漢字を書くのをやめた3年生の女の子
小学校関係で仕事をしています。
WISCという検査をしたり、そこから支援方法を考えたりする仕事です。
WISCは、ウエスラーという人が作った知能検査で5歳から16歳11ヶ月までが対象です。現在はWISC-Ⅳが主流ですが、そのうちWISC-Ⅴも使用されるようになるでしょう。
ウエスラーさんは大人用や幼児用の検査も作っています。
小学校、中学校の児童生徒を対象にする検査では、このWISCが一番多く使われているようです。
とにかく、この検査で、個人の認知構造が明確になります。
ここで、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度の説明をするといいのですが、長くなるので、今回はおおよその説明とします。
一口に説明するのは難しいのですが、こんな感じです。
言語理解→物事を理解するのに言葉をどのくらい使っているか
知覚推理→目からの情報を利用しやすいかしにくいか
ワーキングメモリ→情報を聞いて取り込むことができるか
処理速度→目からの情報を認識したり書き写したりできるか
私の知っている小学校3年生のAさんは、知覚推理がとても苦手です。
目からの情報処理がとても苦手ですし、手先の動きが不器用で鉛筆で線を引くのが徳ではありません。
ただ、言語理解が得意ですので、自分の思いをきちんということができます。ニュースなどもよく聞いていて、総理大臣の名前も知っているし、台風がなんでギザギザに動くかの説明もしてくれます。
それだけよく物事を知っているので、私たちはAさんは学校の勉強はとても得意だと思ってしまいます。
小学校3年生で台風の進路について語れるなんて、普通じゃないと思ってしまいます。
学習内容的には天気について理科で学ぶのは5年生や6年生ですが、私が本当にその意味を理解して人に説明できるようになったのは、中学生、いや大人になって自分の子どもに説明しなくてはいけくなり慌ててネットで調べてからです。
いやあ、Aさん、あなたは素晴らしいよ。
ただ、漢字を正しく書くのは苦手です。
元々、薄い筆圧でした。それに、ややこしいところは早く鉛筆を動かすので、正しく書けているかどうか、はっきりわかりません。
お母さんが心配して「しっかり書きなさい」と言うし、担任の先生も「やり直しなさい」と言うので、ますます、乱雑で薄い字を書くようになり、私と出会った時は、「私は一切漢字を書きません」とまで言うようになっていました。
鉛筆で紙に線を引いてもらうと、指や手の使い方がぎこちなく、真っ直ぐなつもりでもヘロヘロな線が出来上がりました。
目の前で赤鉛筆を動かし、それを目で追ってもらうと、あまりスムーズではありません。
農業の「農」のような画数の多い字を書いてもらうと、横線が3本引いたり、変なところで交わってしまったりします。
「何本の線か分からなかったから、薄く書いていたの」
尋ねるとAさんは、首を傾げました。
そうなのかもしれないし、そうかもしれない。
そこで、真っ直ぐな線を引く練習をしました。
処理速度はそんなに悪い数値ではないので、何かを見つけたり写したりするのはそんなに苦手ではないようですが、細かいところを見極めるのは得意ではないようです。
漢字の練習の時は、「横線が◯本だね」とか「点は4つだね」と声をかけました。
そうすると、見て書くよりも正確に線が書けます。心なしか、筆圧も整い、濃い字で描けるようになってきました。
お母さんとお話しすると、「話すことは私よりしっかりしているから、漢字も書けるものと思っていました」とおっしゃっていました。だから、「漢字をしっかり書きなさい」と叱っていたと言うのです。
Aさんは、「なぜ漢字をしっかりと書けないの」と問われると、「面倒くさいから」と答えていました。
お母さんや担任の先生は、「そんなことを言ってはいけません。面倒でもしなくては」と言います。私も担任をしていた時は、そう言っていました。だって、面倒くさいと思って学習をしないのは、本人のためにもよくないと思われるから、です。
それに受け答えはしっかりしていて、物事がよくわかっているようですから、漢字だって書けると思ってしまいます。
漢字が苦手なのは、怠けているからだと考えてしまうのです。
Aさんはまだ8歳か9歳です。自分のことはよくわかりません。
注意されるから、できるだけ注意されないよう、薄い字を書いたりして誤魔化してその場を乗り切っていたようです。
いやあ、わかります。私も思い出せない漢字があると、薄く書いたりちょっと誤魔化したりしてメモして、後で調べたりしていますもの。
大人の私は、リカバリーの方法も知っていますし、漢字を正式に書く場面では困らないよう、あらかじめ調べておいたりしての対応策も心得ています。
でも、子どもたちにはまだ、そういうことができません。
彼らが取る態度は、大人から怒られないようにすること。
つまり、漢字が書けない子は最後h、漢字を書かないという態度を取ることが多いです。
WISC検査を受けてもらってよかったです。
そうでないと、Aさんはずっと、怠けていると思われ、「漢字をしっかり書きなさい」と注意をされて小学校生活を送るところでした。
子どもたちの姿、私たちが見えていて、そういう姿だと思っているものと、本物の子どもたちの実態はかけ離れています。
そのことを改めて学んだことでした。
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