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大谷翔平選手のFA動向について考える

はじめに

現地12/9(日本時間12/10)、FAとなっていた大谷翔平選手がロサンゼルス・ドジャースに入団することが発表されました。

あまりにも注目度の高いFAだったため、様々な情報が錯綜し、いくつか事件(騒動?)も起きました。

今回はこの一連のFA動向についてまとめるとともに、その裏側などを勝手に考察しようと思います。
一個人の勝手な意見なので、ぜひ参考程度に楽しんで頂ければ嬉しいです。

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過熱したFA報道

今回の大谷選手のFAにおいて、大谷サイドから交渉の情報は表に出さないようにとの要望があったようです。一部の記者からは、むやみに口外したチームは大谷サイドの怒りを買って獲得競争で不利になるといった情報も飛び出していたため(これが真実かは分かりませんが)、ほぼ全ての球団が大谷選手との交渉についてだんまりを決め込んでいました。

そのせいもあって、ウインターミーティング(WM)が開催された12月初旬ごろには、痺れを切らした記者達から「秘密主義すぎてつまらない、エンターテイメントに欠ける」といった批判が噴出するようになりました。

大谷選手のFA動向でたくさん記事を売るつもりが、当てが外れたのでしょうか。一方ファンはほとんどが大谷サイドの沈黙に一定の理解を示しており、「人生が決まるFAについて静かに熟考するのは当然で、FAがエンターテイメントである必要は無い。メディアは全く身勝手だ。」という論調が多かったように感じます。僕も同意見です。

結局日米どちらのメディアも「〇〇球団は✕✕という条件で大谷にフィットする!」とか「大谷はお金よりも勝利を望んでいるから〇〇球団が有力だ」といった根拠の薄い予想に終始することとなりました。

大谷トロント行きプライベートジェット事件

そんな中、日本時間12/9(ドジャース加入発表の1日前)、ついに事件が起こります。

きっかけはジョン・モロシ記者の「大谷の移籍先が今日決まるかもしれない」というXでのポスト。それに続いて「ブルージェイズは移籍先の最終候補に残っている」との投稿。

この投稿からまさかのブルージェイズと契約か?との憶測が広がっていきます。

さらにその後、テンションの上がったブルージェイズファンによって、アナハイム近くの空港からカナダのトロントへ向かうプライベートジェットがあることが発見されます。これに翔平が乗ってるんじゃないか?と大騒ぎになりました。

すかさずモロシ記者も「今日のトロント行きプライベートジェットに大谷が乗っているぞ!」と追撃します。

これはいよいよ大谷ブルージェイズで決まりか?と思いきや、これはすぐさま否定されることになります。ボブ・ナイチンゲール記者によって、大谷選手はトロントへは向かっておらず、南カリフォルニアの自宅にいることが明かされたのです。

では件のプライベートジェットに乗っていたのは誰だったのか?答えはカナダの実業家の方だったそうです。旅客機追跡サイトFlightAwareではこの日、このプライベートジェットの行方を1万人以上の人たちが見守っていたとか。

こうして大谷トロント騒動は、ジョン・モロシ記者の謝罪をもって全てが誤報ということで幕を閉じました。大谷選手は自宅にいただけなのに、記者達があれほど望んでいたエンターテイメントが皮肉にも本人の知らないところで繰り広げられる結果となりました。

このFAの構造について考える〈考察〉

大谷サイドの秘密主義もあってか、今回のFAはここまでで述べたように異例の盛り上がりを見せました。では、なぜこのようなことが起きたのか。

個人的な考えですが、今回のFAは大谷選手側に大きくパワーバランスが偏っていたことが根底にあるのではないかと思っています。

通常、かなりのスーパースターがFAになる場合でも、球団側との関係はせいぜい対等といったところでしょう。普通の選手であれば球団側の立場が上ということも多々ありえます。

しかし今回はあの大谷翔平です。
大谷サイドにイニシアチブがあると思われる出来事がいくつかありました。

具体的には以下の3点が挙げられます。

  • 球団サイドの箝口令

  • ブルージェイズの急浮上

  • メッツオーナーの発言

球団サイドの箝口令

1つ目の根拠は、先ほどから述べているように、大谷サイドが交渉過程を公開しないようにとの要望に対して、球団サイドが一斉に箝口令を敷いたことです。

もちろん相手が誰であっても交渉内容をペラペラ口外するような真似はしないはずですが、今回は表に出てくる情報量が極端に少ない点が特徴的でした。WMの最後にドジャースのロバーツ監督がようやくお漏らしした程度で、それ以外は本当に雲をつかむような噂や個人的な予想レベルの話しか出てきていませんでした。

これはおそらく球団側がかなりシビアに情報統制を敷いていたためと思われます。他の選手とは比べ物にならないほど、大谷選手の情報をセンシティブに扱っていたのではないでしょうか。

ブルージェイズの急浮上

2つ目の根拠は、ダークホース・ブルージェイズの急浮上です。

FA期間が開始した当初から有力候補に挙がっていたのはドジャース、ジャイアンツ、カブス、エンゼルス、ヤンキース、レッドソックス、メッツなどでした。そこからいくつかの球団について撤退報道があったのち、WM前ごろになって急にブルージェイズが浮上したのです。
結局ブルージェイズはドジャース、エンゼルスとともに最終候補まで残ったようです。

興味深いのは、真偽のほどは不明ですが、大谷選手はエンゼルス以外であればドジャースかブルージェイズがお気に入り、と関係者に言っていたとの報道があったことです。すなわち、ブルージェイズに対しては大谷サイドからアプローチしていた可能性があります。

ニューヨーク・ポスト電子版が「大谷はエンゼルスを離れるなら、ドジャースかブルージェイズが気に入っているようだ」との関係者の証言を伝えるなど、2チームがリードしているともされている。

https://hochi.news/articles/20231206-OHT1T51200.html?page=1

メッツオーナーの発言

そして3つ目の根拠は、メッツのスティーブ・コーエンオーナーによる発言です。

コーエン氏によると、メッツに対しては大谷サイドからの連絡が一度もなかったとのこと。それによって、大谷選手がメッツに来る気が無いことを察したようです。

これらの理由で、今回は大谷選手側のイニシアチブが非常に強かったと考えられます。行きたいチームに好きな金額の契約で行ける立場だったと言っても言い過ぎではないのかもしれません。

前代未聞の契約内容

さて、結果として大谷選手はドジャースと10年7億ドルというメガディールを結ぶことが発表されました。これはMLBはもちろん、北米スポーツも飛び越えて、世界のプロスポーツ史上最大規模の契約となります。

しかし、契約内容の詳細が明かされると、これがまた大きな波紋を呼ぶことになります。

なんと、7億ドルのうち6.8億ドルを後払いとし、ドジャース在籍の10年間は年間200万ドル(1ドル=150円とすると3億円)でプレイする契約になっているそうです!

この目的は、ドジャース球団の名目上の金銭負担を軽減するためです。

MLBでは、球団間の金銭面による戦力格差を是正するため、「ぜいたく税」という制度が存在します。
具体的には、メジャー枠選手の年俸の合計額が一定額を超えるチームに様々なペナルティが課されるというものです。

金銭的に余裕のある球団はぜいたく税ラインを超えてチーム作りをすることも多いのですが、それでもこの制度のおかげで無制限に補強をすることは難しくなっています。

そして、今回の大谷選手の契約金の繰延払いは、チームの総年俸を下げる効果があります。
これは、モノの値段は徐々に上がっていく(インフレ)ため、相対的に将来の通貨価値が下がることを考慮してチーム総年俸を算出する制度設計になっているからです。

大谷選手が繰り延べる6.8億ドルは、将来の価値で計算すると4.4億ドル程度と見積もられ、それを10分割した4,400万ドルが、年俸200万ドルに加算されます。
つまり、大谷選手がドジャースに在籍する10年間は、年俸4,600万ドルの選手として扱われます。
単純に7億ドルを10で割った7,000万ドルから比べると、大幅なディスカウントです。

なお、換算値に直したとしても、10年総額4.6億ドル/年俸4,600万ドルはどちらもMLB史上最高額という契約設計になっています。

この契約形態が明らかになると、主にファンの間で不満が噴出します。

一見すると「チームの補強資金捻出するために自分の年俸削ってる、やっぱ大谷翔平すげー!」となりそうですが、他球団のファンからするとたまったもんじゃありません。

ただでさえ資金力があり、ここ11年で10度の地区優勝と戦略面でもMLB随一のドジャースが、大谷選手を加えた上で、なんかよく分からない方法でさらなる補強資金枠を生み出しているわけです。

もちろん契約金の繰延払いによるチーム総年俸の削減は、これまで他の選手の契約でも用いられた手法です。

しかしながら、今回はその規模が前例とあまりにも違いすぎます。7億ドルというパッケージの規模も、その約97%という繰延払いの規模も、前代未聞です。

なお、以下のジェフ・パッサン記者のポストの通り、規定では繰延払いに上限などは設けられていないため、今回の大谷選手の契約はなんらルールに違反していません。

ちなみに今後のMLBの選手-チーム間契約に悪影響を与えるのではないかとの指摘もありますが、個人的にはそれほど影響ないと考えています。

「向こう10年間200万ドルでいいぜ!」なんて言う変態トップメジャーリーガー、大谷翔平以外に考えられないでしょう(笑)

しかし、一応大谷選手の前例ができてしまったので、繰延払いの規模に今後何かしらの制限が加わる可能性はあるかと思います。ただしそこに踏み込んでくる選手はいないでしょうから、実質的に大谷ルールが増えただけというオチになる可能性が高そうです。

大谷選手の契約は絶妙なバランスにデザインされている〈考察〉

さて、この契約の意味について考えていくと、これがいかに美しくデザインされた契約になっているかが見えてきます。

ポイントは以下の4点です。

  • 大谷選手には世界最高の契約を掴むだけの価値がある

  • 大谷選手の契約はMLBのトッププレーヤーとして当面の間「天井」になる

  • 史上最大規模の契約はチームの補強の柔軟性を著しく低下させる

  • 繰延払いを考慮してもMLB史上最大の契約になる

大谷選手には世界最高の契約を掴むだけの価値がある

これは異論無いでしょうし、大谷選手の周囲やMLB機構は彼が世界最高の契約を結んでくれることを望んでいたでしょう。それが野球というスポーツの世界での地位を向上させることにもつながります。

大谷選手の契約はMLBのトッププレーヤーとして当面の間「天井」になる

大谷選手は今や完全にMLBでナンバーワンの選手です。彼の契約は当然これまでの契約規模を塗り替えるべきですが、将来的にも当面の間はナンバーワンであり続けるべきです。

すなわち、大谷選手の契約規模は当面の間「天井」として機能します。

もし大谷選手の契約が5億ドル程度に収まっていた場合、他の選手はそう簡単にこれを超える契約を結ぶことができません。「お前は大谷よりもスゴイのか?」と言われたときに、自信満々にYesと答えられる選手はほぼいないでしょう。

したがって、現状のナンバーワン、マイク・トラウト選手の4.27億ドルを大幅に超える7億ドルという数字は、「天井」として十分に余裕のある金額です。他の選手からすると、まだまだ契約規模の増大が期待できるラインでしょう。

史上最大規模の契約はチームの補強の柔軟性を著しく低下させる

しかし、7億ドルという契約は、チームの柔軟性を著しく低下させます。ぜいたく税の設定ラインは年間7,000万ドルという超高額契約など想定していません。

そこで、先ほどの繰延払いです。これによって実質的な契約価値は4.6億ドル(4,600万ドル/年)にまで圧縮されます。チームとしてはかなりの高額契約を抱えていることにはなりますが、マックス・シャーザー投手やジャスティン・バーランダー投手など、近い契約規模(どちらも4,333万ドル/年)の選手はすでに実在しています。

とはいえ、これは大谷選手の自己犠牲ありきの話です。向こう10年間、大谷選手は200万ドル/年という控え選手以下の年俸でプレーすることになります。後払いにより総額7億ドルもらえることは当然確定しているのですが、インフレによる通貨価値の低下や資産運用の機会損失などによってかなりの損をしています。もっとも、大谷選手はスポンサー収入などフィールド外での収入も莫大なため、彼だからこそ実現した契約かもしれません。

一方、チーム側としては、浮いた資金をさらなる補強に充てることができるメリットはありますが、10年後から10年間6,800万ドル/年の支払いが控えていることには大きなリスクもあります。自分の会社が10年後も安定していると自信を持って言える人がほとんどいないように、チームの財務状況によほどの自信が無いと結べない契約でしょう。

したがって、Win-Winなどでは決してなく、下手をするとLose-Loseの契約にもなりかねません。それでも大谷選手とドジャースはチームを強くする道を選んだということです。

繰延払いを考慮してもMLB史上最大の契約になる

繰延払いを考慮した契約規模は、10年総額4.6億円です。実質的にこの契約は10年4.6億ドルと考えるべきでしょう。しかし、これでもMLB史上最大の契約です。

すなわち、

  • 野球の世界的な地位向上に貢献しつつ、

  • 他の選手の契約規模増大の余地を残しつつ、

  • チームの柔軟性に対するダメージを抑えつつ、

  • 実質的にMLB史上最大の契約であることは変わらない

という極めて高度にデザインされた契約内容になっていると思われます。

どこまで狙って設計されたのかは分かりませんが、結果的に多方面に良い影響を与える絶妙なバランスになっています。

さいごに

規格外の注目を浴びた大谷選手のFAについてあれこれ邪推を働かせてきました。
FA動向も、その契約も賛否が巻き起こったわけですが、それほど皆が贔屓のチームに彼が来てくれることを期待した証だと思います。

結果的にドジャース入団が決まったわけですが、発表当日のドジャースとMLBの公式Xのハイテンションぶりは個人的に面白かったです(笑)

ドジャースではムーキー・ベッツとフレディ・フリーマンというMVP経験者達と共にラインナップを形成することになるため、エンゼルス時代のようにあからさまに勝負を避けられるシーンは減ると思います。

現実的にワールドチャンピオンを狙うことができる戦力ですし、大谷選手がキャリアハイの打撃成績を残す可能性も十分期待できます。
2024年シーズンが早くも楽しみになってきました!

大谷選手の入団を機に多くの人がドジャースに興味を持って、好きになってくれることを祈っています!
来年は皆で一緒にドジャースを応援しましょう!


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