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「個別化医療」と「患者中心的アプローチ」のちがい

「個別化医療」をご存知でしょうか?それとはまた別に糖尿病業界では患者中心的アプローチという考え方が以前よりあります。

この2つって何が違うの?と思いますよね?

この2つの違いを知ることは、とっても大切なので今回触れさせていただきます。

1.本日のポイント

・「患者中心的アプローチとは、個人のライフスタイルに合わせて治療を決める患者の主体性を重んじる治療のこと

「個別化医療」というのは、個人の遺伝子情報からわかる、その人の体(体質)にもっとも合った治療を特定して適応すること。別名「プリシジョンメディシン」や「テーラーメイド医療」


2.「患者中心的アプローチ」について

まず押さてほしいのは患者中心的アプローチとは、数ある治療選択肢のなかから、”年齢、生活事情、性格”を考慮して、その人にぴったり医療"を提供すること」であり、基本的には治療の選択肢が復数あるような疾患で使われるコトバです。

この前、藤原和博さんの本を読んでいたら、ビジネス業界では「質が保たれたサービスをみんなに等しく分配」から「個人1人1人のニーズに合わせたサービスの提供」へと流れが転じているというお話がありました。

まさに、このこと!

糖尿病でいえば「血糖値100以下という目標にして、さらに、200以下にさがらないひとにはインスリンを打ちます」という画一された医療ではなく、「その目標とする血糖値や使う薬を、その人自身の"年齢"、"好み"、"生活状況"に合わせて臨機応変に変えていく」ことです

薬にかぎらず、医療器具についても同じです。たとえば、こんな感じ ↓

「とにかく最新テクノロジーが好きな若い人にはAI機能搭載の血糖測定器を使ってもらい(日本にはまだないけど)、機械嫌いのご高齢の方には見た目や機能よりもわかりやすさを重視した血糖測定器を使ってもらう」

このように、「年齢・好み・ライフスタイルに合わせる」ためには患者さんが主体的になることが必須です。昔のように「先生におまかせします」といっては成り立たないというわけです。与えられた複数の選択肢から自分で治療を選ぶ意思をもつということです。(とはいえ、どうしても譲れないときはあります。もちろん、みなさんのためを思ってです。。。)

でも、選択肢が増えることっていいことばかりではありません(「選択の科学」参考)。とくに我々日本人は、主体的に決めることが苦手ですので、ストレスに感じる人も多いかもしれません。さらに、御高齢の方は、昔のパターナリズム(医者の言うことには理由も聞かずに絶対に従うべし!という考え)が染み付いてますので、もっと難しいです。実際、私の外来でも医者が決めてくれって言う人が大半です。

ですが、私は患者さんが主体性を持って医療に臨むということは非常に重要なことと信じています。なぜなら、それが一般の方々の医学への興味・関心の増進につながるからです。

今の日本の医療がもっとより良いものに発展するには、一般の方々の医療への”理解と協力”が不可欠です。病気にならないための健康増進を意識するのはもちろんのこと、年齢とともに病気とうまく付き合っていくにはどうしたらいいのかを考えなければなりません。また、少なくとも自分が持っている疾患についての治療の選択肢などは詳しく知っておく必要もあるでしょう。もしかしたら、そうすることで、その疾患に関する強い関心をもっていただき、よりよい治療薬の開発研究などにご協力いただけることも増えるかもしれません。こうして医療職や国だけではなく、「みんなで」日本の医療を支えことが必要です。

3.じゃあ「個別化医療(こべつかいりょう)」ってなに?

さて、それに対して「個別化医療」とは「その人自身の遺伝子から得られた"体質"にもっとも適した治療を提供する」ということです

医者は「個別化医療(こべつかいりょう)」といったり、「てーらーめいど医療」、「プリシジョンメディシン」なんていう名前でかっこつけて言ってます。(一時期の流行語でした)

つまり、先程の例とは異なり、この複数の選択肢をあげて選ぶということもはありません。なぜなら、「遺伝子検査(いでんしけんさ)」の結果で、その人のライフスタイルがどうであれ、その人固有の体質に合った最適な方法を提供しますというもの。大事なことは、遺伝情報は「変えることができない」ということです。なので、一回検査してしまえば、その1回のデータを一生使えるというわけです。

いくら努力しても遺伝学的な運命からは逃れることができない(かもしれない)ともいえます。しかし、この辺は少し難しくて環境要因と遺伝要因の両方がどれだけ関与しているかにもよります。

3.まとめ

もうおわかりのように、個別化医療は主体性をもって治療を選ぶという話とは全く異なります!

われわれ糖尿病業界でいう患者中心的アプローチは「患者さんが主体的に選ぶことができる治療選択肢が増える」、一方で個別化医療は「その患者さんの"(主に遺伝的)体質"にあわせた最適な医療を提供する」という理解でひとまずは大丈夫だと思います

4.さいごに

最後に1つだけ注意させてください

日本ではとくに癌の領域で個別化医療が進んでいます。癌患者における遺伝子検査が保険適応になるというニュースもありましたよね

この場合の個別化医療とは、「患者さんの遺伝的体質」ではなく「癌細胞の体質(性質)」に合わせた治療のことになります。ですが、予想されるように、癌細胞の遺伝子検査をしたら、患者さん自身の遺伝的体質がわかってしまうこともあります。これに関しては「体細胞変異」「生殖細胞変異」なんていう非常に難解な用語の理解が必要です。この説明はまた長くなってしまうので、別の機会に、、


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