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(番外編)中山博喜氏講演会「アフガンに命の水をー中村哲の「この指とまれ!」ー」開催報告(2021年11月28日開催)

はじめに

こんにちは、閲覧いただきありがとうございます。
番外編の執筆を務めさせていただきます、九州大学所属のA.Nです。

 今回は中村哲記念講座の番外編として、11月28日に開催された中山博喜氏講演会「アフガンに命の水をー中村哲の「この指とまれ!」ー」の開催報告についてのnote投稿をさせていただきます。

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中山博喜さんについて

始めに、今回の講演会の講演者であった中山博喜さんについて説明させていただきます。

中山さんは大学を卒業後の2001年4月より5年間、PMS・ペシャワール会の現地ワーカーとして中村哲医師の活動に参加されました。現地では経理を担当しながら、各事業に携わり、2006 年の帰国後は、京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)写真暗室技官を経て、現在は同大学准教授として教鞭を執られています。現地での体験を学生たちに語り続けられており、2021年には現地で撮影した写真とエッセイ「水を招く」(赤々舎)が出版され、写真展も開催されています。

 2001年からの5年間といえば、中村先生が丁度アフガニスタンでの灌漑事業に着手された時期に重なります。
 そんな中山さんが、今、講演で語り掛けたいこととは何だったのか。講演会について振り返ってみます。


講演会開演


講演会のプログラムは以下の流れでした。

15:00 開場、DVD上映「知るを楽しむ」
15:40 講演(中山博喜氏)
    「アフガンに命の水を
    ー中村哲の『この指止まれ!』ー」
16:50 中山さんと学生によるセッション
     中山さんと考える「今の自分に大切なことは
     何だろうか?できることは何だろうか?」
17:10 中山さんへの質疑応答
17:30 閉会

 当日の予約人数は、なんと目安にしていた半分(50名)を大幅に超え、ほぼ満員御礼のおよそ100名。もともと実行委員が座る予定だった後方の座席まで参加者の方で埋まってくれました。

☟開演頃の様子。予想よりたくさんの方に来ていただくことができました。会場の左右にあるのは、企画の方が作ってくださった中村先生や学校での活動についての紹介パネルです。

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 今回私が、記念講座のTAを務めた先輩方が執筆されていたnoteに投稿しているように、今回の講演会の実行委員会も、九大生や福岡高校生といった「学生」を中心とした団体でした。今となっては昔の、9月の後半にペシャワール会の方に声をかけていただき、第一回の全体ミーティングに集まったのはおよそ10人強。ここから企画、運営、広報の3つに分かれ、課としては別れつつも、開催までのおよそ2カ月間、関係性を密にして動いてきました。具体的には、企画は講演のまだ内容が未決定だった枠で何を催すかの提案、運営は予約設定・確認及び当日の動きの段取りの取り決め、広報はポスター・チラシの製作やSNSにおける発信を中心とした広告を行いました。

講演会

中山さんの講演

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 DVD上演が終わり、PMS支援室長の藤田千代子さんによる紹介の後、中山さんによる講演が行われました。(藤田さん曰く、支援する側/される側という二分法的な意識を持たずに、現地にさりげなくなじまれていた中山さんは、現地ワーカーの中でほぼ唯一「もうちょっと…」と引き留められた方だったそうです。)
 「今のアフガンと世界はどう動いているのか、を考えてほしい」という言葉を前置きに、中山さんが現地へ赴く以前、すなわち中村先生の「白衣時代」(1984年~90年代の、医療を中心に活動されていた時期)から話は始まりました。
 医療従事者育成の役割も担っていたPMS基地病院開設された後、病理の基となる、アフガニスタンにおける「水」環境の改善のための灌漑事業が2000年代から始まり、ここでの井戸掘りに中山さんも参加されるようになります。(初の遠征は雪をかき分けて作った道を通ってトイレを作ることだったそうです。)
 ところで、生活に重要になるその井戸を掘る場所は「水が出やすい場所」を掘っている、と思われる方が多いかもしれません。ですが中山さん曰く、井戸を掘る場所は決まっており、それも「その周辺にいる家族が「他の家族とも共用する」と決めた所だけ」を掘る場所に指定していたそうです。この井戸掘りにおいて、水が出るかどうか、ということはもちろん「必要なこと」ですが、他の家族と共用できるか、ということは「大事なこと」であり、ただ”水があるなら”それでいい、という話ではありませんでした。マンパワーに関しても、将来その井戸を使うであろう方々にお金を渡して一緒に掘り、掘り終わったらその井戸を渡す、というやり方を採択されていました。
 (その井戸掘りで一番大変だったのは水が出た後に「水量を増やす」事だったようで、いかに屈強な方でも地下から沸いた冷たい水に浸かりながら掘り続けることは難しかったのだとか…)
 「井戸を100本作っても、まだ規模は小さい」ということで進められた水路建設においても、建設予定地は始め「こんなところ(ガンベリ砂漠)に水が通るイメージが無かった」といわれるような土地でした。アフガニスタンは元々緑豊かな場所でしたが、干ばつによって緑を失ってしまった地域です。その緑が失われる中、故郷を失った人たちを元に戻していくことが、中村先生のやることだった、と中山さんは語りました。

 井戸掘り・水路建設以外にも中山さんが体験したものとして、中山さんが挙げたものは食料配給です。9.11に伴う制裁としての国際援助の食料供給停止により飢餓問題が深刻化した2000年代初期のアフガニスタンにおいて、「国際社会がやらないなら」と始められた食料配給の中で、アフガニスタン国民の命の危機においても出てくる食糧の値段に対する懸念に対し初めて中村先生が怒ったという話も紹介されました。

 そして中山さんは最後に、しばしば尋ねられる質問である「私たちにできることは何なのか」についての話をされました。
 この問いはとても広いものであり、というのも、誰が問うものなのか、それぞれの立場によって答えが変わるものであるためです、と中山さん。その一方で、こういった簡単に一つの答えに収斂できるものではないからこそ、それぞれの境遇に沿った答えが用意されている、とのことでした。
 では、「今の自分に」できることとは何なのか。プログラムは次に移ります。

中山さんと学生によるセッション

 中山さんの講演も終わると、次は「中山さんと学生によるセッション」の時間です。ここでは、登壇した学生が質問を中山さんに投げかけ、答えていただくという形をとっていました。

「中村先生だから・中山さんだったからできた」「アフガニスタンだからできた」という話をしたいのではなく、「自分が」「アフガニスタンに限らずとも」できることは何なのか?と考える機会にし、またいろんな方にとってもそんな機会になるようにしたい。

という企画側からの提案の下、およそ1ヶ月間、どうしたら良いセッションになるか、ただの会話だけで終わらないセッションを作り上げるための案を練り続けました。

☟学生セッション時の様子。登壇者の学生の三人(右側)はアフガニスタンの民族衣装をそれぞれ着用しています。

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 学生として登壇してくれた三人はそれぞれ「国際問題の課題解決の可能性」について、「根本的な解決を図る思想を育むこと」について、そして「意志を貫くことの難しさ」について、中山さんに投げかけました。
 ですが、この三人はただ尋ねたのではなく、それぞれその「問い」を聞こう、と思った背景があります。たとえば二つ目(「根本的な解決を図る思想を育む」ことについて)の質問者の方は、他者の「軸」となっているものを大事にする必要性はあるが、そもそも国際問題等において相手の軸を知る際にはニュース等で流れてくる情報を基にすることが多く、それだと情報そのものの絶対量が少ない問題の場合、一方方向の情報しか流れてこない場合も存在するからどうしたらいいのか、という自身の日常における葛藤をもとに質問していました。
 この質問に対し中山さんは、質問者の方と同様に所謂「外向き」の情報の怖さを指摘しながらも、いろいろな「軸」を見て、様々な情報を得ながら動くことの大切さを強調されました。
 具体的な将来が見通せないという悩みは、学生も、コロナ禍の社会を生きる会場の方々も共通して持っていた問題であったと思われます。そのことを元にして、自分の「やりたい」ができない葛藤をこの場で共有できたこと、また、中山さんの話を通じて、「他人の考えの軸となっているものを理解して、自分の軸との「同じ」を見つけ出し、要求があるなら、理想があるなら動くこと」ということが大切であるという一つの解に、この会でたどりついたことは、実行委員にとってのゴールをひとつ達成できたように思います。

さいごに

 最後に、九州大学で最近組織された中村哲先生に関係した学生会についての紹介を簡単にさせていただきます。
 この学生会は今まで基本的に学校側からのアクションが多かった中村哲先生の想いを繋ぐ活動を、学生側からのアクションを増やすことを目的の一つとして組織されました。
 まだ組織されたばっかりで具体的なイベント等も決まっていませんが、メンバーには中村哲記念講座の受講者や、今回の講演会での実行委員を務めてくれた方などが参加しており、これからの動きが楽しみです。学生会について気になる方がいらっしゃいましたら、ぜひ今回の講演会実行委員会のSNSアカウント(Twitter: @Ao0Te)を経由してメッセージをお送りください!
 また、もし何かイベント等で同じ場所を共有できる機会や、この学生会と関わることがありますことを楽しみにしています!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



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