あほくさ小噺:スーパーさんげんや編

最近、辛いものばかり食べてるので、そろそろ身体の方が心配です。今日も初めて辛ラーメンを食べましたが、汗が止まりませんでした。ヒー。

冗談になりえるかは別として、話をひとつ。

地元のスーパー、さんげんやは毎週木曜日にセールがある。普段の買い物はキュッシャに任せているが、木曜日だけは自分で行く。
日本のセールの戦いに、キュッシャではまだまだ実力不足だ。


「大玉キャベツがなんと80円! 今晩のサラダやロールキャベツにどうですか〜!?  安いよ安いよ〜!!」
「最近野菜高いからなあ。でもキャベツの気分でもない」
などと、キャベツを掲げたスーパーの店員に群がる人を避けながら掘り出し物を探す。
しかし木曜セールとは凄まじいものだ。人気のない所は、ほとんどセール品が無くなっている。
「参ったな、ビーフコロッケじゃキュッシャが食べられないし」
残っていた半額シール付きのコロッケを渋々棚に戻すと、惣菜コーナーには場違いなステンレスの鍋が目に付いた。
「ふうむ。コロッケ、春巻き、ナムル、鍋」
当人としては、あたかも惣菜売り場の商品として並んでいるつもりなのだろうけど。
「いや、流石に無理だろ、これは」
しかもその鍋、半額シールが貼ってあった。
『明日のカレー 700円』『半額』『レジにて10%off』
安い。
しかも鍋一つ分だ。少なくとも、キュッシャと自分だけなら3日は持ちそうだ。
「明らかに怪しいけど……。まあ、安いしマズくても損は無いか」
好奇心もあって、手に取ってみると、鍋の大きさのわりにはさほど重くなかった。
どころか、カレーが入っているとは思えない重さだった。
恐る恐る、鍋の蓋を開けてみる。
「何だこれ。何も入ってないじゃないか!」
「ああ、お客様、気付かれましたか」
叫んだのを聞きつけたのか、先程までキャベツの叩き売りをしていた店員がヘラヘラと笑っていた。
「これ、一体何なんです。カレー、入ってないじゃないですか。まさか、カレー、って名前の、鍋なんですか?」
「そうでしたら二階の金物コーナーに置いてますよ。これは立派な、『明日のカレー』です」
「明日のカレー……?」
「気になるようでしたら、是非お試しください。木曜セールですから、お安いですよ」

翌日、珍しく依頼も無く仕事も早く片付いたのでキュッシャと一緒にさんげんやで買い物をしていた。
冷凍コーナーの冷凍ナンを見つけて、キュッシャは唸っている。
本物のナンの何たるやを教えてやる、だの、冷凍のナンは気合と愛情が足りない、とか、興奮して母国語も混ざっていた。
「おや、お客様」
それを面白半分で見ていると、昨日の店員が声を掛けてきた。
「昨日の『明日のカレー』はどうでした?」
「ああ、はい。……疑ってすみませんでした。あれは正真正銘、『明日のカレー』ですね」
「そうでしょう。お惣菜コーナーでは、密かな人気なんですよ」
頬をぷっくり膨らませて、店員は笑う。
つられて、自分も笑ってしまった。
『明日のカレー』。昨日まで火にかけても水を入れても何も無かった鍋に、カレーが現れたのは今朝の話だ。
「夜のうちに買っておいて、朝は温めるだけ。食べ盛りの息子さんのお弁当や朝からカレーを食べたい人にぴったり」
「そんなに人気なのか。でも、どうして売れ残ってたんです?」
すると店員は、困り顔で答えた。
「お客様のような反応をする方が多くてですね」
「ああ、それは。最初はビックリしますよ。説明文とか、書いておいたらどうです?」
「なるほど。それは名案だ」
そう言って店員は、その場でポップを描き始めた。横から口出ししてみたり調子に乗ったような事を言ったりして、2人で作ったポップは、しばらくさんげんやの惣菜コーナーに置かれていた。

『カレーは明日が美味いんです。
自宅でかんたん熟成カレー 明日のカレー

買った翌日以降、お召し上がりください。』


おしまい。

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