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素敵な素数に乾杯を

朝5時。俺の一日が終わる。

夜勤から帰る途中、コンビニに寄った。
休憩中に飯を食らったせいか腹は減ってないが、なんとなく寄った。
いつもは弁当とビールを買うのだが、今は食指が動かない。でもなんか腹にいれたい。お腹も空いていないのに。なんで?

とりあえず酒は買った。角ハイ。家にウイスキーも炭酸水もあるのにカゴに突っ込んだ。自分でもこの行動の意味が分からない。たぶん疲れているのだろう。

あとはアテだが、これがなかなか悩みどころだ。なぜなら腹が減っていないからだ。サラダくらいしか入らんが、サラダとハイボールはちょっと組み合わせが悪い。流石にそのコーナーをスルーし、冷凍庫に向かった。ハーゲンダッツが目に入った。カゴに入れた。

俺はアイスクリームがあんまり好きじゃない。お腹が緩いのであまりアイスを食べないし、アイスを食うとしたらクリームじゃなくてシャーベットみたいなやつの方が好きだ。

ハーゲンダッツを見た時、ふとバイト先のあの娘との会話を思い出した。
その娘は昔よく同じ時間のシフトに出ていた。客も少なく暇だった時ふらふらと店内を散歩しているとその娘が言った。
「この味のハーゲンダッツが一番好きなんです。」
あれ、どの味のことだったっけなあ。

帰ってシャワーを浴びて、サカナクションを聴きながらハイボールの缶を開けた。なんか気分じゃなかったのでハーゲンダッツは家の冷凍庫に入れたまま、出さなかった。いつか食べるだろ。

角ハイの缶の側面に、「あなたの素敵な夜に、角ハイボール。」と書いてあった。
その『素敵』が『素数』に見えて、一瞬意味が分からなかった。

「あなたの素数な夜に、角ハイボール」

なんか詩的だ。割り切れない夜ってことでしょ?


テーブルの向こうの、カーテンの裾から漏れる光が完全に朝だった。この側面にも書いてあるとおり、これは夜に飲むべきものなのに、こんな時間に1人で乾杯しちゃって、ねえ。

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