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Written by PR team Sayo

スーパーデラックスというライブスペースが、西麻布のビルの地下にあった。2019年にクローズしたので残念ながら過去形だ。私は何度か、好きなアーティストの演奏を見に足を運んでいた。
初めて行ったのは、ぺちゃくちゃないとという、定期開催のトークイベントだったと思う。色んなバックグラウンドや興味を持つ人が色んな国から集まって、ビールを飲んでは出会って話す夜が、すごく六本木ぽいなと思った。

それからコーネリアスや灰野敬二などのライブを観に何度も行った。コンクリート打ちっぱなしのシンプルなフロアは、いわゆるステージがなくフラットで、行くたびにレイアウトが変わっていた。ライブハウスでありながら椅子やひな壇で座って見ても自然で、音楽だけでなくパフォーマンスにも向いている空間だった。

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バーカウンターではいつもジントニックを頼んだ。ライブのワンドリンクって、ゆっくり飲むからか美味しく感じるのが不思議だ。
そう言えば数年前レッドブルがスポンサーしたイベントの夜は、観客全員がレッドブルまたはアルコールのレッドブル割を飲んでいた(それしか提供していなかった)ので、部屋全体がレッドブルの匂いに包まれ、むせかえるという言葉の意味をそこで理解した。

2019年1月、クローズ1週間前に、最後に足を運んだ。京都を拠点に活動する、空間現代という大好きなバンドが東京でライブをするからだ。寒い外気を突っ切って、階段で地下に降りる。タイトでミニマルなバンドサウンドに合わせるように最小限の照明しかない暗がりの中、その日はビールを飲んだ。キリンの一番搾りで、ホップが香り美味しいと感じたのは久しぶりだった。グラスもちゃんと重みがあるガラス製で、味に影響したかもしれない。それでいて持ちやすい形とサイズのチョイスに、ライブハウスらしい機能美がある気がして、そんな些細なところに場所の歴史を感じた。

その日も音がめちゃくちゃかっこよかった。いま、その場所がどうなっているか、まだ見に行けていないが、形あるものはいつか壊れるので、建物も場所も永遠じゃない。移り変わりの速い東京ではいつもそれを実感する。
今年私たちは、その場所に人が集まることも、当たり前ではないと身をもって知った。
それでも場所の記憶は残る。それぞれの人の中に、また、形を変えた場所で続く生活の中に。まだ知らない東京の記憶を、もし1日だけ覗けるとしたら?…

Dramatic Diningはこの秋、浅草で、誰かの記憶に繋がる窓を開けて、お待ちしています。

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