Donnie Vie 『Beautiful Things』

 待ちに待ったイナフズナフの元ヴォーカルにしてメインソングライターであったドニー・ヴィーのニューアルバム。デモ音源放出の『This & That』を2ndにカウントするかどうかによって何枚目かは変わるが、オリジナルアルバムとしては2014年の通称『White Album』以来のリリース。個人的には4thアルバムとしたい。

 ドニー・ヴィーという人のメロディーメイカーとしての才能が、現代における一人レノン&マッカートニーと断じても差し支えないほど如何に異次元であるかについて、持てる語彙力を全て駆使して原稿用紙30枚分程は書き綴りたいところではあるけれど、それはまた次の機会に。ただ、メロディーメイカー界のイチローであり且つプーホールズであることが彼の一番の凄さだとだけはなんとしても言っておきたい。ジョン・ボンジョヴィやノエル・ギャラガーが決してドニーほどの打率と飛距離でグッドメロディーを産み出しているわけではないことを比較対象として挙げれば、彼の現在までの評価や知名度がどれたけ不当極まりないかが非常に分かりやすいと思う。

 さて、アルバムの内容。前もって聴いていた3曲の出来からしても名作になることはある程度折り込み済みであったが、全10曲、捨て曲無しのどエラいクオリティになってしまった。粒揃い度で言えばソロでの不朽の名作『Just Enough!』を凌駕するかもしれないというレベル。

 特に今回は明るい曲調が多く、古くは「I Could Never Be Without You」に始まり、大傑作アルバム『Strength』や『Tweaked』はもちろんのこと、最近では「Haunted」中で炸裂していたようなドニー独特の暗く妖しくうねる美メロはほとんど聴くことができない。しかし、明るいポップサイドに舵を切っても、『Brothers』や『Peach Fuzz』のように、聴けばゾクッとするフックのある美しいメロディーがてんこ盛りで、単にキャッチーなだけのパワーポップチューンとは明らかに一線を画す楽曲が並んでいる。同じ方向性のそれらと敢えて比べたときの特徴としては、メロディーもサウンドプロダクションもよりいっそうビートルズぽくなったと言えるかもしれない。

以下全曲コメント。基本的にメロディーは破竹の勢いで全曲大変なことになっているが、現時点で個人的お気に入りに★を。

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M1:ポール・ギルバート参加のアルバムタイトルトラック。上で書いたうねる美メロが唯一少し顔を出すのがこの曲。往年のズナフ感は一番あるんじゃないかな。今年の早い段階からこの曲は聴き倒していたが、アルバム中で断腸の想いで一曲選べと言われたらやっぱりこれにする。それくらいこの曲のメロディーは好き。OPでポールのギターが炸裂するリリースVerより、初期Verのほうが良かったんでは…という気は少しある。いずれにしてもハイライトチューンのひとつ。★

M2:イントロがあまりにアレで誰しもがニヤっとしてしまうが、なんてったってサビの悶絶のメロディーよ。マイナーコードの使い方が匠の域と言える。時間にしたら5秒くらいのフレーズなのに、これだけゾクッとするんだから。★

M3:ポップではあるが雰囲気的には前作の『White Album』に一番近い曲調。展開も凝っていてスルメ感強し。★

M4:1stシングル(2ndがあるのかわからんけど…)。伝説のポップマエストロ、元ジェリーフィッシュのロジャー・ジョセフ・マニングJr.のストリングスアレンジの力を借り、マジカルポップな曲に仕上がった。HR畑の人脈ばかりと思っていたからこの繋がりは涙した。出だしのリズムからあまりにビートルズ。サビの後半のメロディーは美しい美しいドニー節が炸裂。ハイライトチューンだらけの中でもハイライトチューンの一つ。★

M5:アルバム中2曲ある純バラードのうちの一つ。こちらは弾き語りのような雰囲気でしっとり聴かせるタイプ。

M6:イントロのギターの音色とキャッチーさにいきなりノックアウトされそうになる。リズムといいメロディーといい最もパワーポップぽい曲。サビの流麗なメロディーはさすがとしか。★

M7:Pledgeキャンペーンの口火を切ったストレートポップチューン。ドニーにしては素直なほうな曲かな。

M8:カントリー風の軽快さとドキャッチーなサビを携える佳曲。

M9:かなり前から存在していた曲で、デモ音源ではコアなファンの間では流通していた。デモでも名曲感が隠しきれない出来であったからいつかまともなリリースをと望んでいたが、本当に来ちゃった。終始印象的なメロディーが鳴り響き、ドニーの歌心が全開に出ている曲。歌詞にもなっている曲名の響きもカッコいい。★

M10:どこまで人を鳥肌だらけにすれば気が済むの?と問い詰めたくなる新たな名バラードが誕生した。サビのメロディーで死者多数。アレンジもお洒落に仕上がってる。前作のDisc2にしれっと入っていた神バラード2曲にも腰抜かしたが、あちらはある程度ドニーの音楽に慣れていないとツボに入らないかもしれないが、こちらのほうはより普遍性が高く全人類が感動する美メロ。★

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本気のドニー・ヴィー、おそるべし。

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