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EScape『Melty Fantasia』聴了記録

機械だって涙を流して 震えながら勇気を叫ぶだろう

星野源「ドラえもん」

高度に発達したAIと人間の思考パターンに、違いはあるだろうか?
数十億の脳細胞の働きによって生み出される人間の精神性。途方もない演算と深層学習によって造り出された人工の知能。その境界とは果たして何か?

人間の脳機能にはブラックボックスがある。現代の科学で解明できない領域があるからこそ、そこから感情という得体のしれないものが湧いてくる。
であれば、いつか人工知能が独自に発達し、彼らを開発した人類自身が解読不能なコードが現れた時こそ、それがAIによる自我獲得の瞬間なのだろう。

不明、不能、不可思議。
合理とはかけ離れた、生命体にはおよそ不要な心の贅肉。
地球上でたった一種、我ら霊長の盟主こそが持ち合わせた欠陥。広く宇宙を探せど、こんな無駄な機能を持った生物はなかなかいないだろう。
それを美しく、あたたかく思ってしまうのは、我々が人間であるからなのか。
その是非を知る術を、人類は今のところ持っていない。少なくとも、2045年まではそうだろう。



と、気取った前置きはさておき。
今回はアイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズのCD
『THE IDOLM@STER MILLION THE@TER GENERATION 08 EScape』を視聴した。
こちらは先輩Pに借りたCDの内の1枚で、特に事前説明もなく自分も知らない作品だったので、完全初見で臨んだものだった。
うん、いや…………。

めっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっちゃ良いですね。

まず何が良いって人選。
今回のドラマは3機のアンドロイドが主軸となる話だが、そのキャストとなったのが真壁瑞希、白石紬、北沢志保の3名のアイドル。
普段からポーカーフェイスで抑揚のない喋りをする瑞希。
凛とした佇まいが高価な人形のようでもある紬。
物静かでクールな志保。
3人の個性を活かしたドラマがとても良かった。

ドラマのあらすじは、人類がAIによって管理されている未来世界を舞台に、かつてのレジスタンスのリーダー、如月千早を監視する為に遣わされた3機のアンドロイドたちが、千早との交流や葛藤の果てに“心”を得て行くというSFストーリー。

『ブレードランナー』や『イヴの時間』が好きな自分にはあまりにも刺さった。
そもそもの話をすると、瑞龍は自我が希薄な少女が感情を得る系の物語が大好物であり(文ストの泉鏡花、閃の軌跡のアルティナ、銀魂の信女など)、この話は根源的に性癖だったりする。
しかもそのキャスティングが瑞希、紬、志保……?
はぁ…………すこるぞ?

淡々と紡がれるアンドロイドたちの語りに対し、温かみの溢れる千早の名演。お前……病弱キャラ滅茶苦茶合うな……。
屋敷での平和な一時と、苛烈な銃撃に晒される緊迫の場面。対照的に描かれるシーンの演出も上手い。
SFとしては使い古された王道ストーリーながらも、アイマスらしく少女たちの関係性を軸に、希望を繋いでいく為の物語にした脚本も妙。
大変クオリティの高いものを摂取させていただきました。


尊いもの

さて、簡単に全体について触れたことだし、感じたことについてポロポロと書いていこうと思う。
物語のラスト、ミズキ、ツムギ、シホの3機はセリカ型部隊に囲まれ、彼女らの圧倒的な火力に晒され、徹底的に破壊されてしまう。3機は自身の記憶データをエクスポートし、いつか来る誰かの為に大切なココロを保管する。

アンドロイドは人間と違い、子孫を残せない。彼女たちが残せるものは、彼女たちが経験し、集めたデータだけだ。
これは自分個人の考えだが、この世界において真に価値あるものとは、物質ではなく、それらに付随、あるいは無から発生する感情にあると思っている。
価値とは、結局どこまで行っても、人間の物差しでしかない。衣食住、金銭、嗜好品。最後に行き着くのは人間の感情論だ。
であれば、物品に代えられないココロ、感情。それは、この世の何よりも尊いものではないだろうか?

だから自分は本や物語が好きだし、自分の感情が揺れ動かないものには一切金をかけないことを信条としている。逆もまた然りだ。
それらを得ていくアンドロイドたちの過程や、千早の儚く遠い願いに感じ入るものがあった。

シホ

ちなみにお気に入りのキャラはシホこと識別コード33だ。
おそらくシホはミズキやツムギよりも先に感情(あるいはその片鱗)が芽生えていると思われる。
ミズキ、ツムギが千早に名前をつけてもらった時の反応や、千早を襲った際の独断行動などはその証左。
『誰ソ彼ノ淵』でもそうだったが、シホはクールに見えて一番激情家なところがある(役を演じることが多い?)。
普段は何事にも興味なさげに振る舞いつつも、努力家で真剣で意外と熱血で、そんでもってポンコツな彼女のことがやはり自分は大好きだ。

余談だがミズキの「あなたもココロを手に入れたのですか」というセリフを聞いた際「きみも、心を……取り戻したんだね」という某永い後日談TRPGのキャッチコピーを思い出してニヤニヤしていた。


千早

これは邪推だが、一連の流れが全て千早の手のひらの上だったのでは?と思えてならない。
千早と接触したアンドロイドは思考回路に異常をきたす。それは以前から千早と交流のあったセリカも例外ではない。
ココロなんて曖昧なものをエクスポートしてデータ化し、他者へと受け渡すことができるのはアンドロイドだけだ。
千早の狙いは、最初から3機のデータをセリカ経由でマザーへ流し込むことだったのではないだろうか?自分が犠牲になることを織り込み済みで。
そんな思考をしてしまうほど、このキャラクターとしての千早の奥深さ、そしてそれを演じる如月千早自身の人間性が複雑で底知れず、魅力的なのだ。


斯くして――

3機のデータは、マザーへと渡った。

その結果、マザーにどのような変化が起きたのか。世界にどんな影響が及んだのか。それは劇中では語られていない。

マザーAIは自己矛盾で崩壊し、世界はまた秩序を失い戦乱の世が訪れるかもしれない。
あるいは自己修復プログラムによりデータは排除され、世界は何事も変わりなく、水槽の日々が延々と繰り返されるかもしれない。
しかし、それはこの物語には不要な後日談だろう。

重要なのは、彼女たちアンドロイド3機は、大切な人から託された大事なものを、確かに誰かに伝えられたこと。
そのために、必死で抗い、満足してその生を終えたこと。

これはいつかどこかで言ったことだけど、死そのものは物語の終わりの一つのカタチでしかなく、それ自体が悪いことではない。
勝利も、敗北も、結婚も、死も、数多ある最後の一行のひとつで、当人がその結果に満足して物語が終えられたなら、それはハッピーエンドなのだ。(からくりサーカスで鍛えられているので)
3機はしっかりと役割を果たし、お互いのあたたかさを感じながらその機能を停止した。
だから、この物語は尊いものだ。愛すべきハッピーエンドなのだ。


そして、5トラック目。
ミズキは夢を見る。
明るい日差しの下。爽やかな風が頬を撫でる。
穏やかに微笑み、お茶会の準備をするツムギ、シホ、そして千早。

この夢に、このトラックに、何か意味はあるだろうか?
これは、ミズキの記憶領域に残った記録の残滓。現実世界には何の影響も及ぼさない、儚い夢。
そこに意味は無く、意義は無い。
これがあることで物語が救われることも、世界が変わることもない。

これはただの幸せな夢。時間の無駄。リソースの余り。心の贅肉。
ああ――それなら、とても素敵だ。
アンドロイドは友人たちとのお茶会の夢を見る。
その無駄を得られたことこそが、彼女たちが真に尊いものを得られた証なのだろう。
それは何の救いにも結果にもならないけれど、ただただ、その事実だけが嬉しかった。


つまり何が言いたいかと言うと
自我が希薄な女の子が感情を得ていく展開っていいですよね!!

と、こういう感情を爆発させる大満足の1枚でした。
大変満足。美味しくいただきました。
ありがとうございました………………。

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