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「フィールドレコーディング 東京羽田空港機能拡張に伴う航空機騒音」について

動画とその説明

(Youtube)

2022年5月〜12月にかけて収録。

注意

  • すべての収録において、同一の収録設定を使用しています。そのため、各地点の動画を聴き比べることで、それぞれの騒音の大きさの違いを感じることができるはずです。

  • 大きな音を無理なく収録するために、これら動画の平均音量は、一般的な動画のものと比べて、かなり小さくなっています。

  • 人々が住む場所の価値(街の価値)は何によって決まるのか。それは、各々が暮らす建物の中の快適性によってはもちろん、その外に広がる環境によっても左右されるはずです。騒音は、この価値を毀損するものだと、私は考えます。

  • ・その場所の雰囲気を感じること、・航空機の騒音がその場所にどのような影響を与えているかを感じること、・他の環境音との対比、・など、ができるように、航空機の騒音だけでなく、その場所における様々な環境音(人の声や車の音など)を、あえて一緒に収録しています。

  • 大きめのスピーカーやヘッドフォンなど、低域が十分に再生できる環境、かつ、十分な音量での再生をお勧めします。

前書き

 騒音計を使えば、ある種の騒音値が得られます。その数値は、騒音のある一面を確かに捉えています。複雑な状況が単純な数値に置き換えられ、見通しが良くなります。数値には、議論を前に進める力があります。一方、数値化に際して、失われる情報も多く、その数値から、実際の状況や現場の事前・事後を想像することは困難です。そして、困難なために、誤った想像に基づく、誤った結論を誘導してしまう恐れがあります。
 このようなことから、騒音の状況をできるだけ誤解なく表すためには、(数値が不要と言うわけではないですが)、失われる情報が少ない方法、つまり、臨場感のある、生の音に近い情報が得られる方法で、騒音を捉えることが必要だ、と言う考えに至ったのです。

前書きの補足(騒音の「正しい」評価は難しい)

計測について

 計測器を使えば、騒音から、ある種の数値(計測値)を得ることができます。騒音を数値に置き換えることができれば、その数値の大小に従って、さまざまな騒音を順序よく並べ、比較することができます。
 ただし、この数値は、対象の騒音が持つ物理的性質の、ごく一部を反映しているに過ぎません。したがって、その順序も、騒音のある一面を比較した結果に過ぎません。計測の方法を変えれば、順序もまた変わります。
 また、一つの数値が、複数の騒音を代表することになるので、計測は一種の分類と言えます。

騒音自体について

 騒音自体の性質が変われば、それが周囲へ与える影響もまた変わります。この種の要素には、音圧、音量、周波数、継続時間、発生期間、発生頻度、指向性、動き、形、などがあります。

 たとえば、……

  • 騒音の「音圧」が大きくなるほど、それが周囲に与える影響も大きくなります。

  • 騒音の「周波数」は低いほど、減衰しにくくなります。

  • 騒音の「継続時間」が長くなるほど、それが周囲に与える影響も大きくなります。

  • 散発的な騒音について、発生する「期間」が長くなるほど、「頻度」が多くなるほど、それが周囲に与える影響も大きくなります。

これらの大きさは、計測器によって、音源からある程度離れた計測地点で、さまざまな計測値として計測されます。

騒音を伝える環境について

 音源から、計測地点までの間にある環境の性質が変われば、騒音の伝わり方や広がり方もまた変わり、結果、計測値も変わります。
 この種の要素には、距離、温度、湿度、風、地形(街の構造や建物の構造など)、などがあります。

 たとえば、……

  • 音源と計測地点との間の「距離」が、大きくなればなるほど、(騒音を伝える空間が均質なら、)計測される音圧は小さくなります。

  • 音源と計測地点との間、および、それらの周囲、にある「大気、地形、構造物、など」、その違いによって、計測される音が変化します。「大気の組成や温度・湿度」、「地形や構造物の材質や形」の違いで、音に対する、反射や透過・吸収の仕方が変わり、結果、音が遮られたり、逆に、ひどく響いたりします。

人間の聴覚について

 計測地点に到達した騒音が、計測地点にいる人に、どう聞こえるかは、計測器と同様に、音源自体の性質と、音源からその人のいる場所の間、およびそれらの周囲にある地形などの性質が影響し、さらに、人間の感覚器の特性も影響します。

 たとえば、……

  • 人の聴覚は、周波数ごとに異なる感度を持ちます。同じ音量でも、周波数が変わると、異なる音量感を得ます。

  • 大音量かつ低周波の音は、耳や頭への圧迫感を与え、ときに、頭痛、眩暈、吐き気、血圧上昇などを引き起こします。また、家屋に振動を生じさせることもあり、この振動は、その家屋に住む人に心的負担を与えます。

  • 上から、横から、下から、など、騒音の聞こえる「方向」が変わると、その騒音の聞こえ方も変わります。

人間の心理について

 騒音の聞こえ方は、人間の感覚器の特性のほか、人間の心理的特性によっても変わります。
 騒音は、自分が出す音、他人が出す音、自然発生的な音、の3つに分けることができます。一般に、人は、自分が出す音に一番寛容です。他人が出す音と、自然発生的な音とでは、他人が出す音の方に、より大きな心的負担を感じる気がしますが、これは一概には言えない気がします。たとえば、大地震を経験した直後の人は、他人の声よりも、わずかな物音の方に、より大きな心的負担を感じることがあるかもしれません。
 多くの場合、人が出す騒音は、何らかの目的を達するためにした行為の副産物です。たとえば、バイクの騒音は、バイクで移動するという目的の副産物です。自分が出す騒音は、直接的ではないですが、その騒音を出すことについて、ある目的の達成という利益があります。そのため、人は、自分の出す騒音に寛容になると考えられます。一方、他人は、この利益を共有できる時に限り、いくらか、寛容になると考えられます。
 緊張とは、人間の持つ自動的な防御反応だと言われます。物音に対して、緊張し、心拍数が上昇するのは、外敵に対して、素早く体を動かし、反撃や逃走を可能にするためだと言われています。そう考えると、騒音に対する緊張、およびその結果もたらされる心的負担の度合いは、騒音を出すものをどれくらい危険だと感じているかによると考えられます。たとえば、大きな音は、それ自体の激しい煩さによって、大きな危険を予感させます、また、その大きなエネルギーによって、耳や頭に身体的負担を生じさせます。そのため、小さな音に比べ、より大きな心的負担を与えると考えられます。
 また、人は危険を察知すると、その危険に対して、自動的に意識を向けます。この結果、勉強など、意識を集中していなければできないことや、睡眠など、意識を集中していてはできないことが、妨げられます。騒音によって生じた緊張は、それ自体、その人にとって、負担になりますが、さらに、その騒音によって、勉強や睡眠が妨げられると、人は、その妨害を、現実に与えられた危害だと感じます。その人にとって、その騒音は、もはや、危険かもしれないものではなく、実際に害をなすもの、排除するべきものとなります。つまり、その騒音を、より危険なものと感じるようになり、結果、更なる緊張や興奮が起こり、心的負担が高まる、と考えられます。
 また、同じ騒音でも、自分の家で聞くときの方が、そうでないときに比べ、より大きな心的負担を感じることがあります。これは、自分のプライベートな空間を誰かに侵害されている、もしくは、プライベートな空間での安息を妨害されている、と感じるからかもしれません。

騒音の増加について

 多少騒音が増えても平気、という意見があります。変化の幅が小さければ問題ない、と言う意見は、その騒音の発生する期間が短い場合には、許容されることが多いですが、それが長期間、または、ずっと続く場合には、注意が必要です。実際には、騒音が増えれば、身体的・心的負担も増すはずですし、極論ですが、この意見に従えば、どの場所も、際限なく騒音が増えて良いことになってしまいます。
 他にもっと煩い場所がある、だから、それと同程度までの騒音は許容できるはず、もしくは、するべき、と言う意見があります。現実の騒音の存在が、騒音の許容量の上限を与える、と言う意見です。しかし、静寂は財産です。惨めな身なりの人がいることは、立派な身なりの人に追い剥ぎをして良い理由にはなりません。

騒音の評価について

 「騒音の評価」とは、一般に、騒音の計測値に意味を与えることを言います。計測値が、騒音の持つある物理的要素の、計測地点おける大きさを、計測器により数値化したものであるのに対して、評価値は、その計測値を、人がさまざまな目的に応じて、いくつかの値(意味やラベル)に分類したものです。それぞれの評価値の意味づけ、また、隣り合った評価値の境界の設定には、設定者の意志が少なからず入ります。

周囲への影響の評価について

 たとえば、機械が出す騒音の影響を考えるとき、使用者本人への影響を評価する場合には、使用者がいる地点での、音圧、周波数、期間、頻度などの計測値を使い、使用者の身体的負担をもとに考えるのが一般的です。
 一方、周囲への影響を評価する場合には、その評価にあたって、この「使用者本人への影響を評価する方法」を、そのまま、流用するのには問題があります。なぜなら、周囲への影響については、身体的負担に加え、心的および財産的損害を考慮する必要があるからです。
 これは大変複雑になるので、周囲への影響については、「損害とその補償」という考えのもと評価をするのが妥当かもしれません。
 また、この「周囲」の内容は、影響する物理的範囲が広くなればなるほど、影響する土地・建物・人・自然・などの要素が多くなればなるほど、複雑になり、予め、このようなものと定めておくことが困難になります。

基準値について

 対象の騒音の何らかの計測値、もしくは、評価値が、ある定められた値(基準値)を上回ったならばA、下回ったならばB、というように、その騒音を評価することがあります。この基準値は、騒音を、その値を境にAとBに二分する値です。
 このような値を設定する際、(値が大ならば影響大、値が小ならば影響小だとして、)それを絶対に上回ってはならない値として設定するならば問題ありません。しかし、この値を下回ったら補償が0になる、という(つまり、「問題のある騒音」と「問題のない騒音」に二分するような)意味での値を設定する場合には注意が必要です。とくに、騒音を出す側と、受ける側が、お互い様の関係ではない場合において、そのような基準値が予め定められていた場合、(それが、事前・事後の判別が不可能なほど小さい騒音だけを許容するような設定である場合を除いて、)その設定は、補償を回避するための便法であることを疑うべきです。

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