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ジャニー喜多川氏の児童性的虐待と国会

ジャニー喜多川氏の問題はこれまでも何度か国会の場で指摘されてきたが……。

記録で確認できる、ジャニー喜多川氏の児童性加害行為(当時は「いたずら」「セクハラ」と表現)が最初に国会で話されたのは2000年4月13日。
衆議院「青少年問題に関する特別委員会」でのことでした。
自民党の阪上善秀(さかうえ よしひで)議員が質問をし、それに担当機関の人間が答えています。

阪上議員はまず最初にジャニーズ事務所における未成年児童の扱いについて、労働基準法に照らして合法か否かを問うています。
それに対して、労働省労働基準局長である野寺康幸氏が「芸能プロダクションの専属タレント等につきましてはいろいろ難しい問題がございますが」と前置きをした上で「現在正確に情報を把握しているという状況ではございませんが、労働基準法等の観点に照らしまして問題があるようであれば今後必要な調査を的確にやってまいりたい、なおかつ指導をしてまいりたいというふうに考えております」と答弁をしています。

この、芸能プロダクションの専属タレント等についての「いろいろ難しい問題」は現在は解決されているのか否か。
「いろいろ難しい問題」を放置したままだからジャニーズジュニアなるよくわからない立場に置かれている児童たちがジャニー喜多川氏の自宅に泊まらされ、被害に遭ったのではないでしょうか?
もし、現在もその「いろいろ難しい問題」が2000年当時のままであるなら、まずはそこから手をつけなければジャニーズ問題の根本的な是正はなされないのではないかと思うのです。

阪上議員はさらにいくつかの労働基準法に関する質問を重ねた上で、ようやく「最も深刻な問題であるジャニー喜多川社長のセクハラ疑惑についてお聞きしたいと思います」と切り出しています。

約一年間ジャニーズジュニアをしていた少年の母親から入手したという、ジャニー喜多川氏の行為について書かれた手紙を紹介し、「もしこれが事実とすれば、これは児童虐待に当たるのではありませんか」と質問し、答弁に当たった厚生省児童家庭局長の真野章氏が「親または親にかわる保護者などに該当するわけではございませんので、私ども、手引で言うところの児童虐待には当たらないというふうに考えております」と答えています。
それに対し、阪上議員が「それはおかしい」と食い下がると真野氏はようやく「一般論といたしましては(略)児童福祉法三十四条の六号に違反しているというふうに考えられると思います」と認めました。

阪上議員は「厚生省の今の答弁のように、事実を把握しておりながら実行しないというところが、私は、青少年、あこがれのスターを夢見る子供たちをみすみす犠牲に追いやっているものと思います」と、今になってみればまさしく核心をついた言葉を残しています。

この質疑が行われたのは前記のとおり2000年のことです。
週刊文春が連続キャンペーンでジャニーズ事務所の告発記事を掲載したのが1999年の11月から12月。その翌年4月の国会でした。
そして、ジャニーズ事務所が文藝春秋社を名誉棄損で訴えた裁判で、最高裁がジャニーズ事務所の上告を棄却して喜多川氏の性的虐待(当時は「セクハラ」と表現)の真実性が確定したのが2004年2月のことでした。
残念なことに阪上善秀議員は2019年11月にお亡くなりになっていますが、国会で質疑した2000年当時に関係各所がちゃんとした調査と適切な指導を行っていれば、そしてそれをマスコミが利害に溺れることなく、公正な報道をしていれば、その後の被害は防げたのではないかとも思ったりしますが、今では後の祭りになってしまいました。

みどり共同法律事務所ホームページより、裁判についての記述

2023年3月9日と5月9日の国会でもジャニー喜多川氏の名前が

今年に入り、BBCがジャニー喜多川氏の性加害ついてドキュメンタリーを放送したことを受けて、政治家女子48党(NHK党から改称)の浜田聡参院議員が3月9日の参議院総務委員会で、NHKに対し「NHKは(喜多川氏のことを)報じるつもりはありますでしょうか」と質問をしています。
それに対し、NHKの林理恵専務理事は「総合的に判断」と通り一遍の答弁をし、続けて紅白歌合戦など多くの番組でジャニーズ所属のタレントを多数起用していることについて質問し、林氏はそれにも「総合的に判断」を繰り返すのみで、何ら建設的な質疑応答にはなりませんでした。


そして5月9日の衆議院本会議。
入管難民法改正案が賛成多数で可決されたあと、法務大臣の齋藤健議員が本年3月14日に国会に提出されていた刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の趣旨説明をおこない、立憲民主党の吉田はるみ議員、共産党のもとむら伸子議員が質疑をおこなっています。
その改正案の概略は内閣法制局のホームページに「提出理由」として記載されています。

内閣法制局ホームページより

衆議院本会議で性犯罪についての法律一部改正が質疑され、立憲民主党の吉田はるみ議員によってジャニー喜多川氏の性加害問題にも触れられました。

おそらくこの性犯罪についての改正法案はこのまま通るものと思われますが、この法案があったらジャニー喜多川氏の性加害は起こらなかったかと考えてみるに、とてもそうは思えません。
もちろん喜多川氏に一定の心理的抑止力は働くと思いますが、この法案が規定しているのは当然ながら被害届が受理され、起訴に至った場合に効力が発揮されるものです。
被害届が出されなければこの法律はほとんど意味を持ちませんし、ジャニーズジュニアの子供たちはこれまで同様、誰も被害届を出すことはなかったでしょう。
被害届を出すということは、スターになる夢をスタートラインに立つ前に、自ら手放してしまう、芸能界を諦めることになってしまうからです。

また、前記した2000年の国会答弁にあった芸能プロダクションにおける「いろいろ難しい問題」が、おそらく今も生きていると思われますので、少なくともかつて公正取引委員会がやったような、関係機関による芸能界の綿密な実態調査がまずは必要なのではないかと思います。
その上で、「いろいろ難しい問題」を明確にしたうえでの法整備でなければ、芸能界における性犯罪は今後もなくなることはないだろうと思うのです。
法律ですから芸能界に限定したものができるわけもなく、だからといってそのままにしておくのは人権をあきらめるに等しいことだと思いますので、誰かが真剣にこの深刻な問題を解決に導く有効な手立てを考えて欲しいと切に願うものです。

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