ゲンロンSF創作講座 便乗小説#02「ダークフォトンの水底で」プロット&アピール

※小説家になろう、カクヨムに重複執筆

●プロット●
「『うきゅぅーーーーーーきゅぅーーーーー!』
 うるさい。お空にたぷたぷ水が浮かぶ惑星ユクスの、アースで癒しなものなら何でもラブな女子が聞けば血相変えて喜び大ジャンプ(たぶんパンツ見えてるよ)間違いなし、宇宙クジラの鳴き声が遠くに聞こえる宇宙港でおれは最高級のワイン三昧」(冒頭より)

 おれ、水基大事。ダイジと読むけど、不幸な人生を思えばオオゴトって方が合ってそう。事故での失明を期に、ダークフォトン飛びかう光の無い星、惑星ユクスへやってきた。来たのはいいが空港には誰もいない。ノー視覚な世界に慣れてないおれ、どこにも行けずぼっちで過ごすこと一週間、発狂寸前のところを、ユクス・地球人ハーフの少年、ロケットくんに救われる。

「ダイジ、この星はね。もう黙りかけてるんだよ」
 ユクスってのは、地球に似てる部分もあるんだけど、ダークフォトンで真っ暗けなのと、あと「水」が違う。てかおかしい。手触りと味は同じでも、「異常液体」って呼ばれる地球の水に対し、ユクスのそれは「異常気体」。水蒸気=気体よりも液体の水の方が軽くて、雨は空へと昇っていき、惑星を取り巻くお空の海、そこを雄大に泳ぐ宇宙クジラたち。

 ところが半年ほど前から、宇宙クジラの集団自殺がはじまった。響き渡る断末魔の悲しい鳴き声。ユクス人ってば、視覚がないぶん音とか声がとっても大切。悲鳴に耐えられなくて、後追い自殺が大流行。自殺スパイラルでいまや人口数百人とからしい。あ、ロケットくんは地球人ハーフだから大丈夫なんだって。

 生き残ったわずかな人を探し出し、ロケットくんは自分のロケットで(ややこしいな)地球へ脱出しようしてる。彼に同行するおれは、ペシミストの「船長」、言語学者の「魔術師」、ダンサーの「天使」、そしておれと奇妙な縁を持つ、ロケットくんの母親「千里耳」との対話と議論と触れ合いの果て、脱出ロケットにたどり着く。結局みんな、「黙って」しまい、残ったのはおれとロケットくんだけだった。旅の途中で視覚が回復していたおれだけど、帰り着いた地球はあまりにまぶしくて、そっと目を閉じる。それでも、ロケットの手を握ってさ、二人で一歩を踏み出したんだ。(920)

●アピール●
 「光の無い世界」と、まあシンプルな発想だと思います。ダーク銀河、ダーク太陽、ダーク惑星、ダーク光子……ってのは、ダークマターの一種として仮説はあるみたい。だけど着想は物理学では全然なくて、言語哲学者パットナム「双子の地球の水」の思考実験と、これと「愛」を結び付けて語った大澤真幸の「恋愛の不可能性について」から。

 視覚の無い世界は、文字文化が生れないので、「声」というか、口に出す言葉の価値が相対的に重要になるよね、というのはオング『声の文化と文字の文化』から。また、音が優位になると認識のシステムが変わり、世界それ自体が全く異なる様相を見せる……みたいなことを、盲目の主人公が登場する映画『イマジン』を見ながら構想してて、ちゃんと書ければいいなぁ、と悪戦苦闘中。

 とかいって、アピールポイントはまた別の場所で、主人公ダイジのノリの良い語りと、愛に関する切ない物語。「愛する人が死んだなら、自殺しなけあなりません。愛する人が死んだなら、そうしなけりゃあどうしようもない」(中原中也)の一節をSFで書く、というのが一番やりたいことかもしれません。(481)

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