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かくれんぼのようだ

あの日、月光に溺れたぼくは記憶の海を漂っていた。見えない月の光を全身に纏い、息苦しく深く重い漆黒の闇に己を喪いながら、散らばった言葉の欠片たちをただなぞっていた。まだ隠れたままの月が脈を打つたびに記憶の潮は引っ張られ、その引力のみで項は捲られ、一枚捲るたびにぼくは息を吐くことを遠い忘却に見ていた。18個の項を捲ると、見えないはずの月が現れ一筋のうすい光がぼくを射た。そしてぼくは無限の宇宙に放り出された。根拠などない、しかし確信に満ちたその一筋に射たれたぼくは、無限の宇宙で一瞬の果てしない夢をみた。そこは月の裏側だった。無意識のぼくをここに導たのはあの確固とした月光を産んだ母だ。遠くで聞こえた瞬きの音でぼくは此処にいた。母の呼ぶ声にたった今目を覚ました月の子はおはぎがないと駄々を捏ねている。ぼくは月の裏側で月の子を見つけた。





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