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【ネタバレあり】なぜエヴァを見るために、映画館へイルカのぬいぐるみを持ち込んだのか。


「新世紀エヴァンゲリオン」
自分にとってエヴァとは、「オープニングの曲が人気なアニメ」でしかなかった。
大人になっても、知ろうとすらしなかった。


なぜそこから2021年3月22日に映画館に行き、「シン・エヴァンゲリオン劇場版(以後エヴァ2021と表記)」を見る羽目になったのか。
エヴァを見ようと思ったのは、エヴァに影響されたからではない。
違う動機が必要だった。そしてその動機は着実に積みあがっていたのだ。

2016年の「シン・ゴジラ」監督は庵野秀明。

私はどうしても謎だった。
アニメーションの監督である庵野秀明が、なぜ特撮ゴジラの監督をするのか。
私は別にゴジラに詳しいわけでも、アニメに詳しいわけでもない。自分の中では実写撮影とアニメーション作品は別ジャンルだ。
しかし「シンゴジラ」の内容は飛び切り面白い。
面白いので、再び疑問が浮かぶのだ。
「なぜアニメ監督が撮った邦画シンゴジラは、面白いんだろう?」
この思いは、次第に庵野秀明への興味となる。

次に積みあがった動機は「アオイホノオ」である。
熱血アホ漫画家「島本和彦」の若き日を描いた、自伝的漫画だ。

島本和彦とは、「炎の転校生」「逆境ナイン」「燃えよペン」「吼えろペン」などの名作を輩出しているが、極めてアホな漫画家である。
もっともらしい名言を、どでかいコマで迫真かのように映し出す。
「それはそれ!これはこれ!!」
そして「アオイホノオ」では島本和彦が若者特有のひねくれた心情を描写しているする。
まだデビューすらしていない芸術大学の学生が「俺だけが認めてやろう!あだち充!」などと言っている姿はとても滑稽で、面白い。

その漫画の中に、同じ大学の出身者として庵野秀明の姿もあった。
どうやら庵野秀明という人物は特撮が好きで、漫画的誇張表現なのか、突然ウルトラマンごっこをしはじめたりする。
そして職人気質すぎて、適当な作品を出そうとすると号泣して暴れだしたりする。
漫画化というフィクションフィルターを通しているのだから、「変人が誇張されもしよう」と思っていた。
「庵野秀明は特撮が好き」は「シンゴジラの監督が庵野秀明」であることに府が落ちた。
だが「なぜ庵野秀明がアニメ監督なのか」わからなくなった。
こうなったら、庵野秀明のアニメ作品を見るしかない。


そこで一挙放送でTV版エヴァを見た。
後半の内容は「未完成のまま終わった作品」と素人目線で認識した。
その後2020年「序」「破」「Q」もニコニコ動画で見られるようになった。
気軽に見たので、気軽に楽しめた。今までのアニメと同じ。
自分視点では、エヴァはまだ「だだのアニメーション作品」である。
そこまでエヴァシリーズに興味は湧きはしなかった。
なので、「新型コロナウイルスによる、エヴァ2021の公開延期」など、どうでもよいニュースだった。
だってそもそも自分が映画館に行かないもの。
映画館は暗いし怖い。幼いころはミュウツーの逆襲に行った時泣き出して映画館の外に出てしまった。
また映画館内では、隣の席に居る人間に気を使わなくてはならない。
昔友達と映画館に行った時、貧乏ゆすりを止められた。悪いことをした、嫌な思い出だった。

では、なぜエヴァを見に行こうと1年ぶりに電車に乗り、2016年公開の遊戯王ぶりに映画館へ行ったのか。
しかも、生まれて初めて、一人で映画館に行ったのか。
最後に積みあがった動機は「NHKプロフェッショナル仕事の流儀 庵野秀明スペシャル」だ。


庵野秀明をよく知る岡田斗司夫は、この番組を「とてももったいない内容」と釘を刺した。
だが無知な私には、あの強烈な映像光景で十分だった。

取材から逃げようとする庵野秀明からはじまり、後悔を口にしたナレーションからはじまり……あんなに「考察考察」と言われていたエヴァの設定を「ノープラン」とか言っていたりした。ばかなあ。なんでそんなことがまかり通っている? 何がしたいんだ庵野秀明は?

そこからようやくアニメ作りの内容へ。
「絵コンテを書かない」と言っていた。
ばかなあ!? 俺もアニメ作りを描いたアニメ作品「SHIROBAKO」を見たから、絵コンテぐらいわかるぞ。
絵コンテがどれくらいアニメに反映されるかも、わかるぞ。
庵野秀明はいったい何を言っているんだ。なんなんだコイツは!?

いやアオイホノオで知っていたはずだ。庵野秀明は、面白い作品を作るためなら何でもする。知っていたはずなのだ。
面白くない作品を作るなら、号泣して暴れだすのを俺は知っている。
プロフェッショナルで庵野秀明は「アングルが良ければいい」と何度も口にしていた。
そしてアングルを探すためだけのスタジオ。俳優を用意してカメラマンを何人も動かさせる実験的光景。
他人にやらせといて、滅茶苦茶に口を出す。
「ここまでしといて、まだ満足していないのか」
わがまますぎる、庵野秀明。その心情は、すぐ理解できた。

「面白くない、予想できた、つまらないと言われたくない」
「面白い絵が撮れればいい。見ている人の予想を超えるような、面白い絵があればいい」
面白い絵だけを庵野秀明は探しているのだ。
そのために外に出て写真を撮ったり、木で第三村を作ったりしていたのだ。3DCGの映像やプレピズをひたすら撮っていたのだ。
設定とか脚本とかは、庵野秀明にとって必要無いのだ。絵が最初で、設定は後付けだ。
庵野秀明は面白い絵を作るために、長時間編集室に引きこもる。平気で他人を苦しめ巻き込んで、金を浪費し締め切りを伸ばす。
それが庵野秀明だ。自分で血を流しながら、他人にも血を流させて作品を作り上げる、アニメーション監督なのだ。
その畜生っぷりは見たことがあった。
手塚治虫だ。

ブラックジャック創作秘話での手塚治虫は滅茶苦茶だった。子供みたいだった。庵野秀明も子供だった。


プロフェッショナル視聴後、庵野秀明の実物はまだ視聴途中だとわかった。自分にとってエヴァ2021は必要な存在になっていた。
誰もが苦しみながら作り上げた、狂気のアニメーション映像「エヴァ」
そんな道楽は、見なければ損だ。たった1500円でそんな狂気が見れるなんて、得すぎる。
しかし、自分は映画館は苦手だ。どうしよう?
三時間もあるらしいので、絶対トイレに行きたくなるだろうし、貧乏ゆすりもするだろう。

解決案はすぐ思いついた。
白イルカのぬいぐるみを映画館に持っていくのだ。
上映中にずーっとぬいぐるみを持っていれば、手は動かないので揺すりを抑えられる。
なにより、イルカのぬいぐるみを抱きかかえながら、映画館でエヴァを見るという自分の姿が滑稽で面白い。
あとは「なるべく水分を取らないように気を付ける」と思っておいた。
はい解決。
もはや自分と映画館の前に障害は存在しなかった。


そして、映画館上映。



パリの光景は、すでに見ていた。艦船の釣り糸は別に気にならなかった。
だってエヴァだし。庵野秀明だし。「そこに面白い絵があればいい」の人間だもの。アニメなのに特撮じみた釣り糸だってやるだろう。
そしてシンジ達は第三村へ。ビックリした。
トウジ達死んでないやん! かなりいい感じの、復興生活送ってるやん! 

そこで飯も食べず、何もしゃべらず引きこもるシンジ。
俺やん。単純に俺やん。引きこもって飯を食べようとせず、誰にも話しかけない時の俺やん。過去の俺じゃん。それ俺やって。
周りの奴も、いや周りじゃん。うつ病を出して俺が引きこもった当時のそのままだよ。
言っていることだーいぶ全部それだよ。
庵野秀明も鬱をわずらったとは言っていたけど、そのまんまじゃん! 原作は庵野秀明で、かつ俺やん!

そして生活を送るときに、人々に質問しまくる黒綾波。
「こんにちわってなに?」
俺もよくわかっていない。率直な疑問だ。なんで人間って奴は挨拶なんてするんだ?
すごく当然なことを、人間は説明しないまま生きている。
「ありがとうってなに?」
庵野秀明自身も言いそうなセリフだ。絶対言うよ。俺が言うもん。コミュニケーションが下手だから。
つまり俺は黒綾波であり庵野秀明なんだよ。庵野秀明も俺なんだよ。

鬱はかなりの間どうにもできないが、お話としてはシンジくんは動かないといけない。
この、かなり長い時間をつかった第三村光景は、とてもよかった。
俺自身も立ち直りかけている時期で、感情の移入がすごくできている。
あとはポップコーンキャラメル味を食べながら、戦闘のシーン。
意味のよくわからない用語は、とにかく絵を面白く映すための副要素として聞いていた。
設定とかどうでもいいんだ。とにかく強烈な絵面、アングルがあればいいんだ!
そうして気味の悪い綾波3DCGや、首のない人間の行進を受け入れていく。
とにかく庵野秀明は、見ている人を驚かせたいんだ。
たとえそれが雑だったとしても、人に衝撃を与えたいんだ。そして実際、アホだと思った。これこれこれぇ!
ゲンドウとシンジがエヴァに乗りながら戦闘するシーン。
……あれ、建物が軽快に吹っ飛ぶな。作り荒くない? と思ったらスタジオセットの背景が出てきた。そうやって整合性とるんだー! たーのしー!
ここが空想の空間でわかりやすく人間が認識している世界なら、背景とかいらんわなあ。
とにかく面白い図を、連続おかわりで出せる。
あーいい理屈だ。教室だの食卓だの、実際に縮図があわない場所で、好き放題エヴァが暴れている。この時の庵野秀明、ノリノリでしょ。

ゲンドウが予期せずATフィールドを張るシーン。するっと割り込むシンジ。ゲンドウの自分語り。
「一人が好きだった」
俺かよ。今までのシンジくんかよ。
いや碇ゲンドウは庵野秀明でもあるんだな。そして俺でもある。親戚がうっとおしいとか、全部つながるじゃん。

そうして大体のことはイコールで庵野秀明にして、イコール自分自身にすると、まあ楽しくて楽しくて仕方のない映画だった。
NHKで流れていた、ひたすら編集部屋にこもっていた映像が、アスカのエヴァ訓練モニターにかなり似ていた。
棒だけの人間で、誰が誰だかわからない時の、あの映像だ。

全部原作あるじゃん。全部庵野秀明じゃん。もしくはそれを追従していた俺じゃん!! 全部俺だよ!!!


岡田斗司夫は今回のエヴァは卒業式だと言った。
卒業式では感慨にふけるやつ、まだ終わらないでと泣くやつ、ぶつくさ文句を言うやつなどに部類される。
エヴァ2021はそんな感じらしい。自分の感想は違う。
あれは、全部庵野秀明で、全部俺なんですよ。
全てのシーンは庵野秀明の体験で、自分自身が体験したことでもある。
そう思うと、設定とかはどうでもよかった。たのしい映像だった。


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