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メーデー17

錆びついた無線機が、誰かの救難信号を受信する。
『はて、そんな機能はあっただろうか』
親指か、人差し指か。確かにこの世界にいる誰かの「生きる」という活動の痕跡が通知される。

「生きたくない」という気持ちで彷徨い歩く若さが、生きているからこそ体中を巡る電気信号に変換され、俺に届く。

これから書く文章はとても長くなる。
そして、解釈によっては読むのがきついかもしれない。人生を日々考え続ける31歳の俺の文章は、過去のを読んでもらえばわかるが、言葉が鋭利だ。
だからこそ『君が少しでも生きやすくなるように』
そう願ってしばらくぶりに君だけに向けて文章を書く大人もいるのだと、冒頭に記しておく。

『俺も、そう思って17歳を生きた。そして今、31歳になった』
『14年後の今、17歳のあなたから救難信号を受信した』
『それに、俺は"アンサー"を送ってみようと思う』
『"答え"ではなく、14年後に俺が辿り着いた"今"(あなたにとっては相当先の未来だけど)は、14年前に想像してたのとは全く違ったよ、と』
『何もしてあげられないかもしれないけど、あなたの行き場のない救難信号は、俺に届いたよ、と』

超長編叙事詩

ちょうど昨日『オデッセイ』という映画を見た。
お互い独身の同期の友人とLINEしていて、愚痴りたいから電話に切り替え、午前中に受けた資格試験の出題がいかにセンスがなかったかを語り、
『スイングバイみたいに』と自分から出た言葉に、友人は『それなに?』と聞いた。

地球に帰還する宇宙船が、地球に着陸せずに周回軌道上を1周回る。
ネタバレにはなるが、これが火星に取り残された1人の命を救うアイデアとなる。

17歳の頃、俺は彼を知らなかった。
大学1年でTwitterにハマり、彼に出会い、偶然2年生から同じ学科になった。
レポートを回し合う同じグループに属したが2人で遊んだことはなく、彼は卒業した。俺は修士に進んだ。
俺が就活の面接を受けるために大阪に行くとなった時、彼は偶然大阪で働いていた。一緒に中津でもつ鍋を食べ、『お前まだ学生だろ。就活がんばれよ。』と学生の俺にご馳走してくれた。

しかし、今の関係性ではない。ただ『偶然同期が大阪にいたから』会った。
この時点で出会ってから6年。初めて2人で飯を食った。

そして俺は社会人になり、もつ鍋を一緒に食べてから3年が経った。
俺は新卒入社した会社をすぐに辞め、沖縄県の離島に移住することにした。
『その前に、東京で一度会おうか。1回くらい、旅行してみようか』と。
レンタカーで東京から千葉へ。ノープランで1泊2日。

その後彼は俺が1年半を過ごした離島にも2回訪れ、俺の帰京後も東京で遊び、変わらずお互い独身で暇を持て余している。
そして彼は今年、故郷の北海道に帰る。
今度は、俺が会いにいく。
『暇すぎるから』という理由だけで、俺は飛行機に乗って彼と遊びに行く。

出会ってから10年して、俺に"親友"が増えた。
28歳で親友が増えるなんて、想像していなかった。
面白いと思える人もほとんどいないこの世界で。別に彼のことも面白いと思ってるわけでもないが、居心地がいい。彼といると、俺は面白く生きられる。より面白い自分に出会える。そんな貴重な存在。

『なにが起きるかわからない』と、軽々しい言葉が自分から出るのを必死に抑えながら、こうして『なにが起きるかわからない』というエピソードを語る今の自分も、結構滑稽で好きだ。

Twitterのタイムラインで、彼は俺を見つけ、1通のリプを送った。
その内容はもう覚えていないし、何気ないふざけたリプだったと思う。
その時には彼は『フォロワー』でしかなかったし、親友になる予定の存在でもなかった。

1通の電気信号から、共に旅をする仲間が出来た。沖縄も北海道も、千葉も東京も、そしてこれからもずっと独身かもしれないから、人生という長すぎる旅も。

『70億人が、彼の帰りを待っている』

大層なキャッチコピーのマット・デイモンが地球に帰還して、俺たちはまたLINEに戻る。
『乙でした』『良き映画でした』『ありがとうございました』

昔はタメ口だったのに、親友になってからなぜか、敬語になった。

"17 again" , or "against 17"

『17歳をやり直したい?』
そう聞かれたら、俺は『絶対やだ』と答える。

『思春期』なんて時期をもう一度やるとしたら、気が狂いそうだ。
LINEすらなかった俺の高校時代と比べて、今はTikTokやらInstagramやら。
スマホを開けば美男美女と、世界中の若い才能と、お金持ちと、経った数秒で誰でも笑わせられる天才たちに溢れていることを痛感する。

港区なんてJR東日本に数百円払って1時間もかからずに行けるのに、サンダルと、2着しかない外着で歩くミニマリストには無縁だよと。
『彼氏の年収が5,000万円なのに、誕生日のプレゼントが20万円のバッグでした。私って愛されてないんでしょうか?』
と、質問にインフルエンサーが答える。
『私はプレゼントの値段はあんまり気にしないかなぁ』
答えになっていないとは思うが、"余裕"だけは感じ取れる。

もう一度17歳をやるとなると、きっと俺は心が荒む。
多すぎる情報はほとんどが自分とは関係なくて、それでも確かに同じ世界に存在していて、質問をすれば確かに返ってくる。
同じ年齢のキラキラした誰かから、違う立場からの答えが返ってくる。

17歳に戻った俺は、多分それに耐えられない。
だから、31歳のままで『若いなぁ。まぁ君もいつかわかるよ。』と、無駄に積み上げてきた時間を振りかざしたい。

17歳を乗り切ったら、18歳がくる。
もう17歳はやらなくていい。なんという安堵。

31歳が過ぎたら、32歳がくる。
もう31歳は出来ない。もっかい31歳をやりたいけど、17歳からやり直すくらいなら、32歳で31歳のやり残しをやるとしよう。

とりあえず、今年引っ越したこの家は救急車のサイレンがうるさい。
やり直すとしたら『引越し先の近くに消防署があるかどうかは契約前に調べておけ』と自分にアドバイスしよう。

今いる場所は、別に昔から目指していた場所ではない。
どちらかといえば『平凡なサラリーマン』だし、かといって『つまんない人生』でもない。
けど、今あるものは、結構ある。
少なくとも、14年分。17歳の自分にちょっと馬鹿にされながらも、がっかりされつつも。それでも『うるせぇ。今の俺がいいんだから黙ってろ』と、17歳の俺に言えるような。1Kの部屋に、少ない所有物の隙間のあらゆるところに。

量子力学では、"エヴェレット解釈"という多世界解釈の考え方がある。
時間も空間も、無限の並行世界が存在しているというトンデモ理論だ。
高校の物理じゃ絶対にやらないけど、『君の名は』とかにも出てくる。意外と身近で、もしかしたら真実かもしれない理論だ。

もしも31歳まで生きられたら、17歳の誰かにメッセージを送ってみてほしい。

今俺は17歳の誰かにメッセージを送っている。
俺は17歳の時に31歳の誰かからメッセージを受け取ってないから、これは俺がこの世界で始めたこと。
14年後。31歳になったあなたが、17歳の誰かにメッセージを送る。
『救難信号』とかカッコつけながら、無責任に。

メッセージを送った相手は、もしかしたら過去のあなた自身かもしれない。
今メッセージを送っているのは、未来のあなた自身かもしれない。

『未来の自分は、必ずメッセージを送る』
そう決めて生きた時、そしてその時が来た時。
送られたメッセージが誰かに届く。

誰か。
時間も空間も飛び越えて、14年前の自分にも届いているかもしれない。
それが量子力学的な世界の真実だとしても、予想外の行動を起こしたあなたが世界を変えてしまった結果の"バグ"だとしても。

狐独

17歳の頃、自分と世界の乖離を感じていた。
しっくりこないし、なんか周りの人間が思うことに納得できなくて、考えても解決はできなくて。

それから、自分なりにその違和感に結論を出した。

自分は、宇宙人だ。
なんらかの事故で、もしくは目的があって、この地球に不時着してしまった。
目的地は地球だったのか、それとも他の星に行く途中だったのか。もしかしたら、元の星に帰る途中だったのかも。
とにかく、この星に不時着した。

でも俺は宇宙人だから、この星には体が合わない。
そのままだと死んでしまう。
だから、ちょうどその時生まれた命を借りることにした。

ちょうどその日、神奈川県の公務員の家庭に男の子が生まれた。
"物心"がつく前の肉体は、とても入りやすかった。
だから、助けが来るまでは、申し訳ないけどこの体を借りて、この星で救助船を待とうと決めた。

17年経っても助けは来ないから、焦った。
もしかして、永遠に帰れないのでは、と。
どうにかして帰る方法を探して、1つの方法を見つけたけど、その方法は仮とはいえこの体の人間を愛する人たちが悲しむ方法だった。
そして、何より俺はこの身体を『借りている』んだ。
俺が帰ることになった時に、返さないといけない。
平凡な公務員の家庭に生まれるはずだったのに、俺に身体を貸してくれた優しい"彼"に。

だから、待つのをやめることにした。
救助船が来なかったら来なかったで、それは見捨てられたんじゃない。
ただ、この身体が生きられる期限に間に合わなかっただけなんだと思うことにした。

俺が自分の乗ってきた宇宙船を見つけたとして、修理するにはこの星でいう200年かかる。体の期限には間に合わない。
そもそも科学の発展が追いつかないだろう。

だから、いったんはこの身体を貸してくれた"彼"に最大の敬意を示して、
俺はこの身体で、期限が来るまでは生きることにした。
そうしたら、楽になった。

仮住まいのこの身体は、返さなくちゃいけないから健康でいなきゃと。
この身体を貸してくれた"彼"の精神がここに戻る時には、その恩を返さなきゃと。
"彼”が戻った時に、なるべく多くのお金と、素敵な友人たちと、健康な体と。
何十年も借りてしまったから、せめて磨いておいたよと礼を言えるように。
まだしっくりこない本来の自分の身体が、少しでもスムーズに動いて、
彼がずっとやりたかったことが、行きたかった場所に、なるべく最短で行けるように。

この星も、そうせ帰れないならばとホームステイを楽しむことにした。
母星のことを覚えてないのは、不時着した時に頭でも打ったんだろう。
”彼”の目から見るこの世界は奇妙で、それでいて退屈なことも多くて、
人間はなんでそんなに怒ったり笑ったり、悲しんだり喜んだり、人を愛したり人を憎んだり、毎日こうもせかせかと生きるんだろう、と。
だけどこの星では、それが普通なんだと。

異国に来て、その生活は驚きの連続で、最初は戸惑ってばかりだったけど、
人間は人間として必死に生きている。
俺は仮住まいで、ホームステイで、いずれは母星に戻ってしまうから、
せめてこの星にいる間はこの星を楽しもうかなと思えた。

『星の王子さま』に、1匹のキツネが登場する。
王子さまに『僕を懐かせてよ』と言う。
懐かせ方を教えて、不器用に。

もしも機会があれば、読んでみてほしい。

最後に

あなたが発した救難信号に、俺は救助隊を派遣出来ない。
それは本当に申し訳ないと思う。
大人は無責任で、人間は優しくないから。

だけど、つながりや、変化や、思いもよらないことが起きることだけは証明出来る。
もしも、私の記事に対して起こしたアクションが、この記事として返ってくることが昨日想像できていなかったら、そして私からのこの文章があなたにとって良いものであれば、人生でこれくらいのことは起き続ける。

それだけでも、証明できたらと思う。

『オデッセイ』も『星の王子さま』も、17年の人生で見たことが、読んだことがなければぜひ手に取ってみてくれたらと思う。
名作は名作である理由があり、だけど人がそれに触れたいと思うのは
『ランキング上位だから』
ではない。

名作には名作である理由があって、多くの人に響くから名作になる。
あなたの人生のどこかの瞬間が、誰かにとっての"名作"になることを祈っています。

もしも駄作だと感じたら、私を見つけてくれれば代金はお支払いしますので。
そうして『映画も本も、読むに値しない駄作だった。時間の無駄だった』
と思うことすらも、人生かと思います。
無駄だと感じるということはきっと、もっと有意義な使い方を、あなたは出来るということだから。

31歳の、変わらぬ毎日を過ごす私もいつか、14歳離れた誰かに
『星の王子さまも、オデッセイも、つまんなかったんですけど』
と請求される日を楽しみにしています。

請求されたらすぐに支払えるように、
今日からスマホケースの裏に、あなたの名前を書いた1,000円札を畳んで入れておきます。

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