お山言語論 1 -生成文法から言語erを観測する-


今回取り上げた初出について誤りがありました。「をが」の初出は
「部屋で4台PCをが動いてる」という一文だそうです。大変ごめんなさい。

…本当に何of?

参考:https://twitter.com/NalaNande

はじめに

国内話者数100人未満[要出典]と言われている「お山言語」について、ノーム・チョムスキーの考案した「統語論」を下敷きに様々な考察をする。

書いていたら記事が思ったよりも膨大になりそうなので、今回はお山言語特有の格助詞について述べたい。

お山格助詞「をが」について

言語erは度々、このような文章をツイートする。
a1「腹痛をがした」
a2「エラーをがどうにかした」
a3「病院をが行った」
a4「誰をが」

この格助詞「をが」は、あの偉大なるお山辞書botにも記述が見られる名句、「誰がこいつをどうにかしろ」が語源であるとされている。

これは、「誰かこいつをどうにかしろ」と「誰がこいつをどうにかするのか」というSentenceが多重に構築されている状態を一文で表す革新的な構造となっている。
この文章に感銘を受けたお山の民が、「が」「を」を抜き出し、反転させた「をが」という悪魔合体的な格助詞を生み出し常用しているという訳だ(a1-a3)。

しかし、なぜこのような破格な格助詞が普及したのか?
日本語話者としては直感的に理解し得ない格助詞+格助詞という生成(a1-a3)
がお山の民の間では一般化しているのだ。

しかも、なぜ「がを」ではなく「をが」なのか。ゴロの関係もあるかもしれないが、疑問に感じる点である。

更に奇妙なことに、「をが」を用いた場合、格助詞で終止する文法(a4)までアリになっている。本来あり得ないことである。
(文章が終止するお山特異の助詞に「~てて」、形容詞に「本当に」といったものも存在するが、今回は割愛する)

これは一体何が起こっているのか?

今回はその2つについて突き止めていこう。

「統語論」とは何か?

次に、統語論に関する概要を説明しよう。

統語論とは、アメリカの著名な言語学者(言語er!?)であるノーム・チョムスキーが研究の主軸としていた「生成文法(generative grammer)」に含まれる分野の1つである。

チョムスキーは心の動きを自然科学と同じ方法で捉えることが可能であることを唱えた。「自然的な」「物理的な」観点と同じような手法で、「心的な」、「言語的な」研究を進めようとした人物である。

そういった背景を元に、人間が生得的に持つ文章理解の根源を導き出すためにチョムスキーは文構造の観点から研究を進めた。

自然科学に関する研究においては理想化と呼ばれる、いわゆる要件の定義と、不要な要素の捨象が行われる。
物理学で例えるなら、直線運動を計算する際に摩擦や空力を無視して単純な要素のみを計算するようなものである。
中学校や高校の授業でも経験したことがある方々は多いであろう。

それと同じように、生成文法においても自然科学的な手法で理想化を行う。
例えば声や音素、文字そのものの成り立ちはひとまず置いて、文構造(Sentence)という観点からコトバを観測する。

「生成文法」、ひいては「統語論」が対象とするものは、「文章を生み出すための規則体系」である。ある文章が、どのようなルールで生成されるかを明らかにすることが目標となる。

具体例出せや


はい。文字で書いてもアレなので生成文法の例を見てみよう。

まず、文構造を明らかにするために、文章を句と詞に分割するところから出発する。

生成文法においては句構造規則(Phrase Structure Rule)と呼ばれるルールに従って文章を樹形図にする。

例:「私はコーヒーを飲みました」という文章(Sentence)に対し、日本語の生成文法の規則を解明する。

統語論において、まず以下の区切りで文章を区分けする。

S:文(Sentence)
V:
動詞(Verb)
VP:
動詞句(Verb Phrase)
N:
名刺(Noun)
NP:
名詞句(Noun Phrase)
Aux:
その他(Auxiliary)
Conj:接続詞・助詞(conjunction)

この上で、その言語の上で必ず成り立つべきルールを定義する。
例えば、日本語であれば「飛ぶ私なわとび。」「作る先生おりがみ。」などの文章は基本的にアンチパターンとみなされるため、そのような文章が生成されないような規則を予め設定しておく。日本語の一般的なSOV構文に沿い、かつ助詞に注目した規則を定義するならば、以下のようになる。

ちなみに()内は任意の要素である。

①S→(NP)+VP
②NP→N
③N→N+(Conj)
④VP→(NP)+V

記号で見るとややこしいが、要約すると

①文には、任意の名詞句の後に動詞句を必ず含むこと
②名詞句には名詞が含まれること
③名詞には名詞が含まれ、任意で接続詞・助詞を1つ含むこと
④動詞句には任意の名詞句の後に動詞を必ず含むこと

が基本的な規則となる。

日本語文法には話し言葉やかき混ぜ文(Scrambling)も含めればより多くの句規則が想定されるが、今回は格助詞の用法について注目するため、限定的な規則のみをピックアップした。

この区分けに関しては別紙「言語研究入門―生成文法を学ぶ人のために(大津 由紀雄著)」を参照されたい。
この本でなくても、生成文法の基礎を検索すれば一般的な手法が出てくるので一度調べていただきたい。(https://spice-of-englishgrammar.com/ja-word-order/)

樹形図にした状態が以下の通りである。


まぁ一般的なSOV構文はこのように落ち着く。

次に、問題であるお山構文(a2)「エラーをがどうにかした」という文章について、構造を確認する。

早速NP以降でエラーが発生している。
何故会話が成り立つのか不思議である。

更に問題の(a4)「腹痛をが」でも確認する。


もはやSentenceから破綻している。
本来あるはずのないNP終止が発生していることに注目してほしい。
(結局腹痛が何だったんだ)

本来の格助詞「を」「が」について

ここで、非言語erから見た「を」と「が」の立ち位置について参考文献から眺めてみよう。

今回、「日本語の格助詞表現の意味解釈について 」(伊藤 健人 著) から、それぞれの格助詞の用途について観察する。

現代日本における格助詞は9つしかないものの、それらが対象に取る要素は1つにつき複数に渡ることがある。以降、格助詞が対象に取りうる意味のことを深層格と呼ぶ。また、文法上の規則に関しては文法関係という呼称を用いる。
(深層格・文法関係の詳細は上記文献参考のこと)

例えば、「を」に関して見てみよう。一般的な文章を参考文献から引用する。

・太郎は本を読む。
・窓を開ける。

以上のように、「を」は文法関係においては必ず目的語を取り、深層格は対象のみを指す。

反対に、「が」について見てみよう。

・太郎があの本を読む。
・的が開く。
・太郎に古文書が読める。

「太郎があの本を読む」という文章から見て取れるように、限定的ながらも「が」は文法関係に主語もカバーしている。深層格的にも、対象・動作主・経験者の3つを包括することが可能となる。

「を」「が」の持つ要素には重複する部分もあるが、基本的には「が」のほうが「を」よりもより多くの深層格を持つことが分かる。

簡単に言えば、「が」の後に生成可能な文章は「を」よりも広範囲に渡るということである。


「腹痛をが+[終止]」の由来について

ここまでの調べから、この格助詞終止に続く含意をより広く見積もるために「をが」という語順になったのではないかという仮説を立てた。

「Aをが+[省略された含意]」を表現する際には,、先述の通り、「が」が末尾に来る方が、後続の文章により広い(廣井(廣井きくり!?))ニュアンスを包括することが出来るため、日本語話者の直感で「を」の後に「が」を並べたのではないだろうか。

じゃあ「が」だけでいいじゃん

確かに僕もそう思う。

しかしながら「を」でしか指せない対象も数多くある。「が」が目的語を取るシチュエーションが必ずしも全てを包括するわけではない。
「を」のみがカバー可能な文章も当然存在する。

「が」に多くのニュアンスを付加すること、そして先述したdouble sentence(いわゆる、どうにかしろ構文)を可能とする試みのために「をが」というとんでもワードを用いているのではないだろうか。


述語簡略文章=お山言語?

今回は特定の格助詞について扱った。
言語erは言外のニュアンスを敢えて残し、想定される含意を相手に委ねるといった文法を用いることが非常に多い。「〇〇する」「〇〇だ」「〇〇のようだ」といった形容詞・動詞を保留するような場面を多く見ることが出来る。今回省略したが、「てて」「本当に」「of」などの用法にも当てはまる事象であろう。
反対に、話し言葉で見られるような、主語の省略は少ない。

特に、NP終止については非常に興味深い観点が多いと考えている。
VPの省略を明示するために「をが」を用い、「相手にコンテクストを読ませる」という目的により[明確かつ要素過多のNP]+[不明瞭なVP]といった文構造を取るようになったのではないだろうか。
このように考えた次第である。

あとがき

最近、ブルアカの脱衣麻雀同人誌においてカヨコが手コキモールス信号で3s差し込み示唆したシーン(ツーツーツーで索子の竹3本を表す)を見て頭がおかしくなりました。


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