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おけパについての所感

 7月初旬に一部の同人ユーザを震撼させた真田氏の『同人女の感情』。既にこの話題には手垢も苔もつき尽くしており,有権者らの増田記事も無数に存在しています。今更私が語るべき事もないですし,俯瞰を気取った解説みたいな事もできませんが,単に私が語りたいだけなのでお話しさせていただきます。
 漫画は泡沫字書きの七瀬もしくは友川が,有力字書きである綾城に憧れの捻じれまくったクソデカ感情を向け続けるだけの話です。大作を書けるようになっても七瀬や友川は満足しません。それは彼女らの書いた小説は綾城に向けて書いた作品で,他の読者がどう賞賛しようが関係ないからです。彼女らにとっての小説は綾城に送るラブレターであり,自己の評価基準が綾城の1人に完全固定されているわけです。これは百合などではなくデフォルメされたネット上における人間関係そのものなんだろうと思いました。
 この漫画における最重要人物は無論おけけパワー中島(以下中島)でしょうね。七瀬や友川が何故中島に強い憎悪の感情を向け筆を執ったのか。彼女らにとって綾城は等身大で生きる信仰の対象です。彼女らに同人活動(創作,閲読,閲覧など)の真髄を図らずとも触れさせたのが綾城の生み出した作品で,もはや同人活動の中心的指標として綾城が置かれました。「一次創作を基に良い二次創作を作りたい」ではなく「このジャンルの二次創作で綾城に認められたい」という思い。彼女らを突き動かすのはコレだけです。元作品への愛ではなく二次創作者への愛。だからこそ,その綾城と仲の良い中島が目障りなのだと思います。
 中島と綾城は友人という点において対等な関係だが,七瀬は別に綾城と仲良くなりたい訳ではありません。二次創作者というカテゴリで作品を通して認められたいだけ。中島は友人という異なるカテゴリに入っている事によって,二次創作者のカテゴリにおいても綾城から下駄を履かせて貰っているだけの様に見えた。だからズルいと思えてしまった。真に作品を評価するのであればある意味で作者は匿名性を有さなければならないんです。有象無象の創作者群というベールによって事実上その匿名性が可能になるわけです。
 七瀬や友川は綾城にとって匿名の読者である一方で有象無象の識別不可な創作者でもあります。対して中島は経緯はどうであれ既に友人のカテゴリ。綾城は中島を認知しているから優先度は上がる。作品にちゃんと感想をくれる記名の読者であり,識別が可能な作者仲間です。七瀬が作品に感想を送らないのはやはり読者-作者間の関係よりも作者-作者間の関係でありたいからなんじゃないでしょうか。友川に至っては今一度読者としてマシュマロを送るがやはり匿名の皮を被らないと気持ちは伝えられないわけです。しかも毒マロではなく全面を尊敬と善意でコーティングしたモノ。1度送ろうとしたジャンル降りへの苦言も,その後に送ったA×B作品に対する感想も,乗り換え先での創作を応援したいという気持ちも,全てが友川内に収められていた本心で決して取り繕った結果ではないんです。
 綾城ファン(七瀬・友川)-綾城-中島の構図は然程珍しい事でもありません。憧れの人と仲が良い人に羨ましく思ったり妬ける事は往々にしてあり得る感情でしょう。創作者は七瀬に,読み専は友川の情意に心当たりがあるかもしれません。あの人に反応して貰いたくてアップロードした絵,書いた小説,作った動画,呟いたツイート。でもその人は反応してくれない。その代わりなのか他の人達が凄い凄いと私を褒める。違う,私は貴方に見て欲しくて,喜んで欲しくて,作ったのに。貴方1人が反応してくれればそれで満足できるのに。私の力不足ですか,そうですか。私のはスルーなのにこの人のはリツイートまでするんですね。この人とは仲が良いからそうやって反応に露骨な差が出るんですか。贔屓ですか。そりゃ私みたいな泡沫よりもお友達の作品の方が見る価値ありますもんね。私から何か貰っても嬉しい訳ないですよね。ご迷惑お掛けしました。はあ……。みたいな感じで。
 創る側に立つ人は1回以上この気持ちに呑み込まれた事があると思いますよ。要は勝手に期待して勝手に裏切られて勝手に切れ散らかしているだけ。しかもそれを表に出さない事を美徳としているから,なんのこっちゃ分からない。自分で作った縛りルールを仕様だと錯誤して最後には自爆する。誰にでもある。でも誰も解決法が分からないんです。これは中島に対する嫉妬なのか,綾城に対する過度な期待なのか。そんな単純なモノではないんだと思います。私は七瀬の衝動を知らないと決して言えませんし,言える筈がないです。誰もが七瀬や友川側になり得るし,中島側にもなり得ます。更に言えば綾城にだってなり得てしまう。人が人に向ける気持ちというのは大抵の場合どこかで歪に捻じ曲がってしまうのではないでしょうか。それは相手を考慮したり,自分を守る為だったり。まあ初めから興味を持たれない私という存在は心情だけ七瀬・友川側だがラストシーンみたく綾城に振り向いて貰う事もないんでしょうがね。

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