文書生成AIは何ができて何ができないか

ChatGPTによりAIに対する議論は活発化しています。
「単にそれっぽい文章を生成してるだけだ」という過小評価派は数を減らした一方で、「シンギュラリティきた!」「もう誰でもアプリを作れる!」「シリコンバレーではすでに大量に解雇されている!」と過度に期待を煽るような意見を多く目にするようになってきました。

1ヶ月前に似たような記事を書きましたが、この1ヶ月触る中で見えてきた部分含めて改めて考察をしていきます。

今の文書生成AIの限界

実際に業務の中で「何を文書生成AIで自動化できるか」と考え、試しながら1ヶ月過ごしてきましたが、一番のボトルネックはトークン長制限です。

ChatGPTは2021年に学習に使われた文書データを長期記憶として保持し、それ以降のものは記憶していません。
仕事で使う上で必要なのは「誰がどんな仕事をしているか」「仕事は今どんな状況か」「今開発環境はどのようになっているか」ですが、そうしたものは何一つ知りません。

したがって問い合わせの中にそうした背景自体を含める必要がありますが、その問い合わせの長さには限界があります。それがトークン長制限です。

GPT-3.5が4000トークンなのに対し、GPT-4が3万2000トークンと大幅に増えていることから、今後その制約が緩和されていくことでしょう。
とはいえ今の仕組み上無限には処理することはできず、また長くなればなるほど計算量が増えコストが増えていくと考えられます。現時点でもGPT-4であらゆるコンテキストを毎回渡すのには非常にコストがかかります。単純作業の都度コンテキストを渡すようであれば、今のままだと人間の方が安いという結論にさえなりえます。

そのため雑に全情報をコンテキストとして渡すのではなく、いかに効率的に圧縮された情報を渡せるかが今後の肝になっていくと思われます。

情報検索・圧縮技術

たとえばBingはReActを用いて検索をかけたり、特定のURLの中を見に行ったりできます。
他にも文書をベクトル化して格納し、問い合わせに近しい文書群を引っ張っていく例も増えています。

とはいえこうした方法も万能ではなく、問い合わせに近しい情報を提供する技術力が全てです。たとえばGoogle検索して間違った情報が載ってるケースも多々ありますが、それを文書生成AIに渡しても間違った結果を返すだけです。極論この方法だとLLMを単に要約ツールとして使っているだけとも言えます。

また実際の業務においてコンテキストは複雑で、人々の関係性、今の業務の状況、社内のルールなど、多くの前提が存在します。それらを全て文書生成AIに理解させるのは難しく、そうした背景を踏まえて適切に仕事をさせるのは現段階では難しいでしょう。
つまり完全にAIによって仕事が代替されるというよりは、「さまざまな背景を理解した人間が道具として使う」という状況がしばらくは続くと思われます。

今の文書生成AIに奪われる仕事

そうした中で奪われる仕事は何かと考えると、背景の薄い仕事です。
ようするに4000トークン、3万2000トークンで与えられた文章だけで説明できるような前提の中で、適切な回答を導くだけの仕事は今の技術レベルでもある程度代替可能と言えるでしょう。

具体的には外注で出せるような仕事、その日雇用したアルバイトがすぐにできるような仕事はそうでしょう。
「ChatGPTに0→1でアプリを作らせる」という例も多く出ていますが、それも背景の薄い仕事の1つです。1→10になると途端に難しくなるでしょう。
一部のコンテキストだけを元に論理的な回答を導くという意味では、コンサルもその1種と言えるかもしれません。

間接的に奪われる仕事

一方で間接的に奪われる仕事としては、生成系AIの登場によってコモディティ化する能力です。

たとえば画像、ソースコード、音楽、動画など、あらゆるものが自然言語から生成可能となりました。企画立案やアイディア出し含め、ChatGPTに行わせることは可能です。

もちろん現時点で100点というわけではない一方で、すでに平均以上の能力は持っていると感じます。
つまりAIレベルに達していない専門者は存在意義を失っているともいえます。
それは間接的に仕事を奪われていると言えるかもしれません。

今後はどうなるか

能力が均質化した世界

AIにより画像、ソースコード、音楽、動画、企画などの多くのことで平均以上のアウトプットを出せるということは、AIを使いこなせるだけで多くの領域で平均以上の力を発揮できるということです。

すなわち下手な専門家を雇うよりは、AIを使いこなせる人を雇用して職種の制限なく仕事をさせるほうが優れているということになりそうです。

今は日本でもジョブ型雇用が一般化してきましたが、一部のトップ層を除きメンバーシップ型で生成系AIを利用しながらあらゆるタスクを自律的にこなしていくほうが合理的となっていきそうです。

すなわち全員がプログラミングをし、画像を作成し、企画も行うような組織構造です。

マネージャー

今後は生産性も上がり、少人数のユニット単位で仕事が回せるようになっていくと思われます。
そうなるといわゆるマネジメントを行うだけのようなマネージャーの価値は薄くなり、プレイングマネージャーのような形のほうが求められていきそうです。

また意外とマネージャーの仕事のほうがAIによる自動化しやすいのではと感じており、組織運営自体はシステムにより自動化された中で個々が自律的に動くような形になっていくのかなと。いわゆるティール組織やホラクラシー組織のような形がとりやすくなるのではないでしょうか。

経験値とコミュ力

誰もの能力値が均質化した中で差が出るところといえば、経験値とコミュ力かなと思います。
生成系AIは教科書通りの回答は得られますが、現実問題として教科書通りにやっても上手くいかないことは多々あります。自分の経験で生成系AIの出力を評価できる能力は変えの聞かない能力になりそうです。

コミュ力もそうで、テキストのやり取りであれば生成系AIで誤魔化せるかもしれませんが、対面でのコミュニケーション能力は変えの効かないものとなるでしょう。
特にスピーチ等においても生成系AIで生み出せるような薄っぺらいものより、自分の人間性や経験を踏まえた濃厚なメッセージの重要性が増していきそうです。

中長期的に代替されない仕事

ここまで数年のスパンで考えてきましたが、さらに10年、20年と経った先で代替されない仕事は何か、と考えていくとマッサージ師が有望だと思っています。

まずPC上で完結できるようなホワイトカラーの仕事については、コンテキストの問題さえなんとかなればすぐにでも代替されるかと思われます。

またAIを搭載したロボット自体は今後すぐに生まれて、物理的なインタラクション含めて可能となっていくことでしょう。

ただマッサージに関しては指圧した際の人間の反応を見ながら課題点を探し出し適切な施術を行うのって作る側の視点に立つとすごく難しそうなんですよね。
すなわち高度なセンサーと、複雑な関節の動きを、統合するようなAIが必要になると。
加えて「人間であることに意味がある」って側面もあると思いますし、中途半端に自動化されたさきも人間がやるっていうプレミアがついて価値が上がりそうです。

おわりに

文書生成AIの限界を踏まえた上で、それが作る未来について考察していきました。
とりあえず変に未来を想像して受け身を取るよりは、生成系AIを道具として使いつつ、行動を起こして経験値を積むのが一番かなと思います!
その際には変に職種の枠に捉われず、1人で何でもやってみるのが良いと思います。

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