クロロホルム #3

イギリス女王の無痛分娩での使用を皮切りに急速麻酔の手段として広まったものの、その看過できない強力な毒性のために、今ではほとんどフィクションの中でしか麻酔として使われていない(であろう)クロロホルム。その毒性について。

毒性については大きく分けて2種類あり、クロロホルムを使ってすぐに出てくる毒性(急性毒性)と何度も使うことによって長期的にみて出てくる毒性(慢性毒性)である。

急性毒性については、麻酔作用が強く出過ぎて心臓が止まってしまうという心毒性であり、これはクロロホルムの麻酔の仕組み自体がよく分かっていないので、毒性の仕組みも詳しくは分からない。

慢性毒性が出る仕組みとしては、一言で表すなら、「肝臓由来の解毒機構CYP2E1による代謝活性」である。専門用語が多かったので、専門用語の部分をひとつずつ説明する。
まず「代謝」とは、体の中で起こる化学反応のこと。この言葉に活性がつくと、薬やら毒やらが体の中で起こる化学反応によってその作用を増すことを意味する。つまり、「クロロホルムの代謝活性」とは、体の中に入ったクロロホルムが体の中の化学反応によって毒性の強いものになることを意味する。
この化学反応に関わる触媒に相当するのがCYP2E1というものである。「触媒」とは化学反応を容易に進めるためのもののことで、特にタンパク質で出来た触媒を「酵素」と呼ぶ。CYP2E1は肝臓で作られた酵素の一種の名前である。本来、異物を化学反応によって無毒化or体から排出されやすい物質にする役割があるCYP2E1をして、段落冒頭の一言では肝臓由来の解毒機構と呼んだわけである。(教科書ではないので、各用語の厳密な意味が知りたい方は各々で自主的に勉強されることを推奨する。)
まとめると、冒頭の一言を専門用語を控えて表現しなおすならば、
「肝臓で作られた化学反応を進めやすくするもの(名をCYP2E1という)による、毒性強化」となるだろうか。

クロロホルムは体の中に入って解毒機構によって毒になるという話をしたが、この毒というのは具体的に言うと、ホスゲンである。ホスゲンは第一次世界大戦中に毒ガスとして使われていた気体で、これが水と反応することによって塩酸と二酸化炭素になる。塩酸と言えば、小学校の理科でも習う強酸で、これが肝臓で出来てしまうことによって肝臓や、そこから血が流れる先にある腎臓にも毒性が生じるというわけである。

参考:

https://www.nihs.go.jp/hse/cicad/full/no58/full58.pdf


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?