ワクチン接種後びまん性肺胞出血
副反応シリーズです。びまん性肺胞出血とは、肺全体にわたって、空気の存在する部分の肺胞に、肺の微小血管から血液が流出する病気です。救命救急でも生存率は良くて50%です。気道から血性の液が出て、口や鼻から出てきますから、ワクチン接種後にびまん性肺胞出血を起こして見逃されることはないでしょう。つまり、頻度はすごく稀と考えられます
症例報告
症例報告をご紹介します
59歳男性,既往歴は高血圧,糖尿病,III期慢性腎臓病,前立腺肥大症がある。さらに、1カ月半前にCOVID-19感染症で1週間ほど入院し、レムデシビルとデキサメタゾンの投与を終了し、酸素補給を必要としない状態で退院した,当院受診の約8時間前に モデルナの mRNA ワクチンを初回投与していた
数時間前から息切れと胸痛を訴え、当院を受診した
聴診で両側肺野にクラックルを認め、高流量鼻カニューレによる15L酸素吸入で80%飽和状態であった.動脈血ガスによりpH7の呼吸代謝混合性アシドーシスを認めた
緊急挿管が必要であり、集中治療室に入院した。また、ショック状態であり、平均動脈血圧を60以上に維持するためにバソプレッサーのサポートが必要であった
臨床検査では、白血球増加、血小板減少、貧血が認められ、Hbは10.2g/dl(ベースライン〜14.6g/dl)であった(表.1 文章の下方にある)
代謝パネルではクレアチニンが3.03mg/dlで、患者のベースラインは3.1mg/dl程度。肝酵素も上昇していた(表.2 文章の下方にある)
また、乳酸が6.5mmol/Lのアニオンギャップ代謝性アシドーシスを示していた。胸部X線では、びまん性の両側多巣性混濁を認めた (図1)
胸部CTでは斑状の両側間質性・肺胞性浸潤と少量の両側性滲出液貯留を認めた(図.2)
ヘモグロビンの低下傾向が続いた。何処かから出血しているのでは?
ヘモグロビンの低下傾向は、びまん性肺胞出血の存在を示す有力な検査所見です
そして、気管内チューブ吸引に肉眼的血液が認められた
この患者に緊急にベッドサイドで気管支鏡検査を行った
気管支洗浄液に多量の血液が認められ、その後の洗浄のたびに血液が増加した
これでこの論文の患者の診断がつきました
気管支洗浄液からの感染症検査では,細菌,真菌の培養,AFB(acid-fast bacillus),COVID,HSV(herpes simplex virus)などのウイルスパネルがすべて陰性であった.
免疫学的検査(表3)では、抗好中球細胞質抗体(P-ANCA、C-ANCA)、抗核抗体(ANA)、抗糸球体基底膜抗体(GBM)の抗体検査も行われたが、いずれも陰性であった
治療
この患者にはメチルプレドニゾロン1mg/kgを1日2回静脈内投与され,重積した肺炎を経験的にカバーするために広域抗生物質の投与が開始された.
ステロイドと抗生物質の投与中は安定した状態を保った.8日目に挿管を抜管し、翌日にICUから病棟に移った
その後、経口ステロイドを5〜6週間漸減し、退院した
出典↓
この論文のブログ記事↓
びまん性肺胞出血とは?
症状が出たら迅速にびまん性肺胞出血 を疑い、迅速な検査が必要です。それでも入院死亡率は高く、20~50%もあります
急性発症の息切れ、喀血(患者の3分の1のみ)、胸部X線所見に付随する全身性疾患の肺外症状から、びまん性肺胞出血を疑う必要があります。びまん性肺胞出血 DAHの診断には、胸部X線と高解像度CTが含まれます
典型的なパターンは、肺胞充填の結果としての局所的またはびまん性のすりガラス状の混濁またはコンソリデーションです
下は、インターネットで閲覧可能な胸部X線とCT画像です。びまん性肺胞出血 diffuse alveolar hemorrhageという名前ですが、それぞれの状況によって病変部は全肺野から局所的な病変まである
次の症例は、胸部CTと共に気管支鏡の洗浄液が掲示されています。フレッシュな赤い色です
気管支鏡の連続洗浄でびまん性肺胞出血の診断を確認します
3本のシリンジを順次気管支に流し、吸引する。 洗浄を繰り返すうちに血液が澄んでくれば、気管支が出血であると示唆される。 洗浄液が順次充血してくるようであれば、びまん性肺胞出血の可能性がある
びまん性肺胞出血 DAH の臨床的定義
DAHは通常、3つの主要な要素の存在によって定義されます
(1)肺出血の徴候(血便を伴う気管支鏡検査)または症状(呼吸困難、咳、喀血)
(2)ヘモグロビンの新しい低下(通常1.5-2g/dL)
(3)胸部画像上の新しいびまん性の浸潤
ワクチン誘発性びまん性肺胞出血にはいくつかの発症機序が考えられますが、現段階では全て仮説です
左側は、肺の肺胞上皮細胞に隣接する毛細血管内皮細胞の障害 (死) によるモデルです。ワクチンが原因であると想定した場合に、毛細血管上皮細胞を障害する因子は複数存在します。スパイク蛋白、スパイク蛋白とこれに対する抗体を含む免疫複合体(IC)、スパイク蛋白を光源として提示する細胞に対するキラーT細胞です。傷害される細胞は、肺胞上皮細胞かもしれません
右側はスパイク蛋白とこれに対する抗体を含む免疫複合体 IC、補体、毛細血管炎、好中球(Ne)を介したモデルです。免疫複合体 ICは免疫反応を誘導します。組織に浸潤した好中球は壊死を起こし、好中球細胞外トラップ(NET)の形成と毛細血管および肺胞基盤膜の破壊をもたらします。この損傷により、肺胞空間への血液の漏出が促進されます
まとめ
気管支鏡検査が、びまん性肺胞出血の診断のキーポイントです。感染性の病因を除外します。気管支鏡検査で洗浄しても、血液が持続または増加する場合はびまん性肺胞出血の診断となります
この論文の症例では急性に発症した息切れで、胸部X線所見では両側の多巣性混濁が認められました。感染症や肺水腫が、びまん性肺胞出血 DAH との鑑別の中心とされました。気管支鏡検査が速やかに実施され、診断が確立されました
肺の組織は下の写真のようになっています。肺胞に空気は含まれず、代わりに血液で満たされています。肺胞呼吸ができない状態です。患者に酸素を何リットル流しても、肺胞呼吸ができません
びまん性肺胞出血 DAHは、免疫学的または非免疫学的な原因によって起こる可能性があります。免疫学的な原因は、30-40%を占めています
この患者も免疫学的な原因や血管炎が根底にあると考えられたが、検査では陰性であった。クレアチニンクリアランスは低下していたが、尿検査では蛋白尿と血尿は陰性であり、糸球体腎炎でないことが示唆された。病因は不明であり、さらに症状発現前の病歴を聴取したところ、ワクチンによるDAHの可能性が疑われました
愛西市の女性は、ワクチン接種後びまん性肺胞出血ですか?
解剖が実施されなかったので、2022(令和4)年11月11日の第88回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会、令和4年度第18回薬事・食品衛 生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全 対策調査会(合同開催) 資料 1-3-1 別添 (事務局追加修正)の情報が全てになります
症例の経過
4:18 ワクチン接種。
14:25 咳が出始め看護師によって車椅子で救護室に移動
14:28 医師診察。呼吸苦。聴診で喘鳴なし。SpO2 60%台のため酸素5 リットル開始
14:30 ピンク色の状泡沫の血痰を大量に排出。鼻腔からも血痰が溢れる。意識レベル低下。
14:34 呼吸停止 。総頸動脈/鼠蹊動脈に拍動を触れない。bystander CPR開始。
14:35-36 AED装着。
14:40 心拍再開。あえぎ様呼吸再開。
14:42 心肺停止。
14:45 救急車内。心静止状態、瞳孔散大、対光反射なし。
15:15 三次救急に着く。
以上、報告医1の報告
15:15 隣接市の新型コロナウイルスワクチ ン接種会場から心肺蘇生患者の救急搬送を報告者の医療機 関の救命救急センターにて受け入れた。到着時、心肺停止 状態で、心電図波形は心静止。
心肺蘇生を継続し、 ルート確保のうえ、アドレナリン1mgを投与し、挿管管理を実施した。アドレナリン1mgを計8回投与するも反応はなかった。
15:58 死亡確認。死亡時画像診断を実施し、高度肺うっ血像認めた。病理解剖は実施せず。
救急隊から、推定体重110kg。救急搬送時の所見としては、高度肥満があり、皮膚 および粘膜病変は認めなかった。
以前のかかりつけ医から、既往として高血圧症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群があった。
接種会場での状況につい て、ワクチン接種前から呼吸苦があったとの情報と急変時に泡沫状血痰があったとの情報があり、急性心不全を死因とし たそうです
以上、報告医2の報告
資料を下に開陳しました
資料 1-3-1 別添をここからダウンロードできます
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