おっちゃんの一日 完結編

もう冬の気配がビュンビュンに感じる11月中旬であるが、今日は気温も高かったので、自転車の清掃なんかしちゃうか〜日曜日だしとか思ってウキウキで1年以上清掃してないチェーンをゴシゴシゴシゴシ擦り始めた。幸いに長いものを前後に擦る運動は20年以上鍛錬してきているので苦にもならず、クロスバイクのチェーンはさながらセシルのように暗黒騎士からパラディンへと無事ジョブチェンジを果たした。

その後も細かいタスクを片付け最高に気分が良くなったワタクシは自転車の試走に出る。気分よく走っちゃおうかな〜なんて思い、気持ちの昂りと共に変速した途端チェーンが外れた。掃除の時きちんと正しい位置にはめてなかったなコイツ。別にすぐにつけれるんだけど暗い、とても暗い。
ヘッドライトを外して手元灯にしてガチャガチャはめようとするけど腕はライトを持つ手が一本、チェーンをたるませる手が一本、チェーンをカチャンとはめる手が一本、通常の人間ならここで足りていない。俺は阿修羅様ではないし股間についてる3番目の幻の手は生命の奔流を放つことしかできない。なお生命を産んだことはない。

そんなことしてたらいきなり前方から赤色灯をクルクル回す車がすげーゆっくり走ってきた。ゲェ!ポリスマン!後ろにはノロノロ走る車をいっぱい連れてその姿はカルガモの親子のようである。
ここで閃いてしまった。不審な人間を装えば止まってくれて職質されて手伝ってくれるのでは?ワタクシは自転車を持って歩道でクルクル回りパトカーを見てから『ヤベッ!』みたいな動作を繰り返した。その努力も虚しく、ポリスメンは金魚のフンを連れて通り過ぎていった。治安の良さに驕った当局、お前らは市民を信用しすぎているだろう、ここが蕨なら高速で職質されていたに違いない。チェーンはその後普通にハマりました。

気を取り直して勢いよく5キロほど走って気持ちよくなってきたところ、世界一好きな豚の餌を出す店の近くまで来たのでこれ食って帰ろう、これで今日という物語は最高のエンディングを迎える、その筋書きを予言の書にしたため、チャリ豚は豚の店に向かうのであった。
そこで目にした悍ましい光景、なんと豚ショップに30〜40人ほどの部活キッズが並んでいたのである。は?後40分で閉店だぞ?店内カウンターのみ10席くらいだぞ?え?どうなってる?日曜の夜だぞ?並んでもダメじゃない?ちなみに私はすでに並ぶ気を無くしている。
しかし諦めるな、どこにでも活路を見出せ。フリーレンもダイの大冒険も全部読んでいる。ヒュンケル最後の戦い、キングを勝ち目0からあそこまで追い込んだのだ。
鎧化した私はまず部活キッズを観察し始めた。ちなみに私は群れる人間が嫌いである。タバコ、飲酒、公共への迷惑、何かしら引っ掛かればそれを盾に善良な市民を装いグランドクロスを学校に打ち込んでやろうとした。しかしながらキッズたち、ガキだからなんかムカつくという以外に落ち度も何もない健康優良児でしかない。健康優良児は豚の餌食わないと思うけど。むしろキッズの後ろに並んでた若い女ソロがめっちゃ気になった。敗北。キッズたちを岩に乗せ投げ出し、私は溶岩に沈んでいった。
こう思うと自分が学生の時、とにかく公共ではきちんとしろ、誰でもお前らを見ていると教育されたことの正しさが身に染みる。私のいた高校の部活は今や全国ナンバーワンの名門というくらいセンシティブなのである。教師の指示を胸に深く刻んでいた私は、ジャンカラで酒飲んで始発まで公園で寝てたりラウンドワンの事務所に連れて行かれたくらいしかない健康優良児だった。

ちなみにラウンドワンの事務所に連れて行かれた話、かなりのトラウマで基本誰にも話したことがないのだが、本邦初公開しよう。高校からプライズ(クレーンキャッチャー)が大好きだった私は、初めてできた彼女(いくちゃん)との初デートでもプライズをやっていたキチガイである。いくちゃんはめちゃくちゃいい子でアホだったのですごいすごーいと喜んでくれた。
ラウンドワンにはいくちゃんではなく他校の女子を連れてラウンドワンに行ってたのだが、私は景品が欲しいわけではなく『獲得した』という結果が欲しくて日々なんかグリッチや設定ミスみたいなのがないか研究していたのである。つるなかみたいなもの(つるなかはググってくれ)。
その日のラウンドワンで私はとんでもない構造不備を発見した。なんと獲得口から手を伸ばせば景品が落とせるのである。世紀の大発見をした私は即実行、FF14でいうと極ラムウをタイタン・エギにタンクをやらせるテクニックを見つけた時くらい喜んでいた。
しかしその刹那、可愛らしいお姉さんに肩を叩かれる。『すみません、事務所来てください』私は何を言われてるのか理解できなかった。表彰されるような顔をお姉さんはしてなかった。他校の女子は他の連れに預けて帰らせ、私は事務所に連れて行かれた。

『万引きだよ?わかる?』私は店長らしき方に脅しみたいな説教を受けていた。そもそもマジな話、これが犯罪だとわからなかったのでそれも合わせて動揺していた。万引きなどをするやつはクズだと思っており、万引き自慢するクラスメイトと中学の時に不仲になったくらいの正義感である。泣きながら謝ってたことは覚えてる。マジで悪意なかったんだろうなと思ってうまいこと反省促して許してもらったが、罪になることをしてしまったということが恥ずかしくてこの話は永久に封印された。連れたちには『ちょっと怒られた』みたいな誤魔化ししてたと思う。この辺から私は『やましいことはしてはいけない』という気持ちが強くなった。
当時の彼女のいくちゃんに『今日…親いないの』というメールが来て『忙しい』と返してしまったくらいの正義感である。ごめんなさい、本当はどうやってセックスをしていいのかわからない童貞なんで、怖くてヒヨって逃げただけです。その後先輩からもらったふたりエッチをめちゃくちゃ読んで勉強をしたが、いくちゃんとセックスする前に別れてしまった。私が当時人気だった女の子に言い寄られたからである。本当にゴミです。いくちゃんごめんなさい。
その天罰として、私はその新しい彼女ともセックスをすることもなく童貞未卒業で高校を卒業してしまった。

そして長いものを前後に擦る運動は繰り返された。生命の奔流は散っていくのである。

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