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第3回内科専門医試験 神経ブロック解説

私は第2回を受験しましたが、今年も神経ブロックは難しかったようです。

総合内科専門医(新内科専門医)勉強会オープンチャットhttps://line.me/ti/g2/7VAcgzB7VwwSqHg6TxcRJj4txzPDDASDfLDQXg?utm_source=invitation&utm_medium=link_copy&utm_campaign=default

こちらより引用させていただき、神経ブロックの解説を作成しました。ご意見等はメールいただければ幸いです。

また、神経内科専門医試験で問われる内容には★をつけております。専攻医の先生の参考になれば幸いです。

【クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)】
69歳女性
3か月前から急激に視力の歪み、計算間違い、異常行動、歩行困難を来した。
身体診察上、体幹優位の失調あり。
大きな声で話しかけるとびっくりした目でがくがくする。
MRI拡散強調像で皮質にhigh
この疾患で認めないもの1つを選べ。
a:ジスキネジア
b:進行したら無動性無言となる
c:患者との接触では感染しない
d:脳波で周期性同期性放電がみられる
e:髄液で14-3-3タンパク陽性となる
答えa

急速進行性の認知機能障害や神経脱落症状を呈する疾患はクロイツフェルト・ヤコブ病を考えます。1-2週ごとに色々なことができなくなってきます(歩けない→一人でごはんが食べられない→リモコンなどが操作できない→言葉を発しない といった感じです)。3か月ほどで四肢体幹のミオクローヌスが出現し、6か月ほどで無言性無動に至り、1-2年後に誤嚥性肺炎で亡くなる方が多いです。声をかけたり、患者さんに触れるとびっくりしてミオクローヌスが誘発される驚愕反応も特徴的です。
 
全員が持っているプリオン蛋白が何らかの原因で形を変え、感染性を持つ異常プリオン蛋白が脳に蓄積されることで発症するとされています。BSE問題で一時期話題になりましたが、食事からの感染はごくわずかで原因が特定できない孤発性多く、遺伝性が続きます。診断には頭部MRI、脳波、髄液検査(+遺伝子検査)を施行します。MRIでは左右差を伴う皮質の高信号に加えて尾状核や被殻に高信号を呈すると本疾患が想起できます。脳波ではほぼ全誘導で周期性同期性放電を認めます。髄液の14-3-3蛋白、総タウ蛋白の上昇が特徴的です。
 
とにかく除外診断が大事で自己免疫性脳炎や橋本脳症、髄膜炎、てんかん重積などを除外し、治療可能な病態がないか探します。診断的治療で抗てんかん薬やステロイドパルス療法を施行することもあります。
 
一般的なベッドサイドの処置(採血、吸痰、清拭、口腔衛生など)では感染しないことがわかっておりますので、特にPPE等防護服は必要ありません。髄液検査の際には感染リスクがありますので、施行者はPPEを着用、また全手技を閉鎖式で(一滴も髄液を外にこぼさないように注意しながら)行うとなおよいと考えます。
a:ジスキネジアはパーキンソン病進行期の運動合併症として出現する四肢・体幹のくねくねとした不随意運動を指します。ミオクローヌスとのひっかけと思われます。
 
★遺伝性の多くはV180Iが多く、5類感染症に指定されます(保健所から連絡が来て、詳細の報告を求められます)。常染色体優性遺伝では、変異のある遺伝子を持つ親から子どもには約50%の確率で変異遺伝子が遺伝しますが、遺伝的浸透率(遺伝子の異常を持っている場合、実際に発病する率)が低いのが試験でよく問われます。
 

【VitB12欠乏による亜急性連合性脊髄炎】
70歳代男性、妻をなくしてから大量飲酒、ふらつきで受診
舌萎縮 大球性貧血 失調、ロンベルクサイン陽性、麻痺なし
振動覚低下、VitB12低下
病巣はどれか。
a:筋
b:脊髄
c:延髄
d:中脳
e:被殻
答え:b

VitB12欠乏による脊髄後索障害により不安定性歩行となります。感覚性失調を呈し、位置覚・振動覚の低下、Romberg徴候陽性となります(小脳失調では通常立位でもふらつくため、Romberg徴候陰性です。前庭障害でもRomberg徴候陽性となります)。診察室に入るときはふらつきや転倒予防に杖や歩行器を使って入ってくる印象です。
 
★アルコールによる障害では後索と側索のどちらも障害されるdouble crashもよく経験します。
 
 
【レビー小体型認知症】
72歳女性。幻視で受診。一年前から動作緩慢を自覚し、テレビを見ている時に右手が震えていることに気がついていた。半年前から部屋の中に小さい子供がいると言ったり、家の外に人がいて監視されていると言うようになった。
記銘力に低下は見られないが活動や趣味に対する関心が低下している。
この疾患に見られないものは?
a:便秘
b:小脳失調
c:薬が効き過ぎる
d:パーキンソニズム
e:レム睡眠行動障害
答えb


記銘力は保たれているにもかかわらず(MMSEなどの認知機能評価ではほぼ満点だったりする)、幻視が前景に立っているのはレビー小体型認知症を考えます。小さなお子さん、とりわけ自分の子供の小さいときやお孫さんが幻視として現れ、宙に向かって会話していることがあります。
パーキンソン病も認知機能障害や幻視が出現しますが、先に幻視が出現しパーキンソニズム(運動緩慢+筋強剛 or 静止時振戦)を呈するとレビー小体型認知症の診断となります(その逆は認知症を伴ったパーキンソン病:PDDと略します)。一般的には幻視出現後1年以上経った後にパーキンソニズムを呈するとされますが、この1年という時間にあまり意味はないという意見が最近のトレンドです。幻視のほかには錯視(皿に書いてある模様をおかずと思って食べようとする、など)も認めることがあります。
診断は心筋MIBGシンチグラフィーや脳血流SPECTを行います。
パーキンソン病と違って進行が早いのも特徴的で、抗精神病薬に反応しやすく、認知機能に日内変動を伴いやすいです。ドネペジルが保険適用となっています。
 
★診断基準がよく問われます。中核的特徴(認知の変動、ありありとした幻視、レム睡眠行動障害、パーキンソニズムのうち1つ)、指標的バイオマーカー(SPECT/PET/DaTSCAN、MIBG、PSG)、支持的バイオマーカー(頭部画像で側頭葉内側が保たれる、SPECT/PETで後頭葉の血流低下、脳波で後頭葉の著明な徐派)です。特に指標的と支持的は字が似ているので混同しがちです。
 
 
【むずむず脚症候群】
①38歳外科看護師。2週間前から両側下肢のピリピリとした痛みと掻痒感を自覚。症状は自制内で仕事は問題なくできたが、夜に悪化し睡眠に重大な影響を及ぼしている。
夜間の両下肢不快感、不眠、バイタルに異常はない。血液検査所見も明らかな異常はない、貧血はなし
赤血球数470万、Hb14、Ht41。
RDWは12(基準値は14以下)である。この患者の血液所見は?
a大球性+小球性
b大球性+正球性
c正球性+小球性
d正球性
e小球性
答えd


追加で必要な検査はどれか。
a:鉄欠乏性は否定的なので検査追加しない
b:鉄欠乏性が疑われるので鉄を図る
c:鉄欠乏性が疑われるのでフェリチンを図る
d:鉄欠乏性が疑われるのでUIBCを図る
e:鉄欠乏性が疑われるので骨髄検査(鉄染色)をする
答え:c


この疾患の特徴は?
a:小児でも認める
b:高齢者では少なくなる
c:間欠性跛行を伴う
d:有症状時に疼痛のある硬結を伴う
e:レム睡眠時に不随意運動が見られる
答えa


治療薬はどれか。
a:抗コリン薬
b:抗てんかん薬
c:抗ヒスタミン薬
d:カルバマゼピン
e:ドパミン作動薬
答えe

夜間下肢(時には上肢も)動かしていたい、腫れている感じがする、熱を持つ、異常感覚を認めるとむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)を考えます。特発性がほとんどですが、鉄欠乏性貧血や薬剤性(ドパミン遮断薬、メトクロプラミド、抗うつ薬など)、腎障害、糖尿病、妊娠などが挙げられます。私は経験がありませんが、小児でも起こるようです。カフェインなどでも誘発されるため、生活指導を行ったうえで、低フェリチン血症(50 ng/mL未満程度)があるなら鉄剤を、なければプラミペキソール0.125mgで開始して経過を見ます。リスペリドンやガバペンチン、オピオイドなども使うことがあります。

★ドパミンアゴニストは少量から使うこと、副作用(突発性睡眠など)もあることから運転には十分注意するよう指導します。症状出現1-3時間前の内服が有効です。
 

【髄液検査】
造血器腫瘍での腰椎穿刺、抗癌剤髄注を行うときに正しいものを選べ。
a:座位で施行する
b:L2/3を穿刺する
c:血小板数と凝固を確認して穿刺する
d:穿刺部が感染してても穿刺してよい
e:初圧300mmH2O以上で髄注を行う
答えc

緊急時は別ですが、それでも血算・凝固の確認は行ってはいけないことはないと考えます。穿刺はL4/5が基本です。初圧は70~180mmH2O前後が正常圧です。

【焦点意識減損発作】
72歳男性。見当識障害と口をもぐもぐして受診。MRIは異常なし。
脳波検査を行うことになったがCOVID-19感染中である。
省略して良い検査はどれか。
a:過呼吸
b:光刺激
c:睡眠
d:視覚誘発電位
e:計算刺激
答えa

高齢者の大部分は焦点てんかんであり、過呼吸で誘発されるような欠神発作(全般てんかん)ではありません。COVID-19流行期や感染している方ならなおさら不要です。

★特発性全般てんかんでは光刺激で発作が誘発されることがあります。


【髄液産生】
髄液に関して正しいものを選べ。
a:1日1回入れ替わる
b:総量は300mlである
c:圧のmaxが300である
d:1日300ml産生される
e:癌性髄膜症では髄液の吸収障害をきたす
答えe

髄液は成人では総量が150mLで一日500mLほど生成されるため、3回ほど入れ替わるとされています。髄液圧は70~180mmH2O前後が正常圧です。髄膜癌腫症では髄液吸収障害により水頭症を来すことがあります。激しい頭痛、嘔吐を認め、様々な神経症状のほかに意識障害やけいれんに至ります。
 
★髄膜癌腫症は肺癌や乳癌が多く、グリセオールにて脳圧を下げます。食思不振はステロイドも有効です。
 

【下位運動ニューロン障害】
a:腱反射亢進
b:線維束性攣縮
c:求心性視野狭窄
d:下方視眼球運動障害

答えb
腱反射低下、筋トーヌス低下、線維束性収縮がみられます。筋トーヌス亢進は錐体路症状では痙縮、錐体外路症状として筋強剛があります。


【頭頂葉の障害】
a:皮質聾
b:半側空間無視
c:相貌失認
d:感覚性失語
答えb

右頭頂葉→左半側空間無視と暗記してます。
 

【ギランバレー症候群】
正しいものを2つ選べ。
a:再発寛解する
b:髄液細胞数が増加している
c:多神経根炎を認める
d:髄液蛋白が増加している
e:四肢しびれは左右非対称である
答えc,d

インフルエンザ桿菌やカンピロバクターなどの先行感染を契機に交差抗体が作られることで末梢神経障害を起こす自己免疫疾患です。ガイドラインでも多発根神経炎の病態と記載されています。基本的には単発の経過で終わることが多く(1回の再発はあるようです)、増悪もしません。4週以内で進行が止まることが重要です。増悪した場合には診断が違うことが考えられます。ガイドラインでは四肢対称性で遠位から始まる筋力低下で発症するとなっておりますが、実臨床では結構バラバラな印象です。しびれ感もガイドラインでは左右対称性となっておりますが、あっても軽度で左右対称であることは少ない印象です。教科書的には髄液所見は蛋白細胞解離(細胞数正常範囲内で、蛋白のみ上昇している)です。治療は免疫グロブリン療法(IVIg)または単純血漿交換療法であり、特に大差はないとされていますが、血漿交換の前に免疫グロブリン投与はできません(交換されてしまうため)。
 
★Fisher症候群、Bickerstaff脳幹脳炎ともに原因微生物、原因自己抗体は抑える必要があります。日本人は軸索型であるAcute Motor Axonal Neuropathy(AMAN)の方が脱髄型であるAcute Inflammatory Demyelinating Neuropathy(AIDP)より多いです。AMANの方が髄液蛋白上昇に乏しく、AIDPの方で髄液蛋白上昇がみられます。AIDPの方で重症例が多く、嚥下や呼吸障害をきたす可能性があり、人工呼吸器装着の可能性もあります。
両者の鑑別にも様々な診断基準がありますが、Hoの診断基準が代表的です。AIDPで呼吸筋障害がある場合には躊躇なく人工呼吸器管理、そして血漿交換が必要と考えます。IVIgは1か月おきに繰り返すこともあります。
 

【脊髄サルコイドーシス】
脊椎 MRI の所見でサルコイドーシスが疑われる症例。
正しいものを選べ。
a:sIL-2R 低下
b:ACE 陰性
c:ツベルクリン反応陽性
d:γグロブリン低値
e:前斜角筋リンパ節生検で非乾酪性肉芽腫
答えe

診断はサルコイドーシスに準じます。
 
★脊髄サルコイドーシスではT1Gd画像水平断で「山」の形に見えるTrident signが有名です。
 
【悪性症候群】
Parkinson病で治療していたが、治療薬を中断した。発熱あり。間違っている治療はどれか。
a:ダントロレン
b:補液
c:抗パーキンソン薬の再開
d:ハロペリドール
e:冷却
答えd

抗パーキンソン病薬の中止や減量で起こるとされていますが、増量でも起きることがあるとされています。病態は数日~数週間で起こり、高体温であることから解熱薬は用いてはいけません(冷却のみ)。全身状態の安定、BZ系を用いた鎮静、ダントロレン・ブロモクリプチンによる治療を行います。
 
★セロトニン症候群との鑑別が大事です。セロトニン症候群の方で症状が早くおこるものの、重症度は低く、最近よく出されているSNRIとMAO-B阻害薬の併用などで発症します。セロトニン症候群の方が四肢腱反射の亢進が多いです。
 

【意識障害】
意識障害をきたすもので誤りを1つ選べ。
a:低血糖
b:くも膜下出血
c:てんかん
d:多発性硬化症
e:急性散在性脳脊髄炎
答えd
 
てんかん重積(SE)後のpostictal state / subtle SEも意識障害の原因になるので、けいれんしていないから発作は収まっていると判断するのは時期尚早です。
 
★多発性硬化症の再発予防薬であるDMDでPMLが起こると意識障害になります。ナタリズマブが最多であり、JCV indexを測定しながら5-8週間に一回の投与にする方法、2年で終わってde-escalationする方法など工夫を凝らします。
 
【薬剤性末梢神経障害】
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫でR-CHOP治療中。手がピリピリ痺れて力が入りにくい。
原因薬物はどれか。
a:リツキシマブ
b:シクロホスファミド
c:ドキソルビシン
d:ビンクリスチン
e:プレドニゾロン
答えd

★シクロホスファミドは末梢神経障害を来さないことは何度も聞かれています。
 

【アミロイドーシス】
ATTR型心アミロイドーシスの診断に最も有用な検査はどれか。
a:心筋生検
b:心臓MRI
c:心筋SPECT
d:心エコー
e:ピロリン酸Tcシンチ
答えe

第2回でも聞かれた気がします。
 
★ATTR-FAPは野生型と家族型の鑑別が毎年出ています。
 

【ALS】
ALSの初期に起こらないものはどれか。
a:複視
b:線維束性収縮
c:呼吸筋麻痺
d:バビンスキー陽性
e:CMAPの低下
答えa
 
進行すると閉じ込め症候群に至ります。
 

【三叉神経痛】
三叉神経痛の臨床問題。
まず治療として行うのはどれか。
a:カルバマゼピン
b:微小血管減圧術
c:神経ブロック
d:
e:ガンマナイフ
答えa
 
いきなり侵襲の強い治療はしません。
 

【眼球運動障害】
複視を訴える患者。
右方向へ眼をむかせて右目だけ隠したら複視で映っていた人の右側の像(遠い方)だけ消えた。
正しいのはどれか。
a:左眼内転麻痺
b:右眼内転麻痺
c:左眼外転麻痺
d:右眼外転麻痺
e:右動眼神経麻痺
答えd
 
bとeが同じことを言っていますね。これは自信がありません。
滑車神経:上斜筋(内下方)、外転神経:外直筋、あとは動眼神経です。
 

【認知症】
認知症の組み合わせで正しいのはどれか。
a:PICK病-構成障害
b:正常圧水頭症-他人の手徴候
c:レビー小体型認知症-反社会的行動
d:アルツハイマー型認知症-視空間認識障害
e:血管性認知症-レム睡眠行動異常
答えd
 
構成障害:AD、他人の手徴候:CBS、反社会的行動:bvFTD、RBD:DLB
 
 
【FSHD】
四肢の筋力低下がある若年男性。
顔面筋麻痺と、上肢近位筋(手を挙げられない)、下肢遠位筋の障害がある。
疾患はどれか。
a:筋強直性ジストロフィー
b:Becker型筋ジストロフィー
c:Duchenne型筋ジストロフィー
d:肢帯型筋ジストロフィー
e:顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
答えe
 
★原因遺伝子が問われます。D4Z4遺伝子の短縮がポイントです。


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