岩田規久男『経済学を学ぶ』(筑摩書房、1994年)

主題…「経済学」は、生活に身近であるにも関わらず学ぶ機会は乏しい。そもそも経済学とはいかなる学問であり、何を明らかにするのか。実際の経済の動きに触れながら、経済学の基礎知識を学ぶ。

 1章では、経済学とはいかなる学問であるかについて、「価格」や「費用」「消費」といった基礎用語の解説を踏まえながら説明がなされている。
 「価格」とは、モノやサービスの利用を特定の人に限定する手段の一つであると岩田氏は定義する。価格を設定することによって、その価格に同意できる人のみがモノやサービスを手にできるのである。岩田氏はここで、経済学という学問の説明をするために、モノやサービスの利用を限定する他の手段を取り上げる。岩田氏によれば、大学の入学試験のような、モノやサービスの利用を限定する他の手段のメカニズムについても、倫理や道徳に頼らずに経済学の視点から明らかにすることができるのだという。すなわち、経済学では、人間を道徳的・倫理的な存在として捉えるのではなく、「合理的な利益の最大化を求める存在」として捉えるということである。

 2章では、「市場経済」の歴史とメカニズムについて説明がなされている。
 岩田氏は「市場経済」が成立するに至る流れを、生産の消費の分離の時点から説明する。生産と消費が分離し、のちに交換・分業の体制が進み、規模の拡大に伴い貨幣が用いられるようになり、商人を介する「市場」が形成されたという。そのうえで2章後半では、岩田氏は市場経済における資源配分のメカニズムについて、生産者と消費者の視点から説明している。ここでは資源の希少性が価格の決定を左右するということが強調されている。

 3章では、ミクロ経済学の基礎として「需要」と「供給」の関係による価格の決定についてシミュレーションを踏まえながら説明がなされている。
 さらに岩田氏は価格決定のメカニズムに加え、市場経済における「完全競争市場」には計画経済に比べていかなるメリットがあるか論じている。岩田氏によれば、市場経済において希少性の高い財が消費の対象となる場合、消費者や企業は希少性の低い財で代用したりコストを極力抑えてようとする。こうした誘因が消費者や企業に働くことによって、市場経済における完全競争市場の中では、適切な資源配分がなされたり資源を節約する技術が生まれたりするのだという。岩田氏は、自由主義諸国における1970年代以降の省エネルギー技術の開発をその例として挙げている。

 4章では、不完全市場における現代の企業がとる行動について説明がなされている。
 価格支配力をもつ現代の企業がとる行動として、「差別価格政策」が挙げられている。企業は差別価格政策として、需要の価格弾力性に応じて消費者を優遇したり、割高にしたりするのだという。

 5章では、市場という秩序がいかに形成されるのかについて市場と政府の関係から説明がなされている。
 個人の利益追求の結果として形成される自然的な秩序としての市場は、現代においては政府の介入によって制御がなされる。そうした介入がなされるものの一つが、「市場の失敗」である。5章では、市場の失敗の例としての環境問題・ゴミ問題を乗り越える方法を、資源配分を調整するメカニズムから説明している。

 6章では、国民所得の決定や雇用の調整を扱うマクロ経済学の基礎について、ケインズの理論に触れながら説明がなされている。
 
 7章では、6章を踏まえてインフレーション・デフレーションの仕組みや、財政・金融政策について説明がなされている。

一行抜粋…それでは経済学とはどんなことを研究する学問だろうか。抽象的に言えば、経済学とは、私たちの社会において、さまざまな経済活動がどのように営まれ、その営まれた結果が私たちの生活にどのような影響を及ぼしているか、そして、私たちの生活を改善するにはどうしたらよいかといったことを研究する学問である(10頁)。

 

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