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TABIDUTCH|Scene2 テーゼに乗っかりテーゼ

テーゼのあれこれ

今回もFestival CarnivalことOdaがお送りします。前回ヘーゲル先生が教えてくれた弁証法、その要素であるテーゼ・アンチテーゼ・(アウフヘーベンにより生まれる)ジンテーゼについて、様々な物事で具体例を見て理解を深めようぜ!というのが今回のテーマです。

今回は幅を広げるという目的で、広く浅く、なるべく多くのトピックを取り上げたいと思っています。読んでくださっているみなさんにとって、新しいことに興味を持ったり、それをダブルダッチに還流させるようなきっかけになればと思っています。本当に心の底から思っていますw。また、導入という目的から、極めて単純化しているということはご理解くださいませ。

それでは出発しましょう!

テーゼにのっかる

前回の復習ですが、テーゼとは「今、正しいとされているもの、人々が求めているもの、流行しているもの」のことで、つまりテーゼに従う戦略とは、「今の流行や基準に乗っかる」ということです(ジャルいわく、「テーゼに乗っかりテーゼ」とのことです)。

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乗っかるというとずるく聞こえてしまいますが、「①今の流行や基準はどういったものか、②それはどのような要素に分解できるか、③自分たちがその要素を満たすためにはどうすればいいか」と、世の中や自分たちに対する深い分析が必要とされる立派な戦略です。(一方で、「最近ブレイクビーツが流行ってるからブレイクビーツを使おうぜ!」という単純なものも、テーゼに乗っかる戦略です、要は深め具合によりけりということですね)

さて、世の中のあれこれには、どのようなテーゼがあるか、テーゼを活用してどのように成功したか、具体例をどんどん見ていきたいと思います。

映画

まず1つ目のテーマは映画です。人々や時代が求めているものがテーゼだとすると、時代ごとのヒット作品はその時々のテーゼを象徴しているとも言えるでしょう。

例えば、昨年流行った映画といえば、バットマンのスピンオフ映画である「ジョーカー」や韓国のスリラー映画「パラサイト」ですが、これはどちらも今の流行を捉えた、つまりテーゼに従った結果としてヒットしたものだと思います。どちらの作品も、社会の理不尽に面する登場人物の苦悩や、それが引き起こすおぞましい行為などがテーマになっていますが、社会が分断されて格差が拡大し、混沌とした救いのない世情を受けてヒットしたとも分析できます。

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また、ハリウッドではビッグデータによるシナリオ分析の手法が確立されており、「今までの映画のデータによると、こんな感じにするとウケるらしいよー」という感じで、登場人物・ストーリー展開・シーンなどの要素を最適な形で組み合わせ、映画が作られてゆくのです。一方で、そうして全体最適を取った結果「ありがちな」ものになってしまうこともたびたびあり、ディズニー傘下で作られたスターウォーズの新シリーズが旧来からのファンに批判されたのは、記憶に新しいかもしれません。一方で、それでも商業的には大成功してしまっているというのはなんとも皮肉なものです。

音楽

映画に続き、世の流行の象徴として挙げられるのは音楽ですが、最近の音楽のヒットの秘訣は、「曲の長さを短くすること、冒頭に特徴的なサビを持ってくること」と言われています。これはSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスが普及し、人々が手軽に大量の音楽と出会えるようになったことに起因しています。

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CDを買って1つ1つの曲をしっかり聴いていた時代とは違い、ストリーミングサービスでは浴びるように大量の音楽を聴き、その中ではちょっと聴いていい曲かどうかを判断することが多くなりました。結果として「視聴時間を短くし、その中でなるべく目立ち、TikTokなどを通して流通しやすい」音楽がヒットするようになり(正確には「そうした音楽がヒットしているということがデータで明らかになり」)、多くの音楽がこのテーゼに従い作られています。


SNS

最後に取り上げるのは、皆さんがよく使っているSNSです。定義に諸説はあれど、Instagram・Twitter・Youtubeなど、SNSなしの生活は今や考えられなくなりました。Instagramで多くのフォロワーを集めているアカウントやインスタグラマー、Youtubeで一世を風靡するユーチューバーなど、SNSで人気を集めることは憧れの的にもなっています。さて、こうしたSNSでの人気を意図的に集めることは可能なのでしょうか?

例えばInstagramでは、(少なくとも2020年夏現在においては)「投稿の保存数」が重要指標となっています。つまり「投稿が保存されれば保存されるほどいい投稿とみなされ、そういった投稿をしているアカウントがInstagramから優遇される」ということです。これはInstagramを、「知り合いの日常」だけでなく「価値ある情報」も載っている総合情報媒体にしてゆきたいというInstagramの意図に起因します。最近、豆知識などを漫画で載せるアカウントが増えているのは、この波を捉えてフォロワーをたくさん集め、ビジネスを展開しようとしている大人がいるからです。

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テーゼに従い続ける世の中はどうなるか

以上、映画・音楽・SNSを例にして見てきましたが、いずれにおいても「こうすればウケる」というテーゼは存在し、あらゆるデータがトラック可能になっている現代においては、データに基づいた最適化によりテーゼを分析しやすい状態にあると言えるでしょう。例えば中国では、製造から消費までのバリューチェーン全体でデータループが回り続けており、テーゼに従ってバリューチェーン全体が超高速で最適化されています。その結果、需要予測や個々人の嗜好に合わせた情報配信が他の国の追随を許さないレベルで進行しています。

一方で、全員がテーゼに従って行動すると、物事は単一の方向にしか向かわなくなり、世の中が退屈なものとなってしまいます。そして、皆が似通ったことをする中で、フレッシュな新しい流れ、つまりアンチテーゼやジンテーゼをもたらす人や集団が次の時代を作るのです。これまでのダブルダッチシーンにおいても、似たようなことはあったのではないでしょうか?

データループによる最適化は、ある意味テーゼに従った単一的な結果しかもたらさないとも言え、そこに対するアンチテーゼやジンテーゼをもたらすのは、人間としての責務とも言えるのではないでしょうか。(漫画「バクマン」でもこのあたりの話が登場します)

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アンチテーゼで対抗する

さて次はアンチテーゼです。またまた復習ですが、アンチテーゼとは「今の流行や基準に抗う立場のこと」で、つまりアンチテーゼに従う戦略とは、「今の流行や基準を見定めて、それに逆行する」ということです(ジャルいわく、「アンチテーゼで対抗しテーゼ」とのことです)。

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小中学校のとき、クラスのみんながJ-Popを聴いている中で、誰も聴いていないような洋楽に詳しいヤツがカッコよく見えた経験はあるかと思います(・・・あるよね!?)。そんな風に「周りなんて気にせずに自分を貫く人」が魅力的に感じることもあるかと思いますが、これはアンチテーゼに惹きつけられていた結果(≠厨二病)とも言えるでしょう。さて、それでは具体的に見て行きたいと思います!

ロックミュージックとiPhone

ビートルズやクイーンに代表されるロックミュージック、そして僕たちが使っているiPhone、これらは全て1本の線でつながっているという話でアンチテーゼを紹介できればと思います。

時は1945年、数え切れないほどの犠牲をもたらした第二次世界大戦が終結し、戦場から無事に帰還した兵士は、帰りを待っていたパートナーと結婚して子供をもうけました。その結果として出生率が飛躍的に上がり、この時に生まれた世代が「ベビーブーム世代」、日本では「団塊の世代」と呼ばれます。このベビーブーム世代は、戦争がもたらした厳しく辛い環境の中、「戦争なんて二度としてはいけない」と噛み締めながら育ちました。しかし彼らが大人になる1960年代、世界は再び良からぬ方向へと動こうとしていたのです。

例えば日本では「日本とアメリカは一緒に自分たちを敵から守ろうね」と改訂される日米安全保障条約を受け、「日本が再び戦争に巻き込まれるかもしれない」と危機感を抱いたベビーブーム世代は、学生ながら身を張って条約改訂に反対しました(この運動は「安保闘争」と呼ばれます)。そしてアメリカでは、ベトナム戦争に出兵させられた若者が多数犠牲になり、戦争も泥沼化する中で、「なぜ大人の都合で引き起こされる戦争に若者が参加しなければいけないのか?」と、権力に抗う運動が起こりました。

その中心となったのが「ヒッピー」と呼ばれる若者です。彼らは権力や体制に抗う形で、アートやヨガ、ドラッグを用いた精神世界やロックミュージックに傾倒しました。地理的にいうと、ボストンやニューヨーク、ワシントンに代表される東海岸の旧来都市を離れ、権力の手が届かない西海岸でこの運動が盛んとなったのです。カリフォルニアやロサンゼルスに行ったことがある方は、あの自由でオープンな雰囲気でなんとなくイメージが伝わるでしょうか。

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こうした西海岸におけるヒッピーの莫大なエネルギーは、これまで中央集権的に使われていたコンピュータを利用者本意の使い方へと解放し、IT産業の一大地であるシリコンバレーを西海岸に産みました。そしてヒッピーカルチャーに傾倒していたとある若者は、その思想とコンピュータを組み合わせて革命的なデバイスを生み出し、文字通り世の中を激変させました。そう、彼こそがAppleの創業者であるスティーブ・ジョブズ、僕たちが使っているiPhoneやMacコンピュータはこうした一連のアンチテーゼの中から誕生したのです。(iPhoneやMacコンピュータ自体もアンチテーゼ・ジンテーゼに溢れているので、是非調べてみてください)

こうしたアンチテーゼの中から生まれたシリコンバレーのスタートアップカルチャー、しかし現在では、その旨みに目をつけた金融資本やビジネスマン、エリートたちが入り込むことによって、ある意味テーゼ化してしまっている現状があるようにも思えます。

ヒップホップ

ヒップホップこそ、アンチテーゼの象徴とも呼べる文化です。「ダンスとか音楽のジャンルでヒップホップのことは知ってるけど、よくわからない」という方も多いとは思いますが、ヒップホップとは「1970年代のアメリカ合衆国ニューヨークのブロンクス地区で、アフロ・アメリカンやカリビアン・アメリカン、ヒスパニック系の住民のコミュニティで行われていたブロックパーティから生まれた文化」と定義されます。ダブルダッチの歴史とも大いに関わるので話は尽きないのですが、ポイントを絞ってお話しできればと思います。

最近では”Black Lives Matter”でも話題になっていますが、ヒップホップカルチャーは、少数派として社会から虐げられていた(この表現自体も適切ではないと思いつつ、、)黒人やヒスパニックが、白人を中心とした権力や多数派に抑圧される中で生み出した文化です。大きな力に抗う、つまり「カウンターカルチャー」として誕生したヒップホップは、アンチテーゼをその由来としており、相手をディスる「dis」の文化にもそれが象徴されています。「テーゼに従うだけでは自分たちを苦しめた権力や多数派を産んでしまう、だからこそディスによって新陳代謝をもたらし、循環を生まなければいけないのだ」という思想です。

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※さらに正確には、ブロンクス地区は、ニューヨークの中心街・マンハッタンへのアクセスの良さもあり、白人やヒスパニック、黒人、はたまたアイルランド系・ユダヤ系移民などが混在していた地域でした。しかし1950年代にブロンクスをぶちぬいて郊外へと至る高速道路が建設されたことにより、裕福な白人はブロンクスを出て郊外に移り住み、貧困層の居住区は高速道路建設で取り壊され、貧しい黒人とカリブ海の島々からの移民であるヒスパニックだけが混沌の中に残されたのです。こうして治安が悪くなったブロンクスでは、ギャングが支配し日々抗争が繰り広げられていました。権力や体制の都合に従った開発、その結果生まれた荒廃、そして抗争、それを解決するために生まれたのがヒップホップカルチャーであり、その誕生は単純なアンチテーゼではなく、まさしくカオスな状況を解決するアウフヘーベンだったとも言えるでしょう。

ジンテーゼをもたらす

さて最後はジンテーゼです。毎度の復習ですが、ジンテーゼとは「相反する2者を否定しつつも互いに生かし、より高い次元へと発展させること」で、つまりジンテーゼを生み出す戦略とは、「とある流行や基準、そしてそれに対抗するもの、それらを昇華して新しいスタイルを確立する」ということです(ジャルいわく、「ジンテーゼをもたらしテーゼ」とのことです)。

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お気づきの方もいるかもしれないですが、「とある流行や基準に従う」テーゼや「それに逆行する」アンチテーゼには、「ある流行や基準」という前提条件があるのに対し、ジンテーゼは「テーゼやアンチテーゼを分解・再構築して新しいものを生み出す」という全く性質が異なる難しさがあるように思います。そのため、話自体も難しくなってしまうかもしれないので、身近なダブルダッチで例えてみることにしました。

ターニンググローブ、それはブロッコリン博士が生み出した奇跡

時は202x年、ダブルダッチは一層の発展を遂げ、新しい要素や技術が今まで以上にどんどん取り入れられるようになっていました。そんな中で、とある技術者(仮に「ブロッコリン博士(本名:リン・ブロッコ)」としましょう)がとんでもない発明をしてしまったのです。

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ブロッコリン博士が目をつけたのは、そう、皆さんが一生懸命練習している縄回し(ターニング)です。「ダブルダッチはロープを回すのが難しすぎる!こんなの一般人や初心者にとって無理ゲーでしょ!誰でも簡単にロープを回せるようにしてやろう!」と考えたブロッコリン博士は、研究に研究を重ねた結果、身に付けるだけでだれでも超上手にロープを回すことができるグローブ・ターニンググローブを発明したのです。ベーシックやスピードはもちろん、リリースなどの複雑なターニングもでできるようになってしまいました。

さて、初心者でも、老若男女誰でも一瞬でターニングができるようになった一方で、上手にロープを回すために日夜練習を重ねた皆さんはどう思うでしょうか?202x年にタイムスリップしたと思って、1分ほど考えてみましょう。

・・・

はい、1分が経過しました!そう、きっと、

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ですよね。今まで膨大な時間と情熱を費やしたターニングが誰でも簡単にできるようにしまったなんて。。「いやいやwwwターニンググローブとかwww」と思うかもしれないですが、実は同じようなことが昔ある物事で起こったのです。

19世紀の絵描きのメンブレ

そう、それは「絵画」です。スマホ1つで超綺麗な写真や映像が撮れる今では想像がつきませんが、昔は何かの様子を記録する手段は「絵」しかなかったのです、そのため偉い人は「自分や自分が成し遂げたことを記録して残してやるぜ!」と綺麗な自画像や風景画を描かせたのです(そのため、昔の絵描きのエリートコースは、宮殿で王様の注文に応じて様々な絵を描く「宮廷画家」でした)。

絵画の技術は年々発達し、とうとう現実と見間違えるような絵を描けるところまでたどり着きました、今から200年前くらいのことです。絵描きたちが「どうだこの野郎!やってやったぜ!」と思っていたところ、ある日とんでもないものが誕生してしまいます。

そう、現実をそのまま記録できる「写真」が誕生したんですね(ちなみに写真を発明したのはブロッコリン博士ではなく、フランスのニエプス博士という方です)。さて、限りなく現実に近い絵を書こうと何百年・何千年も頑張ってきた絵描きたちは、どう思ったでしょうか?19世紀にタイムスリップしたと思って、1分ほど考えてみましょう。
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はい、1分が経過しました!そう、これはさすがに、

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超えて

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でもあり

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でもあったわけです。これをヘーゲル先生的にみてみると、「絵画によって現実を写実的に記録する」というテーゼに対して、「絵画とか頑張らなくても現実そのまま写真で残せるしwwアホかww」というアンチテーゼが生まれたと捉えることができます。

しかしアーティストは苦悩の末に新しい境地へとたどり着きます。「現実を写実的に記録するだけの絵に意義がないならば、この現実を自分なりに解釈して、自分にしか見えない現実を描くしかないっしょ」と考えたのです。それがピカソに代表されるキュービズムであり、キュービズムとは(Cube:立方体、ism:主義)、つまり「立方体には沢山の面がある、一方向だけじゃなくていろんな面から物事をみようぜ」というジンテーゼを生んだのです。(他の例も含めてですが、導入という目的のために極めて単純化しているということをご了承ください。この例をきっかけに興味が出たという人は、ぜひ自分なりにどんどん調べてみてください!)

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次の目的地へ

いかがだったでしょうか?結構分量が多くなってしまいましたが、ダブルダッチのように、様々な物事も流行の移り変わりを遂げているのだということが分かってもらえたと思います。そして、知らなかった物事に興味をもったり、それをダブルダッチに還流させてみようと思うきっかけになっていれば嬉しく思います。

さて、次の目的地ですが、2つに道が分かれているようです。1つ目の道は「今回はいろんな物事を覗いてみたけど、ポップミュージックやブレイクダンスを例にもっと深ぼって理解したいタウン」へ、2つ目の道は「テーゼやアンチテーゼは前提が変わらなければ通用するけど、
前提が変化しまくる現代ではどうすればいいんだタウン」へと続いています。

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皆さんの意見を元に決められたらと思うので、教えていただけると幸いです!
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