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定期接種と任意接種の違いと補償金額:予防接種法から

第1回愛知県予防接種基礎講座 2020年11月22日

No.1 あいち小児保健医療総合センター 救急科/総合診療科 樋口徹先生

コンテンツ

• 今日までの予防接種の歴史を学ぶ
• 日本の予防接種法の変遷を知る

• 定期接種と任意接種の違いを知る
• 任意接種は必要か?

予防接種とは?

予防接種法 第1章第2条:疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射、または接種すること


予防接種に関する基本的な計画の序文から:予防接種が人類に多大な貢献を果たしてきたことは、歴史的にも証明されているところである

西暦1000年ごろに中国で天然痘の治療法が見つかった。治療法は感染者のかさぶたをすりつぶし感染していない人の鼻に吹き込む。当時は天然痘にかかると3人に1人が死んでいた。治療により軽い感染を起こすことで、再感染を防いだ。この治療法では30人に1人が死亡していた          Plotkin's Vaccines, 1, 1-15.e8 BBC News

1796年にエドワード・ジェンナーが 牛の乳絞りをする女性は天然痘にかからないことを発見した。ジェンナーは牛痘のうみを8歳の子どもに接種した。 この少年は軽い症状が出たが 大事にはならなかった。それからジェンナーは少年を天然痘のウイルスにさらした。しかし少年は天然痘にかからなかった。多数の人に接種しても天然痘に罹らなかった。ェンナーは論文執筆したが掲載されなかったので自費出版したが賛否両論あった      Plotkin's Vaccines, 1, 1-15.e8 BBC News

日本における予防接種制度 厚生労働省 資料4-1
• ジェンナーの発表から50年後... 日本各地に種痘が広まり、1858(安政5)年にお玉ケ池種痘所が設けられた→現在の東京大学医学部
• 種痘施術心得書 →1909(明治42)年に種痘法に改正

1948(昭和23)年 予防接種法制定 ←罰則付きの義務規定 
痘瘡、ジフテリア、腸チフス、パラチフス、百日咳、 結核、発疹チフス、ペスト、コレラ、猩紅熱、 インフルエンザ、ワイル病の12疾患を対象     [厚生労働省 予防接種に対する考え方について 資料4-2]

1948(昭和23)年 ジフテリア予防接種禍事件
ジフテリアワクチンの不活化の失敗により854人が予防接種によるジフテリア感染し、 84人が死亡した

1970年代 全細胞型百日咳ワクチンの副反応
脳症による2例の死亡報告あり →百日咳ワクチンの定期接種を中止
接種中止による被害(推定値)が出た→                  感染者 10,000~30,000人 死者 20~113人

1976(昭和51)年 健康被害救済制度
腸チフス、パラチフス、発疹チフス等について、より有効な予防手段が可能になってきた                            →対象から除外
→予防接種による健康被害について法的救済制度を創設
→非接種者に対する義務規定を残すものの、罰則を廃止         [厚生労働省 予防接種に対する考え方について 資料4-2]

1989-1993年 MMRワクチンによる無菌性髄膜炎
健康被害救済制度認定1041人 死亡3人
製薬会社・国を相手取った裁判が起こり、 国は相次いで敗訴し、MMRワクチンは1993年に中止された

1994(平成6)年 義務接種から勧奨接種へ                 ※公衆衛生や生活水準の向上で変化が起きた              公衆衛生→個人の健康増進→義務規定を廃し、努力規定とした →健康被害に係る救済制度の充実                         [厚生労働省 予防接種に対する考え方について 資料4-2]

勧奨とは...
[名](スル)そのことをするようすすめ励ますこと。 goo辞書

具体的には... ・接種対象者(保護者)に対し、広報誌、ポスター、インターネットなどで広報を行う ・接種期間の前に、接種を促すはがき等を各家庭に送ることや、さまざまな媒体を通じて積極的に接種を呼びかける
・母子手帳を積極的に使用する

ワクチンギャップが生じ、約20年間にわたって、世界的水準と比べて遅れをとってしまった
• 他の先進国と比べて公的に接種するワクチンが減少 • 定期接種の追加がほとんど行われない
• 国内でのワクチン開発の停滞

2001(平成13)年 対象疾患に区分を創設                  ※インフルエンザによる高齢者の肺炎の併発や死亡が社会問題に
・一類疾病:感染力の強い疾病の流行阻止、又は致死率の高い疾病による 重大な社会的損失を防止するために実施(努力義務あり)
<ジフテリア、百日せき、ポリオ、麻しん、風しん、日本脳炎、破傷風>
・二類疾病:個人の発病や重症化を防止し、このことによりその疾病の 蔓延を予防することを目的として実施(努力義務なし)
<インフルエンザ(高齢者に限る)>                   [厚生労働省 予防接種に対する考え方について 資料4-2]

2013(平成25)年 予防接種法の大きな改訂
①予防接種の計画の策定を5年毎に検討し、必要に応じて変更       ② 1類疾病→A類疾病、2類疾病→B類疾病                 ③副反応報告制度を法律上に位置付け、報告を義務化           ④予防接種施策の立案に、予防接種の分科会を設置し意見を聞く     [厚生労働省 予防接種に対する考え方について 資料4-2]

新たなワクチンの追加
平成25年4月 Hib、小児肺炎球菌、HPV感染症 (2013年)
平成26年10月 (2014年)
水痘、高齢者肺炎球菌
平成28年10月 B型肝炎 (2016年)
令和2年10月 (2020年)
ロタウイルスワクチン

定期接種

任意接種は定期接種以外!!!! ただし国内で承認されているものに限る

長期療養特例
1.長期にわたり療養を必要とする疾病にかかったこと
①重症複合免疫不全症、無ガンマグロブリン血症その他免疫の機能に支障を生じさせる重篤な疾病
②白血病、再生不良性貧血、重症筋無力症、若年性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、ネフローゼ症候群その他免疫の機能を抑制する治療を必要とする重篤な疾病
③ ①又は②の疾病に準ずると認められるもの               2.臓器の移植を受けた後、免疫の機能を抑制する治療を受けたこと
3.医学的知見に基づき1又は2に準ずると認められるもの
当該事由が消滅してから2年以内に接種をすれば、定期接種として接種を受けることができる
予防接種法施行規則第2条の5

任意接種は受けなくても良いの?                     ムンプス難聴の例では、
おたふく風邪に罹患した患者の 0.5-5.0/10万患者にムンプス難聴が発症した
日本(2004-2006年)でおたふく風邪と診断された小児の約1/1000人に難聴があった (これは海外の報告と比べて、100倍多い数字である)
日本で難聴があった症例は全例でおたふくかぜワクチンは未接種であった Pediatr Infect Dis J. 2009 Mar;28(3):173-5.

Is Japan Deaf to Mumps Vaccination?
The absence of prophylactic vaccination against mumps is surprising for a developed country, and his regrettable policy must be changed for the sake of Japanese children.
おたふく風邪に対する予防接種が無いことは 先進国にとって驚くべきことであり、 この残念な政策は日本の子ども達のために 変えなければならない。
Pediatr Infect Dis J. 2009 Mar;28(3):176.


講演スライドのダウンロード↓









製薬会社はmRNAワクチンを供給する側なので、『ワクチン接種により70万人の命を救ったが、3万人に(数字はてきとうです)重症副作用が生じた。』という表現は成り立つと思います。しかし、医師はワクチン接種による副作用をできるだけ早く診断し治療を行うのが仕事と考えます。さらに副作用による死亡例や重症例を診療したら、速やかに情報開示し被害を最小限にとどめる努力が必要ではないでしょうか?

ワクチン接種後に偶然に死ぬことがあると強く繰り返すことや、陰謀論とひとくくりにして侮蔑するのは、それは発言する医師の好みかもしれりませんが、医師としてはずしてはならない基本は正確な診断治療とリスクベネフィットの見極めではないでしょうか?


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