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118回医師国家試験総評 ~簡単!だからこそ難しい!~ ※全文無料

はじめに

2024年2月3~4日の2日間にて第118回医師国家試験がおこなわれました。受験生のみなさんは本当にお疲れ様でした。各人の感想はあるかと思いますが、あとは良くも悪くも結果発表を待つしかありません。
結果発表まではここまで頑張った自分をほめて、いたわってあげてください。

終了直後の過激な盛り上がりもひと段落し、(他社は知らんが)メックからも総評が出されたことですので、ここらで個人としての総評を書いてみようかと思います。
あくまで個人の感覚という前提を守れる方のみお読みください。建設的な議論は受け付けますが、ケンカ腰の人は無視します。なぜなら医師国家試験に対する論理的な解釈という点に関しては、僕の方が100倍詳しいから(`・ω・´)ケンカウルナンテ100ネンハエーヨ‼︎ママノオッパイノンデネテナ‼︎🍼🍼🍼

とりあえず結論から

タイトルにも書いているのですが、『簡単!だからこそ難しい!』という言葉に集約されると考えます。どういう意味かを説明していきます。

『簡単』とはどういう意味か?

全ての選択肢の考察などをせず、ただ単に「正答を選ぶ」だけであれば平易な問題が多かった、という意味です。いわゆる思考力を問う問題というのはほぼなく、知識として知っているか否かを問うものがほとんど、というのが個人的印象です。

問題の難易度に関しては医師国家試験制作委員会が意図的にそうしているのではないかと考えています。医師国家試験は学生が初期臨床研修に出て良いか否かを判断するための試験です。それを考えれば問われるべき内容は「医師としての最低限の常識」に限定されるべきでしょう。あくまで「最低限の常識」を問うのがメインになるため、問題の難易度としてはそこまで難しくならないのが必然ではないでしょうか。
むしろ複雑な病態の絡み合わせ、重箱の隅をつつく知識が出題されていた昔の方が、国家試験としては未熟だったと評すべきなのかもしれません。(こういう問題を解かせるメリットもあるため、一概に悪いとも言えませんが…)

予備校講師として医師国家試験対策を仕事にしている僕が問題を解くだけで言えば、必要な時間は
・各論総論 30分×4ブロック
・必修 15分×2ブロック
ぐらいでした。30秒以上時間をかけた問題自体が10問未満ぐらいだと思います。それぐらいほぼすべての問題が基本に忠実な問題でした。

※これは予備校講師として国試対策に特化しているからであって、医師としての能力を表すものではありません。知識特化してればこのぐらいの速度で解けると思います。そもそも国試の点数は頭の良さを評価するものではありません。対策のうまさである程度ハッキング可能なのです。なので僕は国家試験に特化したスーパーハカーなのかもしれません。

最近体系もスーパーハカーになってきた。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
(…今の6年生ってシュタゲしってるんかなぁ?)

『だからこそ難しい!』とは?

問題が簡単だったため、周りの受験生も点があがるであろうという推測ができる。つまり一問の重みが増え、簡単な問題に対して「間違えてはいけない」という緊張感が増す。強いプレッシャーの中で正確な答えを選び続けるという、精神的な負荷の強さが増したという意味です。
正直な話、僕は今の国試を学生としては受けたくないです。ただでさえ将来がかかっているという緊張感がある中で、ミスが許されないというさらなるプレッシャーが重なるのは非常に酷なことだと思います。

Twitter (現 X ) にて『医師国試は「難しい」ではなくプレッシャーがきつい』という意図の投稿をされた方がプチ炎上していたのを目にしましたが、僕はそんなに間違ったことは言っていないと思います(ご本人に炎上の意図はなさそうでしたので、ここにURLは記載しません)。

国家試験の問題自体は年々簡単になっていく、その分プレッシャーが年々増していく。これが国家試験対策に膨大な時間を割いてきた予備校講師としての結論です。

そんなプレッシャーの中、最後まで国試に臨んだ受験生の皆さんに敬意を表します。本当におつかれさまでした。

注!「すべての選択肢考察」まで含めたら難問は多い

簡単なのはあくまで「正答を選ぶ」だけに限ってです。誤答選択肢が「なぜ誤答なのか」を論理的に明確に説明しきるのは難しい問題も多かったという印象です。ここが昨年と比較した、今年の国試の特徴なのではないかと感じています。丁寧にすべての選択肢をしっかりと考察しようとして、泥沼にはまりこんで答えが見えなくなる、ということがありえそうなところが今年の国試の怖いところではないかと。

例としては、今回(118回医師国家試験)のF73を挙げてみます。まずは問題を読んで答えを出してください。

https://bbs.icrip.jp/forums/topic/118f-73/ より引用

メックはCを答えとしていて、僕もCだろうと思っています。みなさんも「答えはCだよ」と言われれば「まぁそうだよねぇ」ぐらいの感覚にはなるんじゃないでしょうか。しかし他の選択肢、特にEを論理的に否定できますか?

以下のような主張が考えられます。
「病歴から急性冠症候群が考えられる。急性心不全による肺水腫が認められている。呼吸不全の可能性に対して、気管挿管の可能性は考慮することは間違いとは言えない。そうであれば、直ちに必要性が生じうる挿管のインフォームドコンセントを取ることは何が誤りなのか?」
この主張自体は正しいでしょう。これに対しての返答としては「指導医への応援依頼が優先される」といったものになるのではないかと思いますが、なぜどのような理論で応援依頼が優先されるのかを根拠をもって説明できますか?なんとなくのお気持ち解説でなく、反論の余地が生じない明確な理論を提示できるでしょうか?

この選択肢に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。
ので説明はここではしませんが、このような選択肢考察が難しい問題はかなり多くの頻度でみられたと感じています。
※ヒント 「気管挿管の同意の取得」であれば答えになり得る(少なくとも誤りという根拠は消える)。『急変時の』という一言がこの選択肢を誤りにしています。

…え、というか選択肢の割合みたらbと割れてたんですか??bは明らかに間違いといいたいところ。
※「病歴聴取」とは診断をつけるための行為です

「答えは出せるけど、選択肢考察まで含めると難しい」は国家試験制作委員会の先生方のご尽力の結晶かと思います。国試制作委員会の先生方は「新しい学び」をメッセージとして詰め込みつつ、答えは「学生に導き出せるレベル」に落とし込んでいるように感じます。教育側はこの隠されたメッセージを読み解いて学生に伝えていく必要がありますね。

臨床的な問題は増えたのか?(反語)

国家試験対策界隈でよく言われるワードですね。ここに関しても持論を述べていきます。結論としては「臨床を想定した問題」や「臨床的トピックをメッセージにした問題」は増えているかもしれませんが、「臨床的な思考力を問う問題」は増えていないというのが持論です。

そもそも「臨床的な思考力」って??定義示せ、定義(ノシ`・ω・)ノシ バンバン!!

絶対的な正解があるわけではない臨床現場において、臨床医の方々が「絶対的な答えがないものに対して、適切な対応を模索するために、ケースバイケースで臨機応変に対応する力」という意味で「臨床的な思考力」という単語を使うのはよくわかります。ただ国試対策においてこの単語を持ち出す意図は僕にはよくわからない。

試験問題、とくに択一式の問題は絶対的な正答が存在します。これは試験問題が必ず有さなければならない性質です。医師国家試験も当然例外ではありません。であればそこには答えを答えたらしめる理論が存在します。
理論的に答えが出るものに対して身につけるべきは「論理的な思考力」ではないでしょうか?

「臨床的な思考力」という単語になにか明確な定義をもっているのであればよいのですが、そうでなければ曖昧な単語を用いるのは受験生の不安をいたずらに煽ることになるのではないかと感じています(これは国試対策界隈に対する警鐘のつもりです)。

ということで「臨床的な思考力を問う問題」は増えていない

僕は臨床的な思考力というのは「絶対的な答えがないものに対して、適切な対応を模索するために、ケースバイケースで臨機応変に対応する力」というのが良い意味的定義ではないかと考えています。そして国家試験は絶対的な正答が存在します。なのでそもそも論として「臨床的な思考力を問う問題」というのが国家試験に出題されてはいけないと考えている、というのが持論です。
(「臨床的な対応」とかいったら、どんなものもケースバイケースになっちゃうのでは…?)

草むしり検定も「知識」と「論理的思考力」で解けるように作られているはず…。
がんばれちいかわ!

「臨床的トピックをメッセージにした問題」は増えている。が、受験生に求められているのは基本的な知識のみ

前述したように国試製作委員会の先生方は「メッセージを詰め込みつつ、学生に解ける問題」を作成していると考えています。読み込めば読み込むほど、作成者の先生方のご尽力が伝わるものです。
しかしここで試験対策として大切なのは「臨床的トピック」があるということではなく、「学生が解ける問題」に仕上げてくれているというところです。

これも具体例を挙げてみましょう。例えば今回のD32を見てみましょう。この問題、心不全治療薬のトレンド『Fantastic 4』が出題されたということで盛り上がりを見せていました。

https://bbs.icrip.jp/forums/topic/118d-32/ より引用

…いや、まぁそれに関してはそうなんでしょうけども。。。国試制作委員会は『Fantastic 4』を知っておいて、その知識で解けという形では出題していないと思います。

じゃあどうやって解くか?『うっ血だから利尿薬』です。
SGLT2阻害薬が心不全の予後を改善させる理由には、それ以外の理由もありますが、少なくともこの問題に関してはこの理論で十分でしょう。もし本気でFantastic 4 の知識を問いたいのであれば、選択肢に「ループ利尿薬」を含めてくるはずです。そうであれば『うっ血だから利尿薬』という理屈だけでは解けなくなります。なぜそうしていないのか?そこまでの知識は学生に求めてはいないからです。そういう専門的な知識を問うのは『内科専門医試験』のお仕事です。

心不全で予後改善効果がないもの
・βブロッカー
・ループ利尿薬 ×
・ARB
・ARNI

第3回内科専門医試験に出題されたらしいとのことなので、引用させていただきます。
https://note.com/vast_impala886/n/n64b27298dba4 より引用

同じような考えで解けるものとして、F42も挙げておきましょう。

https://bbs.icrip.jp/forums/topic/118f-42/ より引用

答えはbだろうと思われます。なぜかって?『肺うっ血だから利尿薬』です。さっきと同じですね。細かい適応条件だとか臨床的な最新トピックスだとかを、国家試験は基本としては問うてこないのです。

おわりに。

これからの国家試験対策はどんなことをすべきか?

すべての問題を一つ一つ同様に解説していくことはここではしませんが、国家試験問題の多くはこのような「基本知識」で構成されています。最新のガイドライン・専門書に記載されている内容、それらを求められることはありません(少なくとも合格に必要な問題としては出題されません)。

そのため必要なのは疾患・治療などの要点としての基本知識です。具体的にこれを身に着けるにはどうすればよいのか?というと、最短経路は問題演習&ひたすら解説書暗記と僕は伝えています。

ジャンク演習上等!!ひたすら覚える!!

「ジャンクな問題演習はよくない」という単語をなんか今年は講義中の学生からだったり、Twitter (現 X )だったりでよく出てきた気がします。が、そんなことはありません。そもそも「ジャンクな問題演習」ってなんや!?定義を(ry

まぁ言いたいことはわかります。「ただ暗記するだけではなく、しっかりと内容を理解した方がよい」という話ですよね。それは全くもってその通り。なんですが、それは実現不可能なキレイごとなんです。
いわゆる「理解」ができる人は言われるまでもなく自分で学習して理解を深めるんです。それができないから困っているという学生が助けを求めているんです。そこにこたえなければならない。いったいどういう学習をすれば「理解」ができるのか?そもそも「理解」の定義とは?
曖昧な言葉でお茶をにごしているだけで、結局は学習者自身の能力に依存しているだけの表現に感じてしまいます。

理解とは膨大な暗記の上に初めて成立するものと考えます。まずは覚える。すべて覚える。これが学習のスタートである、というのが僕が講師経験で導き出した論理的結論です。
※僕は「理解」という単語を形式論理学的に定義して用いていますが、説明してもなかなか伝わらないだろうと思っているので、基本的に講義中に「理解」という単語は用いないようにしています。

ただあくまでスタートです。スタートラインに立った後に、次はいわゆる「理解」を深めるという発展的な学習に進んでいきます。しかし試験対策に苦しむ多くの学生はこのスタート地点に立てていないことが多い。なのでまずは覚える。これが重要。

Take Home Message

今回のnoteは今後医学の試験対策を控えているひと向けに書き記しました。各々が共感できたところは実践してもらい、そうでないところは自分なりの考えを深めてもらう、そんなきっかけが与えられていれば幸いです。

ただ多くの学生&医師と接して感じたのは「知識不足な人が多い」ということ(もちろん僕も含めて)。超優秀なひとは例外なく膨大な知識量を有しています(自覚の有無はおいておくとして)。知識が多いから優秀、というわけではありませんが知識不足は優秀ではありません。自戒の意味も込めていますが、知識を身に着けることの重要性は意識してもらえればと思います。

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こんなん記事で金儲けしようとも思わんので、すべて無料公開です。が、もし少しでもいいなと思った方は赤十字にでも寄付してください。表彰もしてもらえてうれしいよっ(`・ω・´)

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