見出し画像

パラウォッチ-ENのお気に入り作品

SCP財団とクリーピーパスタ

クリーピーパスタとは、クリーピー (不気味) なコピーパスタ (コピー&ペーストで拡散するコンテンツ)、要するに掲示板とかで拡散されるネットホラーである。端的に言うならば、欧米版洒落怖と言ったところ。クリーピーパスタは2000~2010年代に4chanなどの海外掲示板で流行し、スレンダーマン、ジェフ・ザ・キラーなどの有名なものを多数生み出してきた。

SCP-173も当初はクリーピーパスタの一種として誕生・拡散したものだったので、SCP財団のルーツはこのクリーピーパスタにあることになる (人気が出たクリーピーパスタがシリーズ化することはしばしばある。最近ではBackroomsがこのパターン)。

当然、初期のSCPコミュニティはクリーピーパスタ愛好家の集団だったわけで、彼らはSCP以外にもクリーピーパスタ創作をちらほらと行っていた。英語版コミュニティでは、そうしたSCP関係者が著したクリーピーパスタもまたサイト内外に保管されていた。

また、以後も時折クリーピーパスタが書かれることがあった。特にDr Gears氏の誕生日に毎年サイト中からクリーピーパスタが寄稿されるGears' Dayなどのイベントもあり、ENコミュニティではSCPとクリーピーパスタは比較的近接した位置にあったと言える。

とはいえ、SCPverseと関係の希薄な作品群なので、投稿数は (イベント時を除けば) それほど多いわけではなかった。この状況は、ある要注意団体の登場で変化してくることとなる。パラウォッチだ。

要注意団体「パラウォッチ」

パラウォッチは欧米圏のインターネットを主体に活動している、オカルト・陰謀論愛好家の集団である。Paranormality (超常存在) + Watch (見張り) でParawatchだ。彼らは同名のフォーラムサイトで日々、自分が調査したり遭遇した怪異についての情報交換を行っている。

当初、パラウォッチはNatVoltec氏のSCP-3840で軽く登場しただけの団体だったのだが、後にThe Great Hippo氏により「パラウォッチに投稿された怪異譚」のかたちのクリーピーパスタ作品が連投されたことで、一躍ブームとなった。

パラウォッチの特徴的な点は以下。

  • 一般人目線の、従来のホラーテイストに近い怪異描写を行える。これまでも一般人目線の作品はあるにはあったが、財団や既存アノマリー、要注意団体などがどうしても関わってくることが多かった。パラウォッチではこれらの概念を考慮せずとも創作が可能である。

  • インターネットフォーラム (掲示板) 形式をとったことで、これまで短編小説スタイルが主流だったサイト内クリーピーパスタから一転し、リアリティがありつつ書きやすい形式が完成された。

  • 「財団世界に存在するサイトに投稿された怪異報告」という形態をとったことで、SCPと関係が無く投稿しづらかったクリーピーパスタの投稿しやすさを向上させた。また、このスタイルをとったことで、SCP報告書やTaleなどでもパラウォッチの登場機会が多く発生し、より受容されやすさが上がることになった。

パラウォッチは一躍拡大し、他著者もHippoに追随して様々なクリーピーパスタを投稿した。この波は日本語版 (SCP-JP) にも波及し、2chオカ板や洒落怖、民俗ホラーと融合して独自進化を遂げることになる……が、ここではそれは扱わない。

(それはそうと、パラウォッチは本来欧米圏以外ではロクに活動していないはずなのだが、なぜか東アジアの支部サイトでは普通に活動しがちである。SCP wikiみたいに、後日追加で支部とかが生えたのだろうか?)

お気に入りパラウォッチ-EN

ようやく本題。そういうわけで、ENのパラウォッチ作品のうち、お気に入りのものを紹介する。ただし怖いかどうかはものによる。

タワーB

Hippoの初期三部作、『Abwesenheit』『タワーB』『サンデー・ディナー』はどれも名作だが、個人的にタワーBは是非推したい。

この作品には、Hippo流のクリーピーパスタの美学が詰まっている。現実にあるちょっとマイナーな仕事や事故記録を土台にすることで、読者の知的好奇心を刺激しつつ、現実と虚構の間を曖昧にしていく手法だ。

幽霊というよりはクリーチャー系の話なのだが、海中の閉鎖環境と実話に基づく悲惨極まりない事故記録が、独特の空気感を醸し出している名作だ。個人的にはパラウォッチ-ENで一番好きだったりする。

VHSスルー: サンデー・ディナー

Hippo三部作より2本目。いわゆるスナッフフィルムを扱った直球のスプラッタだが、最後の一文が後味が悪くも、予定調和的な爽やかさで殴り抜けてくれるので良い。パラウォッチ作品として、JPで初めて注目記事に選出されてその名を我が国に知らしめた作品でもあるので、これを挙げないわけには行かないだろう。

エスケイプ・フロム・テルミナス

またもやHippo作品。Hippo大好き人間なので仕方ない。これもまた、近現代の実在しそうなものを扱った作品であり、胡散臭い海外ネタ紹介ブログのような空気感が漂っている。

この作品は架空のマイナーTRPG「エスケイプ・フロム・テルミナス」とそのファンコミュニティに関する歴史解説なのだが、怪異が絶妙に現実の都市伝説レベルなこともあって、個人的にはHippo作品で一番実在度が高いように思う。知り合いのENウォッチャーたちからも人気が高い (個人調べ)。

聖クロード孤児院の時計

ようやくHippo街道を抜けて来た。この作品は一見すると不気味な孤児院の話だが、よく見ると財団世界のある存在との関連が示唆されている。このやり口には痺れたし、正直そのうち真似したいと思っている。

類似作品としては『ハイヤー・マインズ』や『キング・カンパニー織物工場』も挙げられる。前者は単純に面白いし、後者はあえてフォーラムスタイルではなくWikipedia風の形式で綴られているのが独特だ。パラウォッチwikiを名乗るくらいなのだから、確かにこういうページがあって然るべきなのだなあ。これもそのうち後追いしたい要素である。

アイマン

スターウォーズの存在しないはずのキャラクターと、何故かそのキャラクターの記憶を持った人々の話。もうお分かりだと思うが、近代的な異国文化×怪異が大好きな人間なので、当然これも刺さった。ジワジワと効いてくる厭なオチが良い。

9号変電所

Hippo再び。この時期のHippoは不気味動画を作中に取り入れる試みをしていて、これもまた動画がふんだんに使われている。ライトが無ければ真っ暗闇の、水没した地下施設を探査する動画は、不気味な文章と合わさって、常に警戒しまくりながら見る羽目になるので滅茶苦茶怖い。この作品はJPでもTwitterなどで話題になっていたので、界隈に近い人は知っているかもしれない。

ちなみになんか絵面や出来事がフェイクドキュメンタリーQのフィルムインフェルノに似ているが、まあ偶然の一致だと思われる。流石に映像作品に全フリしたあれよりは怖くないよ。まあ夜中にヘッドホンで見てるとけっこう怖いけど。

うさちゃんのお医者さん

ちょっとやさしい (?) 怪異譚。いやまあ不気味なんだけど、善意の犠牲やちょっとだけ爽やかさのある締めで何とも言えない読後感を醸し出す。こういうのもいいよね。なんか小学校の図書館とかに置いてあるホラー短編集に収録されてそう。

SCP-4240 - 回り道ゲーム

最後に番外編。これはSCP報告書だし、クリーピーパスタでも一般人視点でもなく、何ならパラウォッチ経由で発見されただけなので、関係性は薄い。とはいえベタながら良い塩梅の作品なので、けっこう好きだったりする。

SCP報告書でパラウォッチが出てくる場合、「パラウォッチ経由で発見される」「パラウォッチに投稿された関連レスが報告書中で抜粋される」「怪異調査中のパラウォッチ関係者と出会う」あたりの3ルートに大まかに分けられる気がするが、これは最初の2つに該当するパターン。同様のパターンだとSCP-4430とかも好き。

おわりに

そういうわけで、好きなパラウォッチ作品 (英語版) を列挙してみた。ENではもうパラウォッチのクリーピーパスタブームは過ぎ去ってしまっているけれども、今でも投稿している人はいるし (ある意味、一般化したということでもある)、未翻訳作品も数多い。もし面白そうな作品が出てきたら教えてください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?