見出し画像

第51回総合内科専門医試験 神経ブロック解説

前回第3回内科専門医試験の解説を行いました。難易度としてはほぼ同じくらいだと思います。思考力というよりは知識を問う問題が多い印象でした。

総合内科専門医(新内科専門医)勉強会オープンチャットhttps://line.me/ti/g2/7VAcgzB7VwwSqHg6TxcRJj4txzPDDASDfLDQXg?utm_source=invitation&utm_medium=link_copy&utm_campaign=default

こちらより引用させていただき、神経ブロックの解説を作成しました。ご意見等はメールいただければ幸いです。

また、神経内科専門医試験で問われる内容には★をつけております。専攻医の先生の参考になれば幸いです。

【良性発作性頭位めまい症】
48歳男性、横向くと回転性めまい、臥床で改善バイタル正常、神経学的所見なしで、みられる所見
a)うっ血乳頭  
b)回転性眼振  
c)bruns眼振  
d)方向交代性眼振  
e)斜偏奇(skew deviation)  

答え:「回旋性眼振」であればOKだが、頭位変換時でも水平半規管型であれば方向交代制眼振を認める。安静時の方向交代制眼振であれば誤り。試験的にはbだろう。

一問目から弱気ですいません。良性発作性頭位めまい症の診断でよいと考えます。頭位変換時に数秒の潜時を経て回旋性成分を含む眼振が数十秒続きます(数分続くことは稀です)。眼振とは「病的にずれた眼位を元に戻す動き」を指し、本疾患では半規管の中の耳石が転がることで起きます。

cのBruns眼振は安静時(≠頭位変換時)の注視方向性の眼振で主に小脳橋角腫瘍など中枢性病変、dとeはHINTSにもある通り、中枢性の所見です(HINTSは脳神経内科医はあまり使っていない印象です)。

★一番多い「後半規管型」では右下ないし左下懸垂頭位で回旋性眼振が誘発されます。「水平半規管型」では右下頭位と左下頭位で方向が逆転する方向交代制水平性眼振となります。安静時には眼振はありません。
前庭神経炎のような前庭障害では一側すべての半規管が障害されると考え、健側向きの水平性眼振となります(右前庭神経炎であれば上方・下方・右方・左方すべてで安静時に左向き眼振となります)。小脳病変については基本的にはその他の神経症候が現れます(四肢の失調、体幹の失調、不安定性歩行など)。安静時の自発性回旋性眼振や垂直性眼振があると、小脳病変を考えます。


②(上記の連問)
a.垂直性眼振
b.回旋性眼振
c.椎骨動脈乖離
d.Eply法で眼振軽快
e.Dix-Hallpike法で陰性

答え: d

①と選択肢がかぶっているので、正確な答えはわかりませんが、Eply法とGufoni法は知っておいてもよいかもしれません。結構嘔吐を誘発するので、積極的にはしない先生も多いです。


【慢性硬膜下血腫】
80歳男性。既往症特になし。1時間前に転倒し、来院。CTで異常所見を認めず、帰宅となった。その後、再来院した。意識障害、右上肢徒手筋力テスト    3、右下肢徒手筋力テスト4、長谷川子規19点、CT:左急性硬膜血腫あり。
再来院したのは最初の受診からどれくらいの期間が経った後か。1つ選べ。
a)1時間  
b)1日  
c)1週間  
d)1か月  
e)1年  

答え:d

慢性硬膜下血腫は数週間から数ヶ月後に発症します(頭部打撲後の案内をすると思います)。突然発症ではなく、何となく一側の手足が使いづらい、動かない、歩けない、そうこうしているうちに気持ち悪くなってきた(頭蓋内圧亢進症状)などで来院されます。

★頭部MRIから先に撮影する施設も多いと思いますが、時間がかかって来院する症例こそ頭部CTも重要かな、と思ってます。

②治療に用いる機器を一つ選べ。
★治療機器画像が並んでいて、画像の中から1つ選ぶ問題
a.~d. 内科では見慣れない機器が並ぶ
a)ナビゲーター  
b)  
c)気管支鏡  
d)顕微鏡  
e)穿頭ドリル

答え:e

慢性硬膜下血腫では穿頭ドレナージを行います。開頭血種除去は広範囲脳出血に対して行います。


【薬剤性パーキンソニズム】
食思不振に対して、スルピリド処方
パーキンソニズムを認める DATSCAN提示あり→正常
a)PD
b)DLB
c)PSP
d)薬剤性パーキンソン症候群
e)脳血管性パーキンソン症候群

答え:d

スルピリドは薬剤性パーキンソニズムの被疑薬なのは言うまでもありませんが、それをDaTSCANで確かめるのがポイントです。アリピプラゾールなどは内服をやめても半年ほどは症状が持続すると言われています。静止時粗大振戦の度合いが少ない印象です。
 
★議論がわかれるところですが、明らかなパーキンソニズムがある際にはDaTSCANは用いません(パーキンソン病とパーキンソン症候群の鑑別にはならないため)。DaTSCANを施行する際には本態性振戦の除外と薬剤性パーキンソニズムの除外くらいです。心筋MIBGシンチグラフィーの方が感度・特異度共に高いです(自律神経障害や心不全などがある際にはもちろん施行できません)。「パーキンソニズムを認めたときに何でもかんでもDaTSCAN」からは卒業しましょう!


【橈骨神経麻痺】
81歳男性 座椅子で寝たら右手に力が入らなくて救急要請。
血圧160くらい、MMT 手関節とMP関節で低下、両上肢の挙上は可能、右手第一、2指根部にしびれ、温痛覚障害あり障害部位はどこか
a)橋腹側  
b)右手正中神経  
c)右頚髄5  
d)左中心前回  
e)右手橈骨神経  

答え: e 

右手第1、2指根部にしびれ感(≠しびれ)、腕橈骨筋、手背屈、指伸展が困難となります。中枢病変との鑑別は上肢Barre徴候ではなく、手の背屈のMMTで左右差を見ます(脳卒中では連合運動が可能なため保たれることが多い)。


【FTD-ALS】
筋萎縮、舌萎縮、線維束性収縮のある患者で合併しやすい疾患はどれか
a)アルツハイマー型認知症  
b)レビー小体病認知症  
c)ハンチントン病  
d)前頭側頭型認知症  
e)正常圧水頭症

答え: d

解説:TDP-43 proteinopathyであるため、前頭側頭型認知症とALSは合併することがあります。


【中枢性脱髄疾患の鑑別】
MSと比較してAQP4陽性のNMOに比較的診られるのはどれか1つ選択せよ
a)眼振  
b)痙縮  
c)吃逆  
d)複視  
e)視力低下  

答え: c

延髄の最後野(中心背側)に病変を認めると難治性吃逆、嘔吐を認めます。眼振は小脳病変があれば考慮できますし、複視・視力低下も両疾患で来します。
AQP4陰性のNMOSDも診断基準があるため、抗体の陽性・陰性だけでは診断できません。一般にMSの方が病変が小さく短い、NMOSDの方が病変が長い傾向にあります。
再発予防でMSはステロイドを使いませんが、NMOSDでは用います。
 
 ★抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)と3者で違いがよく聞かれます。ステロイドに反応しやすい、腰膨大部病変を反映して、膀胱直腸障害が多い、などです。


【診察手技】
神経診察で正しいのはどれか
a)カーテン徴候は健側に口蓋垂が引かれる  
b)首を右に回旋させるのは右胸鎖乳突筋  
c)感音性難聴ではWeber試験は健側へ偏位  
d)左額のしわよせができないときには左中枢性顔面神経麻痺を考える?  
e)対座法で左眼の視野をみるとき検者は右目をつぶる

答え: c

aはひっかけでして、 口蓋垂ではなく咽頭筋の筋力低下を反映して咽頭後壁がひかれる(神経内科専門医試験でも以前出題されました)。

★神経内科専門医試験では診察手技をやることになり、面接でも聞かれることがありますので、脳神経の診察は入念にチェックしておきましょう。


【抗NMDA受容体脳炎】
18歳女性 10日前からの発熱、頭痛。3日前から辻褄が合わなくなってきて、興奮して暴れて入院。JCS1-2 37.2度 他バイタル異常なし。脳神経系問題なし。不随意運動なし、筋強剛なし、筋力低下なし。感覚障害なし。腱反射異常なし、病的反射なし。
入院5日後、顔面等の不随意運動出現。低換気で高CO2血症により挿管、人工呼吸器管理。
頭部MRI フレアのみ提示。診断はどれか。
a 単純ヘルペス脳炎
b 肺炎球菌性脳炎
c 急性散在性脳脊髄炎
d ヤコブ病
e 抗NMDA受容体抗体脳炎
 
答え:e

NMDA受容体脳炎は決まった経過をたどることがしられており、精神症状:統合失調症様症状(幻覚・妄想)、3:痙攣・意識障害、4:中枢性低換気(気管挿管)
5:不随意運動(特に舌の不随意運動、挿管チューブを舌で出そうとする)、6回復、となります。
脳炎を疑った際には抗体の結果にかかわらず、アシクロビルとステロイドパルスを併用して治療します。
卵巣奇形腫があったときには切除を検討します。近年は男性の報告例(精巣腫瘍)が増えている印象です。 


【CIDP】
50代女性 足のしびれ感、つまずくから始まり数ヶ月の経過で洗濯もの干せない、しゃがんだら立ち上がれなくなった。髄液検査異常なし。NCS:感覚神経導出なし。運動神経:temporal dispersionあり。髄液検査:細胞数:2 蛋白数:60 糖:60
診断は?
a)ALS  
b)ギランバレー  
c)シャルコーマリートゥース  
d)CIDP  
e)糖尿病性神経障害

答え: d

8週以上の経過で四肢の近位・遠位同程度の筋力低下、感覚障害を認めるとCIDPを想起します。伝導ブロックは近位部刺激の振幅が遠位部刺激の振幅の50%以下とされます。時間的分散は波がうねったような波形を取ります。いずれも脱髄の所見です。脛骨神経では正常でも時間的分散様の所見が出ることがあるため、参考値としてます。

★Typical CIDPとCIDP variantsは病態が異なること、自己免疫性nodepathy(CNTN1やCaspr1、NF155など)はCIDPには含めないことが言われていますので、そろそろ出題されるかもしれません。


【失語症】
構音に歪みがなく、理解もよいが復唱が不能
a)全失語  
b)伝導性失語  
c)Broca失語  
d)Wernicke失語  
e)超皮質性感覚性失語  

答え:b

音韻性錯語(みかん→みたん)を認めるのが特徴です。縁上回病変(頭頂葉下部前方)で来します。


【頸動脈エコー】
頸動脈エコーの所見で脳塞栓のリスクと関連が低いもの1つ選ぶ
a.低輝度
b.石灰化
c.潰瘍
d.可動性
e.線維性皮膜の菲薄化

答え: b

そのまま暗記してもよいかもしれません。

★Carotid Webが最近のトレンドになっておりますので、チェックしておくとよいかもしれません。


【アルツハイマー型認知症】
66歳で妻と死別。囲碁など積極的に行ってた。69歳からコロナで引きこもりに。息子が手紙を送り、2日後に届いたか電話で聞いたら、そんなものは届いていないと。よく探すように言って、数日後に再度電話。辻褄の合わないことを言うため、息子が心配して来院。本人はどうして病院に来たかわからない。息子が連れてきたから来てる、と。
採血異常なし。長谷川式で認知機能テストをしていると、時折息子のほうを振り返る。答えが出ないときは、睡眠不足で調子が悪いと言う。
長谷川式で最初から点数が低いと予想されるものはどれか。1つ選べ。
a.計算(100から7ずつ引く)
b.逆唱
c.即時記憶(今言った3つの言葉を繰り返し答えてください)
d.見当識(今日の日付を答えてください)
e.野菜の名前思いつくだけ言ってください

答え:c d

個人的にはc一択だったのですが、割れているため神経内科ハンドブックを参考にしました。アルツハイマー型認知症は近似記憶障害(数分~数時間の記憶)が最初に現れます。診察では「桜・猫・電車」の遅延再生を現します(再現では即時記憶となっておりますが、これは数字の順唱・逆唱を指します)。ですので、cは正解です。計算は認知機能障害がなくても苦手な方はたくさんいます。Eの語の流暢性は前頭葉機能を診ています。

問題は日付ですが、アルツハイマー型認知症も見当識障害は時→場所→人の順で障害されます(病院名は分かっても日付はわからない)。なのでdも正解となってもよいと考えますが、最近物忘れが心配で自分で来院される方は日付は言えるものの、遅延再生のみできない方が多いので、脳神経内科医としてはcを押したいと思います(不適切問題になってもよいかもしれません)。

→ 実際試験を受けられた方から単に「桜・猫・電車」を復唱させるだけで、遅延再生はしないのでは?とご指摘があり、それですと近似記憶とはならず即時記憶ですので、dを正解としたいと思います。
(遅延再生以外を選ばせる問題は不適切な気がしますが、神経内科専門医試験ではないのでこの辺で。)


【SPECT】
IMP-SPECTで集積が低下する部位はどこか。1つ選べ。
a.視床
b.小脳
c.
d.後部帯後回
e.後頭葉内側

答え: d

アルツハイマー病のIMP-SPECTでは主に頭頂葉内側(後部帯状回、楔前部)での集積低下を特徴とします。後部帯状回に病変があると、ADかなと思います。


【脳梗塞】
突然発症の神経症状で頭部MRIを撮影 
拡散強調画像を提示(DWIの1枚のみ, 左中心前回のhand knob梗塞)。症状を1つ選択せよ
復唱障害のみ。
a)純粋失読
b)右同名半盲  
c)右上肢単麻痺  
d)右下肢単麻痺  
e)  

答え: c

画像がないので確認はできませんが、中心前回のknobの領域の梗塞であれば、ここは上肢の運動を支配する領域となります。


【生理】
副交感神経の亢進で起きないもの1つ選択せよ
a)肺 気管支拡張  
b)心臓 収縮低下?  
c)膵臓 インスリン分泌↑  
d)瞳孔 縮瞳  
e)膀胱 収縮

答え:a

副交感神経が活発になる夜間や早朝に気道が狭くなり、息切れなどの症状が出やすくなります。コロナ感染後などでも咳が夜間に多い理由です。

【腓骨神経麻痺】
腓骨神経麻痺の歩き方はどれか
a. 鶏歩
b. 動揺性歩行
c. はさみ足
d. ぶんまわし
e. 小刻み歩行

答え: a

bは筋疾患で近位筋低下によるもの、cは痙性対麻痺で起こる痙縮をさし、dは脳梗塞後など片側の錐体路障害、eはパーキンソニズムによるものをさします
細かいことですが、正常圧水頭症などパーキンソン病・パーキンソン症候群でない疾患での歩行は小刻み歩行とは言いません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?