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(一般の方向け)「身内が〇〇なんです」と伝えることのメリット・デメリット


僕のスタンス

僕は医療従事者の家系でもなく
親は普通のサラリーマンだったので
身内の中に医師は僕しかいないんです。

だから
身内が医療機関に受診する時に
よく相談されます。
その時に、よく
「身内の僕が医者だっていうことを
担当の先生に伝えてもいいけど、
伝えるタイミングやトーンには
十分気をつけてね。
逆効果になることもあるから。。。」

と伝えています。

僕の発言の真意がわかっていただけますか?

今回はそのことについて解説してみたいと
思います。

身内に医療従事者がいると言われた時の担当医のアタマの中

「身内に医療従事者がいる」
というのは、
「俺のバックにはヤクザがついてる」とか
「私は〇〇会社の重役だ」とか
「私はおたくの病院の院長と友達だ」とか
「私の友達には弁護士がいる」などといった

自分に箔をつける、大きく見せる
騙されないように牽制する

などといった効果を期待しているのかもしれません。
(上記については過去にすべて言われた経験があります^^;)

もちろん、伝えることは
一定そのような効果を生み出すと思います。

ただ、この効果は良い面もあるし、
逆効果になっていることもあることは
理解しておくべきでしょう。

まず、身内に医療従事者がいると言われた場合
僕が考えることは3つあります。

一つ目は、
「職種」
医師であると言われた場合には、
「どこの病院の何科の医師だろうか?」
ということ

二つ目は
「あまり適当な発言はできないな」
ということ

三つ目は
「あまり尖った提案はしにくいな」
ということ
です。

一つ目「職種」or「何科の医師」

職種をまず聞くのは、
同じ医療従事者でも
職種や部門によって
医学的知識の広さや深さなどにはかなりムラがあるから
ということと、
その見識に対するスタンスのズレがあるからです。

そして、
非常に勝手な意見で申し訳ないですが
僕の中では
「身内に看護師がいる」
というのは
警戒レベルを2−3あげる要因となるワードになります。
(個人的見解です)

僕たち医師は
幅広い医学的知識を、なるべく偏りなく
フラットな目でみる訓練
を長年受けています。
(と思いたい)
ですが、残念ながら他の職種の方と話をしていても
このリスク・ベネフィットの視点で
お互いの意見が完全に合致することは
非常に少ない
んです。

リスクを過大に評価している、
もしくはベネフィットを大きく見積りすぎている

ことが多いように思うのです。

もちろん人間なので
僕たちも完全にフラットにみているかといわれると
そうじゃないかもしれません。

でも身内の医療従事者からのアドバイスを受けている場合、
「なぜ〇〇をしてくれないんだ」とか
「〇〇を受けるように言われている」などと言われたり
逆に
「この薬は副作用が大きいからやめるように言われた」
など偏った意見を言われる患者さんが多い
と感じています。

では身内が医師の場合はどうでしょうか?
僕の場合、他の医療従事者に比べ話しやすくなるな
という感覚はあります。

僕は内科医なので、同じ内科の医師だったとしたら
まずその先生がどのようなアドバイスをしたのか聞いてみます。
れによってある程度疾患への理解度がわかるからです。

その他の外科やマイナー科の先生だとしたらどうでしょう?
その先生の病院内での立場は気にするかもしれませんが、
それ以外にはあまり気にしないかもしれません
良くも悪くも細かく言われたことがないので(笑)

ですが、情報提供する際には気をつけますね。
それはその2にもつながります。

その2「発言リスク」

昨今の医療業界は訴訟リスクの嵐です。
当然その矢面に立たされている医師は
最大限警戒しています。
(医師はあらゆる検査治療の責任を負わされています)

診療中に
隠したレコーダーで発言を録音している方も
いらっしゃるかもしれません。

そんな中、
普段僕たちは説明の際には
あまり詳細に情報を伝えても
患者さんのキャパオーバーになってしまい
大切な事が抜け落ちてしまう懸念から
ある程度端折って伝えることが数多くあります。

でもこれって説明不足ですよね?

また
ある程度信頼関係が出来上がっている患者さんとなら
僕の意見を前面に押し出した言い方をする時もあります。

完全にフラットに情報を伝えて、
「どっちにしますか?」
と言われても決断できる人の方が少ないからです。

ただこれも偏った意見ととられかねないですよね?

医療従事者の方であれば、
上記の情報が(あえて)減らされている
ことに気がつくはずです。

でも不十分?な説明のまま治療を受け、
よい転機を辿らなかった場合、
担当医師は医療訴訟リスクに怯えることになります。

なので
身内に医療従事者がいると言われた場合、
ある程度理解しにくいことは分かった上で
フラットに情報をお伝えするしかない

と僕は考えます。

それを聞いてどうするかは、
その身内の方と自身が決めればよい話ですので。
(これが本来に欧米式のインフォームドコンセントの形でもあります)

でも聞いている本人が100%理解できることはないでしょう。
医療情報を咀嚼しやすい形にするにも限界はあります。
(余談ですが、テレビで話している医療情報のほぼ100%は
偏った情報提供になっています。ある意味仕方がないけど。)

その3「尖った提案はできない」

身内に医療従事者がいる場合、
おそらく該当疾患のガイドラインくらいは
目を通してアドバイスしているはずです。

このガイドラインがある意味やっかいでして。

ガイドラインに逸脱した治療をした場合には
訴訟を起こされた際に高率で敗訴する

病院勤務時代の顧問弁護士に言われたことがあります。

ガイドラインというのは
一種の平均点を誰でもとれるマニュアル的なもの
とも言えます。

逆に、仮に世界最高の治療法があるとしたら
それはガイドラインには書けない
独特な力加減を要する個別的な治療法

ということになるでしょう。

僕たちはいくつかの治療選択肢の中から
常にベストを模索します。

ただこのベストにも色々あって
ベネフィットを最大化するのか、
リスクを最小限にするのか、
高いバランスで両立させるのか

という観点では時に提案する治療方法が異なる
ことは往々にしてあります。

そして、
時にその選択肢はガイドラインには書いていない
もしくは若干逸脱する治療法かもしれません。

この3つの選択肢のうち、
ベネフィットを最大化する方法というのは
リスクも伴うことが多い
ので、
訴訟リスクも高まります。

当然それまでの僕と患者さんの信頼関係次第で
この提案ができるかどうかが
決まってしまうわけです。

冒頭の話に戻ると、
身内に医療訴訟リスクの高い医療従事者がいると
言われた際には、
自分の考える
”ベネフィットを最大化したベストな提案”
は非常にしにくくなり、
無難な提案に終始する事が多くなります。

僕が患者ならこれは明確なデメリットだと感じます。
自分の信頼する先生のベストチョイスが
提案されない可能性があるわけですから。

以上です。
長文になってしまいました。

ここに書いたのはあくまで僕個人の感想ですし、
気を悪くされた方がいたらごめんなさい。

医療従事者が身内であってもほとんどの場合は
円滑にコミュニケーションがとれ通常通りの診療はできています。
ただ長年医師をしているといろんな出来事に
出くわすのでね。。。

それでは、また。



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