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TABIDUTCH|Scene1:腹ごしらえはバームクーヘン

こんにちは、Festival CarnivalことOdaがお送りします。ダブルダッチをきっかけに色々な物事を見てみようというコーナー・TABIDUTCH、今日はScene1ということで、いよいよダブルダッチと抽象化の旅行に出発しようと思います。それではレッツゴー!


流行りが気になる道すがら

突然ですが、みなさんは流行について意識したことはありますか?ダブルダッチに関わっている人であれば「あの頃はこういうデモや技が流行った!」「今年は〇〇がキテる!」と、予想や分析をしたことがあるのではないでしょうか。ダブルダッチに限らず、映画や音楽、ファッション、ゲーム、ビジネスなど、あらゆる物事には流行が存在します

国語の授業で登場する「平家物語」にも
「祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。」
なんて一節がありますが、あれも結局は「世の中の流行の移り変わりハンパないわ〜」って言っているわけです。800年近く昔の鎌倉時代でさえそうなら、インターネットやスマホを通して情報が飛び交い、日々新しいものが生まれる現代はなおさらってことがよくわかりますね。

そんな流行、言葉を変えてトレンド、潮流などと呼ばれたりもしますが、あらゆる物事においてこの流行を捉えた人や集団が時代を築いてきました。そのため、どうすれば流行を捉えられるか、そのノウハウを確立すべく何千年にもわたってチャレンジが繰り広げられてきました(きっとジャルが暮らす火星でも試みられてきたことでしょう)。

今回のテーマは、ダブルダッチを含むあらゆることに共通する流行の移り変わり、そのメカニズムと、様々な物事における具体的な流行の移り変わりをいてみようと言うものになります。



諸行無常の響きはダブルダッチにも

※以下、過去のダブルダッチのスタイル・チームを分類するような記述が登場しますが、あくまでも記事のために分かりやすくした1つの解釈であり、他の解釈を否定するものでも、また分類ごとの優劣および先人たちのたゆまぬ努力と道のりに評価をつけるものでは決してありません。注意して書いているつもりですが、不快にさせてしまった場合は申し訳ありません。

さて、まずは身近なダブルダッチから考えてみましょう、とある話を紹介させてください。

時は20xx年、ダンスやアクロバットを取り入れた日本スタイルのダブルダッチ(このスタイルは偉大な先人たちの大発明です)が年々進化を遂げ、「ダンスやアクロバットのスキルを追求すること」が流行していました。ブレイクダンスのスーパースキルを取り入れたり、なんと空中で2回転する2回宙という技をする人まで現れました。2006年のダブルダッチコンテストでは、ブレイクダンス出身のプレイヤーがエアートラックスという高難度技をロープの中でやってのけたことが大きな話題になり、翌年のコンテストの告知映像でも象徴的に取り上げられました。(この流行を「流行①」と呼ぶこととします)​

スキルが重視される一方で、時にはあまりロープが用いられないようなこともあり、「すごい技をやればロープが関係なくても盛り上がるけれど、それって果たしてダブルダッチと呼べるのかな?」という議論が巻き起こりました。RealismというチームのAKIさんという方は、2008年に「体操選手を連れてきて3回捻りで1抜けさせたらそのチームが一番なのか?」ということを書いていましたが、すごく先見の明があったと思います。こうして、「流行①」に対抗するように「ダブルダッチでしかできないことを考えよう、しっかりとロープを使ってダブルダッチをしようぜ!」というスタイルが現れました。(これを「流行②」とします)

そして、こうした歴史を経た現在では、まるで両者が融合したかのごとく、複雑なロープを絡めて高難易度のアクロバットやダンスを行うスーパーダブルダッチが誕生しています(これを「流行③」とさせてください)。

さて、流行①②③はどんな関係にあるでしょうか?ちょっと1分ほど考えてみましょう。

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・・・はい1分が経過しました!言わずもがなですが、「流行①」に対抗する形で「流行②」が誕生し、「流行①」と「流行②」両者の良さを融合させた結果、「流行③」が誕生したということです。あくまで1つの例ではありますが、3つの流行、その関係性が見て取れたと思います。このような流行の仕組みを理解すると、ダブルダッチを含む様々な物事の行く先を見通すこともできるのではないかというのが今回のチャレンジです。

実は、こうした流行のメカニズムについて、今から200年も前に考えていた人がいます、ヘーゲル先生という人です。
高校で登場する科目「倫理」にも登場するヘーゲル先生、果たしてどのような理論を構築していたのでしょうか?今回、どうしても、、と交渉してみたところ、特別にお話を聞かせてもらえることになりました。

題して…

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ヘーゲル先生に流行の仕組みについて聞いてみた

――はじめまして、今日はよろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いします。

こんにちは、18世紀生まれ神聖ローマ育ち、カント以外は大体友達、ヘーゲルです。本名はすごく長くて、ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルって言います。誕生日は1770年8月27日で星座は乙女座、優しくてマメなウサギ型男子です。

――そんなウサギ型男子のヘーゲル先生は、流行の仕組みをどのように考えていたのですか?

私が考えた理論は「弁証法」と呼ばれるもので、テーゼ、そしてテーゼと対立するアンチテーゼ、それらが合わさってジンテーゼという発展を迎えるというのが概要です。カタカナばっかでよくわからないと思うので、先程のダブルダッチの例で解説するゲル。

――はい、お願いします(ゲル・・・?)

まずテーゼとは、あるひとつの立場を肯定し、矛盾・対立は生じていない段階です。先程の例だと、ダンスやアクロバットを追求する「流行①」というテーゼがあったと言えるね。

次にアンチテーゼとは、ある立場を否定するような段階のこと。先ほどの例だと「しっかりロープを使おうぜ」と生まれた「流行②」は、「流行①」というテーゼに対するアンチテーゼと呼べる。

こうして2つの立場、別の言葉でいうと考えや思想、スタイルが矛盾・対立する段階になると、相反する2者を否定しつつも互いに生かし、より高い次元へと発展させるジンテーゼという段階を迎える。この際、相反するもの同士を俯瞰して取り込み、発展させる現象のことを「アウフヘーベン」と呼ぶ。

先程の例だと、ダンスやアクロバットを追求した「流行①」と、ダブルダッチらしさを大切にした「流行②」をアウフヘーベンして、現代型ダブルダッチとしての「流行③」、つまりジンテーゼが生まれたと言える。

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テーゼと呼ばれるような、とある立場、考えや思想、スタイル、流行が進行すると、それに対するアンチテーゼが生まれる、そして両者が高め合った結果、それらを統合・超越するアウフヘーベンが起こり、ジンテーゼが誕生する、そしてジンテーゼに対するアンチテーゼが生まれ、、というように無限にこの流れを繰り返す。世の中のあらゆる物事はこうして発展を遂げるというのが、ワシの「弁証法」じゃゲル。

テーゼがなくてはアンチテーゼも存在しない、そしてそれらがなければアウフヘーベンは起こらずジンテーゼも起こり得ない、それぞれに優劣はないということを改めて付け加えさせてほしいゲル。



弁証法的にダブルダッチの歴史を解釈してもらってみた

――弁証法的にダブルダッチの歴史を解釈すると、どのようになるのでしょうか?

あくまで限られた情報を元にものすごく単純化したものという断りを入れてだゲルが、、 スタイルの移り変わりが最も激しいフュージョンのダブルダッチを例に挙げると、1つの解釈としてこんなことが言えるのではないかと思うゲル。私の無知と単純化のせいで(無知の知)、ごく一部のスタイルやチームしか挙げられないことを大変心苦しく思うゲル。

偉大な先人が築いた日本スタイルダブルダッチの究極系として、レベルの高いダンス・アクロバット・ステップを曲ごとに順番に展開する”CHROM”, ”鳳凰”, ”PEEK-A-BOO” といったスーパーチームが00年代後期に登場した。
そして、それに対するアンチテーゼとして、”CANADA”, ”Vi-Tour”, ”Humpty Dumpty”, “”のように、ダンス・表現でまとめ上げるチームが誕生した。さらに2010年代初頭には、”Cracker Jack”, ”360°”, ”京都大学「MTTR」のチーム”のように、ダンス・表現に対するアンチテーゼもブレンドして、ロープにダブルダッチの本質を見出すチームが出てきたようだゲル。

少し経つと、こうした表現・ロープ重視へのアンチテーゼして、ベーシックでのジャンプを追求するDouble Dutch One’sがクラシックスタイルへの回帰として登場し、「ダブルダッチ」を突き詰めた”M.A.D”のようなチームが席巻した。さらに2014年ごろになると、これらをアウフヘーベンし、”TREASURE”, ”アゲサゲ”, ”ATLAS.88”, “You know who”のように、表現やロープ、ベーシックを用いてエンターテインメント作品として高度にパッケージングしたチームが誕生したとも言える。そして現在では、それら全てをアウフヘーベンした、”REGSTYLE”, “平成たぬき合戦ぽんぽこ” のようなチームが出てきておるようだゲルな。

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弁証法はあくまで1つのツール by ヘーゲル

――なるほど、あくまで1つの解釈だとは思いますが面白いですね。弁証法を使えば、世の中の全てを解き明かせるような気さえするのですが、注意すべきことがあれば教えてください。

グッドクエスチョン。ワシの弁証法を学んでくれた君たちには、いくつか注意して欲しいことがある。
まず1つ目、弁証法は18世紀を生きた私が作った1つの理論であって、もちろん完璧ではなく、また他の理論の存在を否定するものではないこと(※)。
次に2つ目、繰り返しだが、テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼには優劣はないということ。
そして3つ目、弁証法を用いて様々な現象を批評・分析することはできるが、いつだって何かを生み出すのは現場の人間。こうした理論に囚われすぎず、あくまで考えを深めるツールの1つとして使って欲しいゲル。

先ほどのダブルダッチの話についても、日本スタイルダブルダッチを築き上げた偉大な先人をはじめ、私が挙げていない重要なスタイルやチームは星の数のように存在する、そして解釈も人の数だけ存在する。
いつだって大切なのは、自分で考えて行動すること。今はYouTubeとやらもあるようだし、ぜひ自分なりに調べ、考えてみてほしいゲル。てか約束通り今度焼肉おごれよ?

――頭でっかちになってはいけないということですね、すごく心に染みました。

道具はあくまで道具でしかない、その限界を知った上で使うことが重要なのだよ。それではまた会う日まで、さらばだゲル。てか約束通り今度焼肉おごれよ?

――ありがとうございました!

※例えば経済学においては、需要が飽和して水平・垂直的な拡大が困難になると、製品・サービスが陳腐化してしまうことを受け、供給側が新しい市場創造、すなわちイノベーションを産む、そんな理論の通り、石炭産業・石油産業・半導体産業と実際に新しい産業が生まれてきました。
このように世の中の事象は決して1つの理論で語り尽くせるものではありませんが、抽象的に捉えるとこうした異なる理論も相互に通ずる(ところがある)ということが、これからTABIDUTCHを進めてゆくうちにわかると思います。

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バームクーヘンとアウフヘーベンは似ている

ヘーゲル先生ありがとうございました。さて、物事はテーゼアンチテーゼ・(アウフヘーベンにより生まれる)ジンテーゼの3つによって移り変わっていく、そんな考え方があるということが分かりました。つまりヘーゲル先生的には、流行を目の前にした戦い方としては(ものすごく単純化しているという断りの上で)、

①テーゼにのっかる
②アンチテーゼで対抗する
③アウフヘーベンを起こし、ジンテーゼをもたらす

の3つが存在するわけです。これら3つをより深く理解することで、新しい気づきがありそうな気がします。ということで、次回はダブルダッチだけでなく、歴史や映画、音楽、アートなど様々な例を用いて、それぞれを、そして弁証法をより深く理解してみたいと思います。ちょっと頭が疲れたという人は、アウフヘーベンならぬバームクーヘンでも食べてお待ちくださいませ。

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執筆:festival carnival


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