百怪:紅き死
※「今の人生は本来のルートなのだろうか?」
ふと悩む瞬間がもしあったら、それは一度か二度…それとも何度でも自分を殺してしまっているのかもしれません。
鎌を掲げて
いつまでも豆乳ばっか飲んでたって治りゃしない。
大切なのはこの鎌を磨くこと。
でも今時鍛冶屋なんて探せばあるわけでもない。
鎌なんて持たない生活があるのなら、それに超したことはない。
ビルから服と髪を風でなびかせて景色を眺める。
「今日も過去を忘れたいと願う人間や動物、植物の依頼を終えた。」
-昨日
特定の検索ワードをSNSで探すと見つかるアカウントがある。
人間なら足がつくからやらないがクレナイなら関係がない。
アカウントの運営も何もかもは誰かが生前使っていたものをリニューアルした。
収益化をしているわけでもなかったから知名度はかなり低く、近年のインターネットでこのアカウントのダイレクトメッセージまで辿り着くのは至難の業なはずだった。
そこへ一通のダイレクトメッセージがクレナイへ届いた。
理由は伏せておくが
「過去を捨てたい」
とだけここでは伝えよう。
その人間はサラリーマンだった。
理由は多くの現代社会を生きる人間が抱える未来への不安。
「代償はあなたの過去です。
私と会ったことも、ここまで辿り着いた痕跡も無かったことになる。
あなたは、
【この現実にいるのに、新しい現実を生きているようになる。】
メッセージを送ってくださったあなたに申し訳ないのですが、本当にここで捨てるほどあなたにとっては不要か…または枷になるのですか?
」
未練や後悔をなくしたい人間は大勢いた。
その思いがあるから今があるのに。
都合がいい世界を願う人間に会う度、クレナイは疑問に感じるのだった。
しかし決意が本物なら答えねばなるまい。
赤い服が風で大きく依頼者であるサラリーマンを覆う間にポピュラーな死神を連想させる大鎌でサラリーマンの未練を奪った。
それからあのサラリーマンが何をしているのか分からない。
なぜなら、《もうそんなサラリーマンは存在していない》から。
クレナイのことも忘却のかなた。
それどころかここまで辿り着いたはずのアカウントも存在すらしない。
「また死んだか。」
真相は分からない。
ただクレナイはあの人の過程と未来を切り、そして奪った。
回収した過去はにぶく光る大鎌だけが覚えている。
肩に大鎌を掲げ、ビルから太陽光を浴びる。
「また紅き死を迎えてしまったか。」
血も何も流れない綺麗な清算。
そこまでして執着し、手放してはまた繰り返す生と死は、学んでも洗脳されても疑問だらけなことばかり。
それを罪とよんでいる。
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