無頂点
僕は飲み屋で吐いた。今月2度めだった。
バタイユの言う富の剰余と放蕩が、酒のインプットとゲロのアウトプットによって代替されたような感じである。
何千円も出して胃袋を0にしたって、どうせ締日になれば明日も明後日も余裕で生きていられるほどの金が舞い込むのだ。
同期とお気楽に飲むのは悪くないが、ふと、何も知らなくても平気なこの環境に心のざわつきを覚えた。
「奥多摩ってどこすか?笑 埼玉ですか?」
「早く結婚したいな、恋愛はスキップでいい」
「そこ上座だよ笑 年功序列で座りなよ笑」
「こないだ船橋のパチ屋でさぁ」
どこにでもある若手社員の戯言。単純なラングの交換。水平な、齟齬のない、若さゆえの弾力だけが確かにそこにある感覚。
僕も彼らと同じだ。
『そういえば事務の神崎さんってさ、マスク外すと結構さ、、、』云々。
とても愉快だった。とても浮かれているようだった。僕は吐いた。吐いて、寝て、朝になると、テキストをただひたすらに辿った。ありったけの文字に触れた。中庸とは何だ。ロゴスとは何だ。シニフィアンのシニフィアンのシニフィアンを辿った。
僕は女性のうなじを見た。かきあげられたロングヘアから、産毛と髪の境界線のようなものを見た。この境界線はどう呼称するのだろう。シーニュとしてあるべきだと思った。
僕は爪を切った。垢太郎を思いだして、僕と非・僕の境界線を探した。
26日は雨だった。僕は「お疲れ様です」と言った。人事の返事を聞くに、それは何者でもない僕らしかった。僕は経費申請書を出した。
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