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みじかいお話 #2 ~耳のはなし~

君の耳は大きくて、クルクルまわる。僕はその動きを、飽きずにいつまでも眺めていられると思う。勝手に動くのかな、それとも君が動かしているのかな。

大きな音がすると、君はまず全身で受け止める。それから一人で落ち着く場所へ向かい、そこでしばらく過ごす。その間もきっと、君の耳はひょこひょこ動いているのだろうな。じっとしていても、いつも耳だけは動いているから。

その耳には、どんな音が聞こえているんだろう。みんなの声は、どんな風に聞こえるんだろう。僕に聞こえる世界とは、きっと違うんだろうな。それでも、名前を呼ぶことも、一緒に歩いたり遊ぶこともできるし、触れれば温かい。なんだか不思議だ。

落ち着いている時、君はよく寝そべっている。目を開けたままで、手も足も伸ばして。そうだよね、それだけ耳が動いて、たくさんの音を拾っているのだから。またいつ大きな音がするか、分からないものね。

もし君の耳を塞いで、音がなくなったら、君は安心するだろうか。
僕は、そうはならないと思うんだ。音がしなくて、何が起こっているのか分からなかったら、怖いから。

最近気がついたのだけど、僕の耳には、色んなところを通り抜けてきた音が引っかかるみたいなんだ。そして、残るんだ。君みたいに大きくないし、動きもしない耳だけれど。それでも、耳を塞ぐ気にはならないんだ。

たくさんの音でいっぱいになると、ため息をついてしまうのだけど、そんな時は君の耳を思い出すことにした。それから、君が寝そべっているところも。

眠っている時、君はよく足を動かしたり、小さく声を出している。夢を見ているのかな。自分の眠っている姿は見えないけれど、僕もよく夢を見る。

君と話ができたら良いのにな。そんなの夢の話かもしれないけれど、でも僕は、僕の中の君に、こうして時々話しているんだ。

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