見出し画像

ダテコー作品が好き過ぎるというお話

gdgd妖精s

 2011年10月深夜、低予算な15分アニメが放映された。それが今後巨大に育っていくコンテンツの火種であったとは、視聴者のみならず制作陣でさえも気付いていなかった。『5億年ボタン』や『ネットミラクルショッピング』など数々の大作を生み出した3DCGクリエイターの菅原そうたとのちのちに幾多もの意欲作を生み出す事となる石ダテコー太郎(当時は石館光太郎名義)が科学反応を起こしたアニメである『gdgd妖精s』は関東ローカルの独立局やニコニコ動画等で配信された。楽曲は主に井上純一Hajimeらが担当している。一見妖精達の日常会話にスポットライトを当てただけの何気ない3Dアニメであるように感じるやも知れない。だがその認識は本編を観る事で大きく変わる事だろう。この作品の神髄は劇中コーナーの「アフレ湖」で窺える様に、声優陣のアドリブパートにあると言っても過言でない。声優ラジオや声優イベントが一種のブームとなっていた当時、こういった演者の素が垣間見えるコンテンツとして上手く話題の波に乗ったのがこのコーナーだった。プレスコ方式と声優の大喜利を組み合わせたこの技法は当時衝撃的であったとさえ言っても良い。この唯一無二な演出技法は当作の演出家であるダテコーの代名詞となる。しかし彼がgdgd妖精sに携わるのは1期のみで、2期では降りている。これは当時の彼の働きを、上層部が軽んじた為である。当記事は、この後にとてつもなく化けていくアニメ監督である石ダテコー太郎氏の歩みを振り返るモノである。

直球表題ロボットアニメ

 2012年には、旧BiSが題材の『バックステージ・アイドル・ストーリー』や再び菅原そうたと組んだ『僕の妹は「大阪おかん」』を手掛けたダテコーだったが、翌2013年は飛躍の年となるのである。
 2月初旬に放映された『直球表題ロボットアニメ』は彼の名を揚げた力作と言える。滅亡した人類の残した記録を閲覧し「笑い」についてを研究するロボット達の掛け合いが主題となっている。議題を挙げそれについてアドリブで話し合ったり、モノボケを披露し合ったりとやはり大喜利をやらせる方式だ。SFの体裁は整えようとしており、時折聞こえる素の笑い声や、ロボットが「笑い」を習得できない理由などにも一応の説明が劇中では加えられている。超低予算な『ファイアボール』にニュアンスとしては近いのかも知れない。アドリブ劇による単なるシュールギャグにも思えるが、広げた風呂敷はある程度畳んで幕を引く彼のスタイルはこの作品から既に始まっている。3Dモデラーのcortやプロデューサーの福原慶匡が加わったのもこの作品からになる。

てさぐれ! 部活もの

 同じく2013年の秋口に放映された『てさぐれ! 部活もの』は彼の手掛けた作品において最も有名で最も人気のシリーズであった。「さぁ、カメラが下からグィ~ッとパーンしてタイトルロゴがドーン」というオープニング曲のフレーズは何処かで聞いた事があるのではなかろうか。舞台は高校となり、「新しい部活動を考える」というテーマの下で声優大喜利が行われる。台本パートとアドリブパートが分かり易く、「新しい○○部を考えてみよう! 」の台詞と共に鳴るポンッ!という音が切り替えの合図となる。声優4人の内2人がダテコー作品経験者、残りの2人がルーキーという事もあり突拍子の無さと不安定さが味と言えよう。放映に合わせて『てさぐれ! ラジオもの』も公開され2重で楽しめるようになっている。この作品からアニメーション監督としてirodoriのたつきが加わり、アニメ会社をヤオヨロズを立ち上げた。

 人気を博した同作は急遽翌年2014年に『てさぐれ! 部活もの あんこーる』が制作された。2期では若干ストーリーの深堀りがなされたが、基本的に1期の空気感の延長線上にあるので相変わらず楽しめる。

 2015年には3期として『てさぐれ! 部活もの すぴんおふ プルプルんシャルムと遊ぼう』が公開。『みならい女神プルプルんシャルム』とのコラボ作品となっており、新たに5人の声優陣が加わった事で更に混沌と化している。しかし3期の8話を境にダテコーはこのシリーズから降りてしまった。1作品目ぶり2回目の降板となり、この件については流石に演者からも苦言が呈された
 彼の手を離れたてさ部シリーズは演者がメインの旅行企画を連発したりスマホアプリでゲーム化したりと色々とマルチメディアに手を伸ばしていき最終的には赤字となった。

みならいディーバ

 NOTTV発の企画として発足した『みならいディーバ』は2014年の作品だ。アナウンサーの吉田尚記とダテコーが手を組み、アニメを生放送するという当時としては未知の試みを実現した作品である。いわゆる現在のVTuber達が用いている技術の殆どはこの作品が嚆矢だ。バーチャルディーバの2人が生放送中に曲を完成させるというコンセプトになっており、実際にニコニコ生放送とNOTTVで生放送された。発起人である吉田尚記はごぼうちゃんというキャラクターでこの作品に出演している。
 この作品ではHajimeが作中のBGMを即興で演奏する荒業を見せ、この後のシリーズにおける生演奏も彼が担当した。また技術的な指揮をとったcortはこの作品で得たノウハウを今後更に飛躍させていく。演者にモーションキャプチャーを取り付け、音声に合わせリップシンクを行い、リアルタイムで物理演算をしていく試みはこの作品が世界で初めて成功する(アニメの生放送自体は前例がある)。度々トラブルに合い、キャプチャーがズレ出しリセットの為にキャリブレーションを行うも上手くいかず初期ポーズで固まったり、メモリの使い過ぎでパソコンが固まったりしながらも毎週改善し、しっかりと作品を完遂させた。アニメ監督であったcortはこの作品でノウハウを獲得し次回作でもその力量を存分に発揮する。
 プロジェクト発足の経緯についてはこちらから視聴できる。

魔法少女? なりあ☆がーるず

 前作から2年経過した2016年には『魔法少女? なりあ☆がーるず』の放映が行われる。こちらは10分のショートアニメであるが収録風景を生放送して、後日それを元に編集した完成品を正式に放映する形式をとっている。現在の感覚だと、切り抜き動画で30分アニメを作るニュアンスに近いと言えるかも知れない。この作品ではダテコー自身がメインキャストとしても参加しており、監督自ら演者達のリアクションを直接引き出す荒業を生放送でやってのけた。
 見て分かる通りメインのキャラが1人増えている。2年間で技術向上し3人同時のモーションキャプチャーと高度な描画が可能となったからだ。これはKiLAという安価で最先端なモーションキャプチャー技術によるモノであり、KiLAの開発メンバーの1人としてcortが名を連ねており、ダテコーはこのシステムのプロデューサーに就任した。同年彼はYouTubeで世界初のバーチャルYouTuberキズナアイの立ち上げに加わっており、同システムが大いに活用されているプロジェクトであった。
 ちなみにこのアニメでも前作に引き続きHajimeが生BGMを担当している。ストーリーとしては緩いまどマギなので取っ付き易くはなっているだろう。またダテコーは2015年時点でたつきや福原に託す形でヤオヨロズを退社しており、新たにバウンスィを立ち上げた。同作はバウンスィ作品第1号という訳だ。

ひもてはうす

 2018年には『ひもてはうす』を手掛けたダテコー。今回のテーマはシェアハウスであり、女性版おそ松さんをやろうとしたのがキッカケだ。どうしたらモテる女子になれるかを考えるという体でいつも通りの声優大喜利が展開される。メインキャストの5/6がダテコー作品経験者という事もあり安定感は抜群のモノとなっている。また演者の1人である水原薫がイタリア在住であったが故に途中から収録に参加できなくなるというトラブルもあったが、代役を立てた上でそのトラブルすらもストーリーに組み込むというダテコーが監督兼構成作家としての手腕を見せつけた作品でもある。
 同作がダテコーの手掛けた最後の地上波アニメで、2021年にはバウンスィを退き、テコメノYという会社を発足している。

其れ、則ちスケッチ。

 Webアニメとなる作品で2021年に公開された『其れ、則ちスケッチ。』は彼にとって珠玉の作品と言えるのかも知れない。無人島に流れ着いた2人の女の子が暇潰しがてらコント動画を撮るというストーリーのアニメであり、作中で披露されるモノはボキャ天芸人として人気を博したフォークダンスDE成子坂のコントを元にしている。キャラデザは漫画家吉崎観音が担当した。Webアニメでありながら、半年後に地上波で改めて放映が決まった。今回紹介した中で唯一全話無料で視聴できる。

 てなわけで長かったですね、約10年に渡るダテコー監督の大雑把な遍歴を追って行きました。声優ラジオやVTuberを楽しめる人は、観る人を選ぶ事で有名なダテコー作品の数々も十二分に楽しめると思います。ダテコーの作品から派生していったモノも多々あるのですが、今回はそこまで触り切れませんでしたね。一応そこら辺も下図で簡易的にまとめたのでご覧下さい。けもフレやVTuberなど流行りの裏にダテコーの影が見え隠れするのが楽しかったこの10年間、拙くはありましたがこの記事で感じ取ってくれたら幸いです。今後もダテコーの活躍に期待を込めて、この記事を締めたいと思います。オチとかはないです。バイバ~イ。

ダテコー作品関係者 時系列樹形図

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?