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放蕩学生の遍歴

 ゲームにはめっきり疎いと思っていた。幼稚園の年中組の時、視力の低下が問題となり、両親からはゲームの禁止を宣告されたからだ。とはいえ、当時、ゲームという物の存在自体を認識しておらず、せいぜいハンカチ落としぐらいであった。2010年代の話なので、DSか、2DS、最先端も3DS。妖怪ウォッチの全盛期とも被り、「元祖」「本家」変わり種の「真打」が子供たちの中での流行語だった。これではゲームへの欲求が高まってもおかしくはない。しかし、流行という激流に逆らい、向かい風にも負けぬ、くだらない性根を盾にしていた私は、段ボールで妖怪ウォッチを作り、手製の歪な妖怪メダルをはめ込んで満足していたのである。
 
 しかし、時が進むに連れてゲームの欲求が脳内から根本的に消え去っていった。ソシャゲに心酔した時期もあったが、基本は課金ありき。すぐに飽きが訪れ、長くは続かなかった。そのため、ゲームやらない代償として、「架空のスーパーのチラシを作る」や「架空の通信教育の習熟度レベルを作る」といった奇行系の遊びのレパートリーを増やしていったのである。

 ところが、中学に入ってから状況は一変した。YouTubeというプラットホームに目覚めてしまったのである。中高一貫校に在籍しているため、高校受験は免れる。したがって、中学時代というのは大学時代に続く「第2の人生の休暇」という訳だ。よくある無料で配布されるような教育雑誌には「中学時代の努力で『伸びる子』と『伸びない子』に分かれるようになります」的な事が書かれているが、私のようなケースの人間は文句なしに「伸びない子」の烙印を押されるだろう。

 中学時代の経験のうち、YouTubeで得たものは実に多くのウェイトを占めていると感じる。特に影響を受けたのはARuFaと委員長だ。人生を本気で楽しむ姿に感動し、己の醜態に目を向ける機会を与えてくれた。感謝してもしきれない気持ちだ。

 さて、幾ばくか季節が流れ、時は中二の冬。学校の音楽の授業で、音楽の先生が「『原神』というゲーム知ってます?あれ無料なのに面白いんですよぉ!とにかくキャラが愛おしくて、第2の自分に出会えた気がして!ああ…たまんないっすねぇ!」と口角泡を飛ばし、高揚した気分のまま「推しが尊い」の歌を歌い始めていたのだった。丁度自分専用のパソコンを購入していた私は、その「原神」なるものに意識が向いていた。無料だし、やるだけやってみるか……祖父から受け継いだ「無料まっしぐら」精神を胸に、私はダウンロードを始めていた。
 
 10分。まだかな。20分。意外と時間かかるな。30分。遅いぞ。40分。早くしろと言わんばかりに私はパソコンの前に拳を構えていた。結局、ダウンロードが終了したのは翌日の朝。私は、絶対クソゲーと言わせてやるからなという静かな闘志をたぎらせ、真冬の陽炎と化して登校していった。そして帰宅後、息をつく間もなくパソコンの前に座り、マウス片手にモンドの地へ旅立った。
 
 その後。朝になっていた。そう、原神にのめりこみ、夜通し剣を振り続けていたのだ。そんなにのめりこめるものなのか。たかがゲームごと気じゃないか。自問自答を続けたが、やはり面白いのだ。控えめに言って、凄い。現実世界ばりに自由で、現実世界以上に夢と冒険に満ちた世界が広がっている。岩場は登れるわ、火は起こせるわ、料理は出来るわと実世界以上に充実した生活を送っている自分がいるのだ。キャラもすべてが魅力的で、パイモンが如何にかわいいかという事もよく理解した。音楽の先生の熱い演説に爆笑してしまった自分を恥じている。

 現実世界に支障をきたすまでの脅威となった原神。冬休みとなった現在も絶賛ランク上げ中である。徹夜事件も相まってゲームで楽しむことができる自分に酔っているのか、現実世界とモンドとを錯誤しているのか、妙な自信でウズウズしている今日この頃だ。当面の目標は、原神の腕が上達するまでの間、操作が分からずチュートリアルから脱するまで5時間掛かったことを黙っていられるかである。
 


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