1匹のアライさんがフェネックを拾う話

「今日も疲れたのだ……ツライさんなのだ……」

「大丈夫なのだ?いっぱいぎゅーっとしてあげるのだ!」

「ぎゅーっとするのだ!よく頑張ったのだ!」

感情を吐露すると、それを肯定してもらえる、それがこのアライさん界隈という存在なのだ。ここには『現実に疲れた元人間』が、沢山流れ着いていて、一種の国のようになっているのだ。

そんなアライさん界隈には、色んなアライさんがいるのだ。パートナーがいなくなってしまったアライさんや、自分の中にある感情が抑えられないアライさん、家のないアライさんに自分が誰だか分からないアライさんなど、多種多様なアライさんが生息しているのだ。

そんなみんなが肩寄せ合って、お互いに協力しあって自由にのんびりしている場所なのだ。

でも、自由な中にもいくつかルールが存在するのだ。

一つは【アライさん達を攻撃しないこと】で、これは言葉を使ってたくさんのアライさん達を傷つける、言論テロリストのような行為を指すのだ。みんな傷ついてこの界隈にきているのだ。これ以上傷つきたくないのだ。

もう一つは【フェネックを作らないこと】。どうやらアライさん達の運命の相手はフェネックとなるようなのだ。これは抗いがたい定めのようで、実際にアライさん達の中にはフェネックと仲良ししているアライさんもいるのだ。

でも、そんなアライさんは『他のアライさん達からよしよしして貰えなくなる』らしいのだ。フェネックによしよしして貰えばいいのだ!とみんなから言われてしまうみたいなのだ。

さっきから不確定な言葉ばっかり使っているのは、アライさん自身フェネックが出来たことないからなのだ。自分の身に降りかかることしか調べない主義なのだ。どうせアライさんに降りかかることもないのだ!あといくつかルールがあった気がしたけど、それも忘れちゃったのだ!ふははー!

「今日もみんなと楽しく過ごせたのだ!ご飯もちゃんと食べれたし、薬も……おお!薬を飲み忘れてたのだ!ちゃんと飲むのだー」

いつも通りの帰り道、いつものように、アライさん達からよしよしして貰って、アライさんは上機嫌で帰っていたのだ。

そんな中、誰かが道端に倒れているのを見かけたのだ。

無視することももちろんできたのだ。でも、アライさんのアライさんたる部分がそれを拒むのだ。

「大丈夫なのだ!?お水、丁度お薬を飲む薬を持っているのだ!飲むのだ!」

駆け寄って、水を取り出すしたのだ。でも飲んでくれないのだ。一瞬喉元まで“死”という文字が出かかったけど、ピンク色の汚れたお洋服越しに胸が浅く動いているのが見えたから、どうやら生きてはいるらしいのだ。

……ピンク色?アライさんの服は薄紫っぽいいろなのだ。それにスカートも土にまみれてるとはいえ白いし、髪の色も、耳の形も全然違うのだ……あ

「フェネッ…………!!!」

口から出かけた言葉を両手で塞ぎ、喉の奥へ仕舞い込むのだ。でも呼吸は荒くなるし、どうしようどうしようって頭の中はぐるぐるするのだ。

フェネックを作るとアライさん達からよしよししてもらえなくなるのだ。でもこのフェネックおこさまみたいだし、怪我してるのだ。アライさんはアライさん達と仲良くしたいのだ。でも……



「結局、連れて帰ってきてしまったのだ……」

ベッドにおこさまフェネックを寝かせてから頭を抱えたのだ。家が近場だったことと、丁度人のいない時間帯だったことが幸いして、誰にも知られる事なく自宅に帰ることができたのだ。

「……って!できたのだじゃないのだ!!まずは救急車を呼ぶべきなのだ!あぁー!ミスったのだ!これじゃあどうしようにもアライさんはブタ箱行きなのだ!」

のだぁぁー!と、頭を抱えながら床をゴロゴロ転がるのだ。こんな事しても苦情が来ない、防音設備のちゃんとしたところをアライさんは借りているのだ。

というのも、アライさんは独り言がめちゃくちゃ多いのだ。苦情がくるレベルで独り言を連呼する癖があるのだ。だから怒られないように、リスク管理をしっかりしているのだ。

ちなみにお医者さんはストレスが原因って言われたのだ。治すお薬もくれたのだ。でも飲んでも一向に良くはならないのだ……

「はぁ、今日はもう寝るのだ。明日ちゃんとフェネックとお話しして、おうちに返してあげるのだ」

ちゃんとごめんなさいすれば、このフェネックの親も許してくれるはずなのだ……


まぁ、この考えが浅いものだと知るのは、もっと後になってからなのだ。