって悪くなる流れをお前が作ってんだよ!」

飛鳥「私の何が好きなんですか、あなたの好きな私はどういう私ですか」

川島「思い出してくれよ!そもそも俺は何食いたいか聞かれたから答えただけなんだよ、俺が小豆かゆなんて言わなきゃよかったね!ごめんね!ありがとう!」

飛鳥「私だって、あなたの好きなその私、実は嘘でしたって言ってやりたい」

川島「うるせえなもう、なんだよ、ごめんね、ありがとう!」

飛鳥「今日はそれじゃ終わらない、今日の私はごめんねありがとうじゃ引き下がれない」

川島「死ぬんだよ!死ぬんだよおおおおおおおおおおおおおお!」

飛鳥「俺は死ぬんだぞ、気持ちよく死んでいきたいのにザワつかせやがって、空気読んでさっさと引き下がれよ?」

川島「・・いやごめんだってそれはそう思っちゃうだろう、死ぬんだよ?」

飛鳥「だから自分自分になっちゃうんですよね?だったらそこに私のことも含めてほしい、自分の事しか考えられないのは分かるけど、自分の事の中に、私を気持ちよくさせる事が含まれてなかったら、それはなんだか、とても寂しい」

川島「・・どうすりゃいいのよ、ごめんね、色々と、とっ散らかっちゃって、何をどうすればいいのかちょっと分かんねえや」

飛鳥「・・・ほんとのこと教えて下さい」

川島「何が?どれ?」

飛鳥「最後に横にいるのが私でよかったと思いますか?」

川島「思いますよ」

飛鳥「もしかしたら違う今があったかもしれないって、そっちを空想して、そっちの世界で終わろうとしてません?」

川島「どういうことだよ」

飛鳥「ホントは無かった甲子園をあったものとして、今その世界で生きてるじゃないですか、あなた、そういうことできちゃう人だから」

川島「・・・お前でよかったし、ここでよかったですよ」

飛鳥「・・・」

川島「・・・」

飛鳥「・・・食べるもの、何か作りますね」

飛鳥は出て行く、川島が一人残る、川島は目をつぶり、目を強く閉じたり薄く開いたりする。
そこに紗也と小野(若い頃の川島)がやってくる

紗也「あなた」

川島は相変わらず目を閉じたり薄く開いたりしている

紗也「何か食べます?」

小野「・・小豆かゆ」

(転換)

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(写真:保坂萌)

とまあ、こんな感じなんですけど、まあ冒頭だけなんでよく分かんないかもしれませんが、雰囲気は掴めると思うので、よろしくお願いします、という感じです。

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