相対音感

大学2年生の頃、バンドを始めた友達の練習に付き合ったことがある。付き合うと言っても、私はギターを音楽の授業で習った程度で、楽器の方は手伝えない。だから手伝うのは専ら歌う方だった。彼の練習する曲で、他のパートが歌う部分を代わりに歌って、彼のギターと歌の練習に付き合うのだ。

練習場所は大学の構内。夜の9時を過ぎると、学食もやっていないので、多少賑やかにしても苦情を言う人など居ない。そこは、屋根があって風雨が防げつつ、屋外で音が籠ることもない。そんな絶好の練習場所だった。
そんな場所で何曲かバンドの曲を練習する。彼に教わりつつ、ハモりのパートを歌う。そして、別の曲を練習する。今度の曲は、昨年に彼からオススメされ、MDで何度も聴いていた曲だった。そうしてハモりのパートを歌う。1回通した後、彼はギターのチューニングを始めた。私は他に彼の練習に付き合っていた同級生と駄弁る。
チューニングが終わり、彼が口を開く。
「お前の歌とギターの音が合わないと思ってたら、ギターのチューニングが合ってなかったわ。」
どうやら私は、ギターの音ではなく、自身の記憶を頼りに歌っていたようだ。そして彼は、私の歌とギターの音が調和しないことに違和感を覚えた。私は気付かなかった。
彼の音感の良さに驚きつつも、また練習を再開する。大学生の夜は、まだまだ長い。