どくだみ

Tokyo_in_Words_Another 1年越しのTOKYOブックガイド

ちょうど1年前のdotstokyo12月定期公演第一部 Tokyo_in_Wordsでは、・ちゃんたちが各々タイトルに「東京」の入った本を読み、読書感想文を発表するという趣向がありました 。

ーーが、課題図書のラインナップに「むう……」と感じたのをふと思い出したので、勝手に選び直してみました。

この一年で女の子の形をとらなくなった3人の分も含めて、・ちゃんたちへの想いを本に託し、それぞれに宛てる形で紹介してみようと思います。


「東京異聞」(小野不由美/新潮文庫)

ホラー大好きな・ちゃんには、日本が誇るホラークイーン・小野不由美の一択でしょう。正確な読みは「とうけいいぶん」ですがご愛嬌。

明治末期の東京。魑魅魍魎に溢れる帝都を舞台に、人形遣い、火炎魔神、闇の御前らが入り乱れるケレン味たっぷりの伝奇小説。物語はやがてミステリへと収束し、哀しくも下顎が外れるような超展開で終わります。

一見荒唐無稽な物語を、鬼神の如き筆力で説得力に溢れた恐怖に変える小野不由美の豪腕は、・ちゃんの力強いダンスに通じるかも。
正調ホラーの行間にそっと切なさが詰まっているところも、なんだか・ちゃんらしいなと思います。

・ちゃんとは、めちゃくちゃ面白い作品をわーきゃー言いながらハイテンションで語り合いたい。実は生真面目なあの子が、我を忘れてどうかしちゃってるときの姿が好きなのです。


東京日記(リチャード・ブローディガン/平凡社ライブラリ) 

「文学少女」で座りながら歌う姿が印象的だった・ちゃんには、ちょっと背伸びして、アメリカ文学からブローディガンの詩集を。
……というとなんだか堅苦しそうに見えますが、この本、ほぼいじけたTwitterです。

「英和辞典をひいてみた。flogという単語がない。日本にはカエルがいないということか」
「僕の本は世界中で翻訳されている それなのに 僕は今夜 雨の降る東京でひとり寝るんだ」
「若い日本のレジ係 彼女はぼくがきらいだ なぜだかはわからない」
詩人の繊細さは漂わせつつも、終始こんな調子。

ビートジェネレーションの旗手として活躍したブローディガンですが、彼の東京での日々は孤独なものだったと聞きます。
一方、花咲くような笑顔と力強い歌でドッツに芯を通してくれた・ちゃん。
この詩集に満ちた透明な寂しさを、・ちゃんの暖かさで照らしてみたいと思いました。

40年前に異国の詩人が感じた孤独と、現代を生きる・ちゃんの優しさがTOKYOで繋がる。
それって、ちょっとドッツ的じゃないですか?


タモリのTOKYO坂道美学入門(タモリ/講談社)

タモリ倶楽部に上坂すみれが出演しているのを観てなぜか思ったのです。
ドッツでタモリ倶楽部に出るなら、・ちゃんで間違いないな……独特の感性とおっとりした性格。そして根はがんばり屋さん……嵌まる。・ちゃんはタモリに嵌まるぞ……!
いや待て。全力坂。全力坂にも出てほしい!

ーーそんな妄想と、・ちゃんの好きな街歩きと、独自の感性を考慮したドンピシャの本がありました。地味にずっと売れているベストセラーです。

古地図や美味しい食べ物情報を挟みながら、東京の「いい坂道」がひたすら網羅されていきます。鍋も転がる「なべころ坂」、狸が化かす「狸坂」、ひったくり多発の「おいはぎ坂」……由来もさることながら、間に入るタモリ独特のとぼけた小話や、坂道マニアのディープな着眼点も面白くッて。

視点ひとつでガラッと姿を変える町並み。
・ちゃんには、例えばこんな風に違った世界が見えているのかなあ……なんて思うのです。


東京少年(長野まゆみ/光文社文庫)

児童文学が好きで、繊細さと遊び心を併せ持っていた・ちゃんには、長野まゆみの名品を選んでみました。

叔父と暮らしている14歳の少年・緑は、ひょんなきっかけから母の行方を探します。手がかりはふたつ。黒椿と、「Tsunomegawa」という文字。やがて明かされる、家族の秘密とは……

幻想的な作風の多い長野作品にしては現実味のあるストーリーですが、散りばめられた言葉の美しさときたら。薄荷、スウプ、タルト・タタン、黒ヴェロア……耽美な世界観にくらくらします。
揺れ動く少年の心境と気品にあふれる文体の相反に、どこか・ちゃんの面影を重ねてしまいました。男性陣にちょっぴりBLみがあったり、最後には大人の女性の機微が描かれていたりと、アダルティスな魅力もばっちり。

少年のような悪戯っぽさがあると思えば、少女のようにナイーヴで、ふとした瞬間には大人の表情を見せて。あの・ちゃん自体がまるで小説みたいな子でした。元気かな、・ちゃん。



空想東京百景(ゆずはらとしゆき、toi8/講談社BOX)

アニメやラノベが大好きな・ちゃんには、物語シリーズでおなじみ講談社BOXから、ちょっと難儀なライトノベルを。

昭和二十年代、<呪詛爆弾>が落ちて怪異が跋扈するようになった平行世界の東京。幻想の昭和を舞台に様々な物語が展開します。

特殊なのはフォーマット。小説、マンガ、イラスト、年表、設定資料が一冊の中にごちゃごちゃにぶち込まれ、その断片的な積み重ねから遥かな物語世界が浮かび上がるという、けっこうな実験作です。
ファウストを嚆矢とする新伝奇ムーヴメントも西尾維新ひとりを残して消えていった印象ですが、本作には、時を経てなお鈍色に輝くカルト奇書の佇まいがありますね。
もちろん何も考えずにパラパラめくっていても、toi8の美麗な挿絵と字面だけでもうわくわくしてきます。美少女探偵も出てくるよ!

たくさんの感情が未整理のままに放たれて心を震わせる、・ちゃんのパフォーマンスからこの本を連想しました。
それと、大好きな・ちゃんとは、ふたりしか知らない本を読んで、行ったことのない街の話をしたい。・ちゃんにはそういう秘密めいた詩情がよく似合います。好きです。


「TOKYO NOBODY 中野正貴写真集」(中野正貴/リトルモア)

活字がニガテな新潟の・ちゃん向けの本も用意しました。人も車もいない、からっぽの東京を撮った不思議な写真集です。

生命を欠いた街はそれこそ「都市の幽霊」
寂しいような、怖いような、でもどこか懐かしいような、強烈な異界体験を呼び起こす風景が並びます。
例によって勝手な妄想ですが、無人の街で・ちゃんたちだけが遊んでいる風景が見てみたい。初めて「ねぇ」を観たときの印象が、ちょうどそんな、美しく閉じた世界のイメージでした。(今はもっとエモいですが)

最後なのであの・ちゃんに絡めてうまいこと言ってまとめようと思ったんですが「やべー。どうやって撮ったんだこれ」とざっくり呟く姿しかイメージできませんでした。そういう肩の力の抜けたところが良かったですよね。


以上、お目汚し失礼しました。
どんな本、どのTOKYOにも少しずつ・ちゃんが溶け込んでいて。だからきっと、・ちゃんのいる今はいつまでも続いていくんだと思います。

それでは良いお年を!

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