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Don't Read ▽令和の魔女

1.挑戦状

 永い戦いは終わりを告げた。
いや、終わりの始まりと言ったほうがいい。
マイホームを手に入れたいなんて古臭い夢、選択肢が欲しかったが安くて広い事務所が手に入って助かった。
ここはスタッフ達のお陰だ。

動画配信を利用するにしろ、今は予算や場所がいるからな。
兄貴によく旅に付き合わされて、海や山、それらも全部経験した。
結局事務所を構えて安い賃貸マンション
に帰ることなくこの事務所でリモートワークをすればいい。

だが、俺は自分の名刺を確認して過去を振り返る。

浦泉奈冨安うらいずなとみやす

偉くなったつもりはないが、色々と遠回りした甲斐があった。
かつて監督達と投稿映像を検証していた経験もあったが、近年は紙媒体に逆戻りだ。

厳密には俺達の仕事は『投稿文章』にしてある。
インターネットでは足が付くから投稿映像を募集したフォーマットを利用してデジタルでもアナログでも投稿できる住所が必要だった。

映像も文章もフェイクは可能。
断りを入れておけば、俺達が扱うのは怪奇現象では無い。

『闇に潜む存在からの挑戦状』

それらを扱う。

恐らく人間の仕業だが、皮肉な事に声を上げないで日常に潜む謎の連中が人間より金がある。

そして生にも死にも執着はしない。

事務所の扉が開き、スタッフ二名が疲労と共に資料を持ってきた。

逢狸穴 黒夜あいまみあ こくや
高校三年生。

監督の俺より歳上だが態々、俺にさん付けしてくれる。
通信制の高校でもうすぐ卒業するらしい。

『ダブったことないから。』

そこに関してだけ圧力をかけるのは普通科の高校二年生である俺に対する歳上アピールなのだろう。

「なんて幼いマウントの取り方なんだ。」とは思ったものの映像のノウハウは流石俺達の世代と納得できる手腕だ。
文章を解析する俺達のやりとりをDVDとしてレンタルさせ、こうして継続できるのは広告収入を得られる経験をこちらでも活用してくれる彼の力だ。
いくら卑屈になってもらっても構わない。

もう一人は高橋 漁たかはし いさり、高校二年生。

資料の解説を当たり前のようにやってくれているが

「同い年が監督って凄いなあと思ったけど、案の定儲かってないんだね。」

そう現実を見てる癖につまらない日常を送るよりマシだと言わんばかりにフィールドワークをしてくれるので申し訳ない気持ちと事務所に篭りながら高校とランニングを行き来できる生活を手に入れられている。

儲かってはいないが食い扶持はある。

だが、肝心の送られてくる文章の一例はこれだ。

「純血の魔女とかそういった拘りの無い社会がやってきたと舞い上がっていましたが、人間が作る多数派の空気に触れて分かりました。

何も能力がない方が化けやすい。

そこで浦泉奈さん達Don't Readスタッフに魔女の困り事を教えようも思って。」

この魔女達の間では同性との付き合いは盛んらしい。
一時期は純血に拘っていた派閥があったが多種族との婚活が富を齎すからと少しずつ分家が増えた。
そうして魔法は存在しなくなり、魔女達は衰退した。
一部は人間と一緒にアニメスタッフになって物語として伝えたらしい。
確か、現代のアラサー達に多大な影響を与えたとかなんとか。

だが投稿者は純血の魔女に逢いたいと各地を転々とし、この国で一人の女子高校生と出逢った。
その女子高校生が人間の男子高校生とかなりの数に惚れられていて誑かしているらしい。

唯一の生き残りである女子高校生の魔女の生活を知って幻滅した投稿者はまだ、この女子高校生との交際を諦めておらず、再び純血の魔女達の力で人間を貶めてやりたいから俺達と共にその旨を伝えて欲しい。

そんな内容だった。

要するに男ったらしの魔女と同世代で裏事情に詳しい俺達を利用し、魔女によるガールズラブを成就させろというこれはこれは壮大な恋愛物語…そういう話だ。

逢狸穴は女子高生の魔女と関係のある男子高校生や歳上、歳下の元彼から話を聞いていたらしい。

その映像まで記録していた。

※プライバシー保護の為モザイクと加工。

Aさん

「××と出逢ったのは、一昨年の夏頃ですね。
海行ったら今じゃ攻めすぎの珍しい水着でつい声をかけたら後ろにいつのまにか回り込まれて、素敵な背筋ですねなんて言われて。
自慢じゃないですけど、筋トレは好きなんで。
それから海の近くに別荘があるからって誘われて…後は内緒にして欲しいんですけど高校生とは思えない衝撃?そんな力強さがあって暫く付き合ってました。
でも、別れを急に告げられて。
理由は『使命を思い出して』って急に重い内容だったから腫れ物に触るように別れちゃって」

インタビュアー:逢狸穴

「今はもう関係はない?」

Aさん

「そうですね。
負い目を感じる必要は無いと使命の内容を俺に伝えてました。」

インタビュアー:逢狸穴

「使命の内容は?」

Aさん

「それが…話すと筋肉が痛むんですよ。
だから代わりにこう言えって。

『子孫繁栄の為に遊ぶ時間は無い。』

って。」

もう一人の証言者

Bさん

「出逢いはコンビニだったんだよねえ。
はたちのつどいに行く準備をしてたら

『あれ?裸じゃね?』

ってくらい透けてる身体だったのに通行人は誰も反応してなくてマジビビって幻覚かなんかかと思って飛び出したら目の前にその子がやってきて

『やっと見つけてくれた。』

なんて言われて誘われるように…そういえば君って高校生?
凄いね。
インタビュアーなんてやるなんて。」

インタビュアー:逢狸穴

「その女子高校生は周りには見えてましたか?」

Bさん

「随分カラッとしてるね。
もしかしてあの女子高校生って人間じゃないとか?
けど、周りには見られてて俺だけが服を着てないように見えてたらしくてやたら此方を睨まれたけど通報もされなかったよ。」

インタビュー動画はここで終わっていた。

他にも沢山情報はあった。
あっさり別れる上に誰一人未練もなく、好印象のまま体験を終えて消えている。

気になる証言は『子孫繁栄』。

高橋が考察を話し始めた。

「逢狸穴さんのインタビューだけじゃ分かりかねますが、投稿者が純血なら性別を問わない本物の魔女でインタビュアー達と関係を持った女子高校生は魔法を使って恋愛を楽しんでるんじゃないですかね?
しかも、秘密を守れなかったら筋肉が痛むらしいですし別れた後に襲われるリスクを封じている。
投稿者はその力を恐れて、俺達に探らせているような気がしますが。」

こりゃあ直接逢いには行けないか。
報酬は弾ませて貰っても俺達三人仲良くその女子高校生に始末されそうだ。

そこで逢狸穴が口を出す。

「恋愛と子孫を残す事はイコールじゃない。
それと女子高校生は魔女の力で恋愛対象を選べる。
狙われた男性陣にだけ裸に見えるなんてまさに魔法だ。
羨ましい。
だが、この話は秘密ではないようだ。
動画を見ても分かるように誰も痛がる素振りは見せなかった。
そこは何度も確認した。」

こりゃ三人で女子高校生を追う必要がある。
この仕事の楽しみは出動タイミングを自分で選べる事だ。

心してかかってやる。

2.受身

 投稿者が事前に教えてくれた恋愛対象の正確な情報を辿って森の奥へ歩く俺達スタッフ。

「こんな都市の山奥に住むなんて魔女っていうかお姫様だな。」

「そりゃあ数少ない純血の魔女ですからね。
男性経験がやたらと幅広いのに決してパパ活ではない辺り相当な恋愛好きです。
俺達、やばい相手に事情を伝えないと行けませんよ。」

逢狸穴と高橋が掛け合っている。
その通りだ。
とても投稿者のガールズラブを成就させられなさそうだが。

「どうも。」

来た。
あの女子高校生!
裸には見えない。
むしろこの森には似合わないアイドルとモデルのいいとこ取りをしたファッション。

「まさかここの住所を知られているとはね。
誰だか知らないけど、同年代の男子達が担当していてよかった。」

だが恋愛対象として見なされず敵対勢力と判断されているが。

「罠とかはないから。
ここを教えた誰かに断りを入れないとね。
じっくり撮影してよ?」

俺達は唾を飲み、館へと入る。

                                ✳︎

 召使いらしき人が紅茶を注いでいた。
どうぞと言われても俺達は決して飲む事はない。

そして、投稿者の想いを俺が話す。
撮影は二人に任せて。

「投稿者は純血の魔女を探して、各地を転々としていたらしいです。
そこでやっと貴女を見つけた。
けれど投稿者は貴女の交際経験から何かを感じて直接会うことはまだ出来ない。
そこで、投稿者の頼みで俺達は貴女の近辺を調べさせて頂きました。
子孫繁栄は貴女もお考えなら投稿者との交際を許可して頂けませんか?」

女子高校生はキセルを吸い、甘い香りを漂わせた。

「これ、私特製のシフォン味タバコ。
けど、未成年でも大丈夫な成分しかなくて依存性は無いから。
そうは言っても私専用だけど。」

余裕綽々だが俺は引かない。

「貴女も勘付いていたんでしょ?同族の気配を。」

女子高校生はさらに付け加える。

「その人が直接訪ねられない理由は分かる。
知り合いでもないし、ストーカーにもなりたくない上に秘密の種族だから。
けど、子孫繁栄はしたくても私は純血に拘るほど遅れてはいない。
だから…貴方達の労力は無駄。」

彼女の手から光が放たれ、俺達は外へ吹っ飛んだ。

「うわっ!」

「ぐっ!」

光は消え、遠く離れた森の入り口に飛ばされる。

「痛ってえ…受け身だけ知っててよかった。」

「浦泉奈監督はそういう技、取得してるんでしたっけ?
凄いなあ。」

「この三人の中で一番綺麗な受け身してるのはお前だよ高橋。」

魔法なのか分からないが機材は無傷でインタビューは残っていた。

後はこれを元に手書きで投稿者の魔女に彼女の意思を伝える作業が残っている。
報酬分の仕事はしないとな。

成果があるだけ今回はマシだから。

3.付合

 投稿者へ調査内容を送り届けるとその二日後に連絡があった。

「どうもありがとう。」

そんなお礼が。

文字だと表情が伝わらないから不気味だ。

すると逢狸穴が急いで尋ねてきた。

「つい撮っちまった。これ見てくれ!」

逢狸穴が隠し撮りした動画を見せられる。

何気ない街であの女子高校生が肌が透けた姿で撮られている。
後を追う逢狸穴。
一瞬気付かれかけて隠れる。

すると少し歳上の女性が女子高校生と接触する。

カメラにノイズが走り、二人の女性がカメラに顔と音声を残す。

『おまえたちは たいしょうじゃない よいあそびだった』

そこで映像は途切れていた。

逢狸穴は悔しそうに呟く。

「あの女性は投稿者の可能性があるな。
もっとも断定してもいいが。」

「俺達はあいつらの掌の上。
報酬を払って利用されたわけか。」

これらの力は全て魔法なのだろうか?
それともこの世ならざる力なのか?

読んではいけない物語をまた読んでしまった俺達なのであった。

構成/演出協力/浦泉奈冨安 うらいずなとみやす
出演:逢狸穴 黒夜あいまみあ こくや/高橋 漁たかはし いさり

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