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DEAP〔抜け殻〕

『悪魔』という存在は形を変えて共存に成功した。

「不死の賜物」

を成功者に奪われる程、力を失ったガイブツでしかない悪魔は七つの負荷を抱えて生かされてしまう。

「無情」
「無駄」
「無実」
「無意味」
「無念」
「無縁」

そしてどの生命体も直面する

「無理」。

「無縁」という意味では、金運に恵まれない悪魔"クウルゴス"の話しをすることこそ必然かもしれません。

無縁/無煙

 何も無い。
なんにもございません。
元々力がある方ではないが、こんなしみったれた想いを抱いたまま「生きろ」なんて、さすが人間の老害は違いますねえ。

こっちにあるのは自分の才能を信じて近くの居酒屋で評判だった
「乗りたくもない電車で見つけた人間達の悪口」
をA4用紙に簡潔に纏めた…いや、纏めさせられた「口論フェス」の内容が書かれた無料配布のチラシ。

この手に持つ、『たかが紙』を『たかが愛』と高尚にある歌手のソングタイトルを真似て強がってみせるが焼け石に水。

このチラシをさっさとゼロにして金を得る。
それだけのバイトだ。

ここはまあまあ都会なので中学生や高校生が多い。
良心に訴えれば受け取ってはくれるだろう。
そう思ったが、

ぜんぜん受け取って貰えない!

こういう事もあろうかとティッシュ型にチラシを配るもすぐにバレてしまった。

え?自分のフェスなのになんでそんな無気力なのかって?

A4用紙に纏めさせられた。
つまりナーフされたのさ。
居酒屋で受けた自分な高純度の闇をヒーロー路線に変更させられマイルドにした、ある意味面白い悪口征伐物語。
どうやら自己啓発なら中身を読んで貰えなくてもブランドで買ってもらえる可能性があるからそうしろと命令が下された。

ああ!
金の為ならやるよ。
それが傍からどれほど笑われようと低賃金だろうとこの島国で生きるには!

悪魔なら呪える?
いつの時代の話だ。

人間はいつだって徒党を組んで学習し、意味のわからないルールを作り上げて他の生物を食らう。

自分達、現存の悪魔もその狩られた生命体の一つに過ぎない。
そして悪魔の中にも物好きな協力者が更に仲間を追い詰める。

自分はまだ扱いはいい方だ。
他の仲間の事を思うと卑下は出来ない。

唯一の特技なのになあ。
悪口。

なんで都合の良いヒーローに討伐されなきゃいけないんだ。
多様性を謳うなら自分達の存在も見つめる必要があるだろう。
何が恥ずかしてティッシュ…チラシ配りなんかしないといけない。

すると恋人同士らしい男女のカップルがチラシを受け取る。
それ自体はありがたい。

するとこんな一言を一度に聞いた。

「チラシは受け取りますけど、俺たちこういう言葉は倫理観を守る為に聞けないんですよ。
どうせ強い人が勝つんでしょ?」

「なんなら昔、匿名掲示板?を制作した人の言葉で間に合ってますから。」

チラシは減った。
まあ、言わんとしてる事は分かる。
そりゃあ味も毒も無いただの予定調和なんて誰も聴きに行くわけない。
善人アピールの為にチラシを受け取って貰えた。

あの高校生カップルの目!
ギリギリ見下してないように装っていた。
悪魔だから分かる。

やらない善よりやる偽善。

いくら悪魔でも責めませんよ。
だって偽善だもん!
やりたくてやってるわけじゃないもの!

自分が罪を押し被せたみたいじゃないか。
けどチラシ減ったからいいや、
それなのにズキズキするなあ。

                                  ✳︎

不貞寝!
THE・不貞寝!
ホームレス経験があった人間と暮らすことがあって、それを真似てベンチで寝てみたよ。
これをスマートフォンという人間が造りし生きづらさのツールで撮影すれば良い配信者になれたかもな!

だが…だが、ジジイ占領す!!!

追い出された。

未だにいるんだこんな爺さん。
なんか可哀想だ。
追い出されたのは…自分なのにな。

「街、歩くか。」

悪魔に出来る仕事なんてあるのか?
分からないがチラシをさっさと配ってしまおう。
街なら心広そうな誰か居そうだし。
朝みたいにチラシだけ受け取ってくれる偽善者いないかなあ。

トボトボ歩いてみたもののチラシは減らない、腹は減る。
金にもならない三重苦!
ここまで上手くいかないと人間になってしまいそうだ。
昔、人間になりたい物好きな妖怪がいたとかなんとか。

上から目線だよ。
いつの時代も。

すると後ろから気配がした。
え?人間だよね?
いつの間に。

更に名刺を渡された。

戒盟霍墨かいめいほくじゅ
映画監督?」

しっ!とその人は指で口を抑える。

「あなたが主役でないと成り立たない物語がある。
低予算で出来るジャンルがあってね。
それでも、私達にしか出来ない。
そのチラシは全て私が受け取る。
だからお願い!」

成る程。
バイトが終わって、バイトが始まった。

けど、自分悪口しか才能ないんだよなあ。

やってみるか。

「いいですよ。
悪魔ですから。」

抜け殻だった自分に出来る演技があるのなら、そりゃあやりますよ。

ここからどうなるのから悪魔でも分からない。

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