カプサイシンと鎮痛

ニートになってから、家族と夕飯時にテレビを見るようになった。これは父の習慣に合わせてのことである。父の6歳下の叔父は、最近はテレビを見なくなりもっぱらYoutubeばかり見ているというのに。
夕飯時のテレビには、旬(だと思われる)のタレントが汗をかきながら、唐辛子やその数倍のスコヴィル値(唐辛子の辛さの単位)を誇るスパイスがふんだんに盛り込まれた料理を悶絶しながら食べている姿が映っている。

唐辛子の辛み成分であるカプサイシンは化学構造的にVanilloid(バニロイド)という化学物質の一群に分類される。バニロイドにはバニラに含まれる香り成分のバニリンも含まれている。つまり、唐辛子の辛さとバニラの香りは化学構造的には類似した物質である。
辛み成分のカプサイシンは皮膚や舌に投与すると、低濃度では温感が、高濃度では灼熱痛や痛覚過敏が生じる。この仕組みを簡単に説明すると、VR1(Vanilloid Receptor Subtype1; バニロイド受容体サブタイプ1)という熱を感知するセンサーのようなものが体にはあり、VR1にカプサイシンが作用すると、体が熱によるダメージを受けているときと同様に情報処理しているのである。なので、「辛さは味覚ではなく痛覚である」とよく言われているのはそういうわけで、多少料理に関する書籍を読んだことがある人なら大体これを知っている。

ただ、このカプサイシンがVR1というセンサーを継続的にonにさせ続けることで、センサーがバカになって痛みを感じなくなってくる(これを専門用語で脱感作という)。「辛み(痛み)物質が常に供給され続ければ、鎮痛作用を示す」という話までは料理本では見かけない。実際に、市販の鎮痛クリーム剤にカプサイシンを含むものがあるし、痛みの治療用にカプサイシンクリームを作っている薬局もある。

ここで話を激辛チャレンジに戻すと、上記の理屈で考えれば、絶えず口の中に激辛を供給し続ければ辛み(痛み)を感じなくなってくる可能性が考えられる。タレントさんのチャレンジゆえ、休まずずっと食べ続けるのはTVショー向きでないことも考慮して、「水をなるべく飲まない」というのが、攻略法として考えられる現実的な落としどころなのではないだろうか。
と、有吉さんの高笑いを見ながら思った。

参考:


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