『宝石商リチャード氏の謎鑑定 少年と螺鈿箪笥』読後感想

あらすじ

絆創膏を万引きしようとした少年・みのるは、不思議な青年と出会い、数奇な邂逅を経て二人の運命は交錯する。『中田正義』と名乗ったその青年が現れてから、みのるの世界は大きく様変わりしていく。病に臥せがちな母、楽しくない中学校、乏しい家計。そして誰も住んでいないはずの屋敷に出没する美貌の西洋人の『幽霊』。横浜山手を舞台に、大人気シリーズ第三部開幕!

『宝石商リチャード氏の謎鑑定 少年と螺鈿箪笥』
著 辻村七子
集英社オレンジ文庫


内容の感想

 みのるくん(初登場の子)メインのお話。もっと二人を見てたかったな〜っていう正直な感想はあれど、好きな話でした。

 第二部で、正義がリチャードの秘書になって武者修行みたいな暮らし方をしていた時点で、リチャードの後ろを正義がぴったりくっついていくような関係ではもうなくなったんだな、と分かってはいたのですが。
 それでも君たちはお互いが見えなくなるほど近づきすぎて、たまにハッと気付いて距離を取って、でもそれじゃ物寂しいからお互いをぐずぐずに甘やかして、ってな関係でいてほしかった。

 見えないところでやっているんですね。
 第三部はこんな感じでずっともどかしいんですね。了解です。

 宝石うんちくが足りないよ〜と涙を流しながら読んでいたらいつのまにか終盤だったんですが、好きな表現があり、手を止めました。

泣きたくなかった。恥ずかしかったのではなく、ただ、泣きたくなかった。今自分の体から出てゆくものがあるなら、それを呑み込んでもう一度体の中に戻して、全部取っておきたかった。一年後も、十年後も二十年後も、古い本を繰り返し開くように、確認できるように。

 ここです。
 自分で作ったキャラクターなんだからと言われたらそれまでなんだけど、「リチャードが言いそうなこと」「正義が言いそうなこと」「みのるくんが言いそうなこと」のバランスがすごくちゃんとしてるの凄いなあと。

 正義視点じゃない長編が初めてだったから気付いたんだけど、外から見た正義はかっこいいんだな……。悩んでることを表に出さない性質(リチャード曰く「かっこつけ」)のせいで。

 隙あらば上司にしゅきしゅきビームを放ち、気合を入れるほど裏目に出てリチャードの肝を冷やす正義くんはいなかった。いつのまにかスーパーマンになっていた。

 あ、でも変わってなかったところもありました。
泣いてるときに車のダッシュボードからティッシュを取り出して涙を拭く正義は一巻にもいましたね? あのときはリチャードの車だったと思いますが。
 大きく大きく成長しても、涙脆いところなんかが全然変わらないの、好きです。


「(前略)一日英会話は無理! 大学生の俺だってしんどかったんだからな」
「何を今更。楽しそうだったではありませんか」
「あれはお前と喋りたかったから」

 そして、こういうことを衒いもなく言うのが中田正義なんだけど、何年も一緒にいるとリチャードもこんなんじゃもはや照れない。少し残念。照れろ。
 照れリチャードを見に、『転生のタンザナイト』『紅宝石の女王と裏切りの海』あたりに戻ろうと思います。
(タイトルだけ見て思ったんだけど、『輝きのかけら』読んだかな。記憶がない。持ってはいるんだけど……)

 宝石商シリーズはもうミステリ感はどこかに行ってしまったので、ツラのすこぶるいい男と、性格の良さが天元突破している男を見て癒されるシリーズだと認識を改めるのがいい気がしてきました。
 謎要素は他の小説でリカバーできるけど、宝石とその出自に想いを馳せながら頭のいい人間の思慮深さを吸収できるのはこのシリーズだけなので……。

 表紙見て、BLじゃん!と思って敬遠してる人がいるなら、それは些事なので気にせず買ってほしい。
 本当にそんなのは些事なので。
 読んだら良いこといっぱいあります、きっと。

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