見出し画像

北へ 行こう ランララン #3

※この記事は前回 前々回からの続きとなります。詳しくは前回記事 前々回記事をご覧下さい。最後まで読んで下さい。

再集合

 前回から更に1ヵ月程経過した頃、またも豊平とよひら大の深佐原みさはら准教授(仮称)から連絡が入りました。こうして我々最後の調査が始まります。

新北海道メトロ株式会社 地下札幌中央駅 南西側入口

 やってきました新北海道メトロ。地下鉄なので昼でも若干暗い不思議空間です。なんでここに来る羽目になったのかは前回を読んで戴ければある程度察せるかと思います。さて前回、深佐原先生は「かつての札幌には、現代の札幌地下網とはまた別の、札幌地下網が広がっていたかもしれない」という大いにトンデモな可能性を提示しました。という訳で2人して実際にフィールドワークです。仮に前回の先生の説が正しかったとして、明治期に造られた設備の名残が現代にまで残っているなんて事があるのでしょうか。

私鉄 新北海道メトロ

 札幌第2の地下鉄として運営される私鉄、新北海道メトロ。このメトロは札幌中央駅を中心に、南北を走るすすきの線、東西に延びる琴似線、最後に建設された豊平線の3路線で構成されています。大通公園の下に広がるのは地下札幌中央駅です。地下1階から地下4階にまでおよぶ巨大な地下構造で、3路線が交差するハブ駅でもある為、少々複雑なので箇条書きで特徴を説明致します。

B1F…地上入口と改札と地下商業施設。シームレスに地下街と繋がっている。
B2F…すすきの線ホーム。西側には更に豊平線へと続くエレベータがある。
B3F…琴似線ホーム。すすきの線・豊平線とはねじれの位置にある。
B4F…豊平線ホーム。B2Fの西側を経由しないと辿り着けない構造。

新北海道メトロ株式会社 路線図 (権利の関係上 筆者による手描きを掲載)

 こうした割と面倒臭い構造をしており、例えば琴似線から豊平線に乗り換える際は、B3F(琴似ホーム)→B2F東→B2F西→B3F(豊平側)→B4F(豊平ホーム)と大分回り道をしなくてはなりません。気怠いですね。

噴水の下で

 南西口を入った所に本屋があって、そこの入り口で深佐原先生と待ち合わせていました。行くと先生は、何処かに電話をしながら、私を待っていらっしゃいました。先生と合流し少しだけ談笑をしていると後から誰かもう1人やって来ます。誰だろう……と思っているとその人と先生が楽しそうに話しを始めました。呆気に取られていると先生がこう紹介してくれます。
「紹介するよ。今回調査に協力してくれる新北広報の入渕いりぶちさんだ。入渕さん、本日はよろしくお願いします」
どうやら入渕さん(仮称)がある程度の所まで案内してくださる様です。
「小泉さんですね。先生からお話は聴いてます。今回はよろしくお願いします。すべてを案内できる訳ではありませんけどね」
私もよろしくお願いしますと挨拶を交わし、彼女に付いて行く事に。
 道中の話を聴いていると先生は入渕さんにも仮説を話している様でしたが社内でもそんな噂は聞いた事がないと彼女は仰ってました。ただもし先生の説が本当ならば、その痕跡があるのは地下1階の可能性が高いそうです。というのもその頃の掘削技術など高が知れてるので、それ程深くは掘れないだろうと彼女は考えているそうです。
「確かにそう推察するのが妥当かも知れない。必要以上に深く掘る理由もないだろう。だとすればちょうど我々の居るこの階か……」
そうこう言っている内に関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアの前に着きました。
「一般の方が入れるのはここまで何ですけど、今回はちゃんと許可を取っているので少しだけですけどこの先に入れます。中に居る時はこの見学証、首から下げといて下さいね」
入渕さんが重い扉の鍵を開けると長い長い通路がその姿を現します。更に幾つかの曲がり角と扉を通るとこの様な場所に出ました。

新北海道メトロ株式会社 地下1階 某所

「ご案内出来るのはここまでです。場所としては大通公園にある7丁目噴水の丁度真下に位置します」
流石にこれじゃ何も分かりませんねと私が言うと、先生はそんな事はない、色々と分かる事があると仰いました。
「重要なのはこの場所の位置だ。大通公園の噴水の真下ということは、公的に発表されている地下街の最西端から300メートル以上離れた場所に位置する訳だ。更にこの先にも道は続いており、この前見つけた新軌道拡大構想図とも整合性が取れる」
「つまりはこの空間こそがかつての地下網の名残である可能性が高い」
それだけじゃ根拠として弱過ぎるのではないかと思っていると、先生は入渕さんに追加で質問を投げました。
「入渕さん、これは私の推測なのですが、この地下札幌中央駅構内に琴似線と豊平線を直接繋ぐ線路があるのではないでしょうか。一般的には公表されていない路線、マニアの間ではヨリミチと呼ばれ噂される路線です」
「あまり大きな声では言えないのですが、確かに琴似-豊平線を繋ぐ業務用の路線は存在します」
「ヨリミチの位置というのは大体この辺りなのではありませんか? 」
先生はそう言ってメモに簡単な路線図を描き、彼女に見せました。

点線がヨリミチ(筆者の手描きの為 縮尺は無茶苦茶)

「確かにこの位置ですが……。何故この位置だとお思いに?」
「明治時点で敷設された秘匿の地下鉄路線がこれと同様の構造をしているのですよ。当時の路線図と現在の路線図がほぼ一致しているのですが、唯一この斜めの路線だけが使われていない様に思えたので、もしかしたらと思いまして」
先生が異様にイキイキしているのが語気からも伺えましたが、一方で入渕さんの答え辛そうにしているのも感じ取れます。業務上の機密事項などとも密に関わって来るのでしょう。
「新北メトロのこの駅は明治期に存在した地下鉄の居抜きを元に建設されたのではないか、と私は考えています」
「明治期の地下鉄自体も存在の証明が曖昧ですし、答えられない事もあるでしょうから、無理にお答えにならなくても構いません」
入渕さんは大きな溜息を1つ吐いて、ポツリ、ポツリと語り始めました。
「今からお話する事はオフレコでお願いします。……新北メトロは1967年に棟島むねしま 昭雄あきおによって興された私鉄です。彼は
何故かかつての軍事用地下鉄の存在を把握しており、それを基に新たな地下鉄路線を設計しました。まさに地下1階にある商業施設街は当時の路線空間をそのまま使っています」
意外な名前が飛び出して来た事に私と先生は酷く驚きました。棟島の名前がここで出るとは思わなかったので、思わず訊いてしまいました。
「棟島 昭雄というのは棟島 護房もりふさの親族だったりしますか!?」
「さあ……、そこまではちょっと分からないですけど……。ともかく札幌の地下にかつて軍事用路線が走っていた様ですし、弊社がそれをベースに展開していったのも事実です。ただ……、改めて申し上げますがこの話に関してはオフレコでお願いします。どこかに公表したり、発表するというのはちょっと……」
私達は改めて入渕さんからしっかりと釘を刺されました。ただ、深佐原先生は既に次のターゲットの方に興味が移ったようでした。
「無論です。NDAを結んでいますから。口外や発表等などの情報を公にする事は絶対に行いません。お約束します。それよりも棟島 昭雄氏の事について幾つかお伺いしたく……」
先生はこの件に棟島姓が関わっている事がやはり気になったらしく、その後も根掘り葉掘り訊いていました。

終わりに

 好い頃合いで見学を切り上げる事にした我々は、入渕さんと別れ、食事に行く事に相成りました。色々な事が知れた反面で、それを公表できないもどかしさもあったので個人的には少し残念です。一方で深佐原先生は最初から興味の延長での取材だったそうで、公表などは端から眼中になかったとのこと。むしろ棟島という新しい指標が顔をの覗かせたのが嬉しかったと仰っており、しばらくはまだ個人的に調べてみるつもりだそうです。

奢って貰った海鮮丼

 私と先生の研究の真似事も今回で一旦の終止符を打つ事となります。実に楽しく貴重な経験をさせて貰えたので、深佐原准教授にはとても感謝しています。ということでまた面白い経験や話せる事がありましたらnote記事にして行きたいと思っています。全3回に渡る長編記事でしたが、お付き合い戴きありがとうございました。








































ネタバラシ
 ということでネタバラシです。気付いていた方は割と早い段階で気付いていたと思いますがエイプリールフールです。端から荒唐無稽な話だったので、割りと分かりやすかったんじゃないかなと思います。明らかに無茶苦茶な話であると気付かせる意味も込めて、嘘と矛盾を山程散りばめています。全3回に渡る記事の中で事実と虚偽をごちゃ混ぜにしているので一覧にして開示しておきます。
 全3回に渡る出来損ないの茶番にお付き合い下さり、本当にありがとうございました。

史実・事実・実在するモノゴト
・第1の史料 (#1にて登場)
   wikipediaより引用 実際に明治8年の札幌周辺の地図を使用
・第2の史料 (#1にて登場)
   wikipediaより引用 実際に明治24年の札幌周辺の地図を使用
・第3の史料 (#1にて登場)
   wikipediaより引用 実際に1930年の札幌周辺の地図を使用
・札幌市街の経緯 (#1 気になったコト にて記載)
   『1869年に島義勇が~これらが北海道の産業や在り方を形作る事になったようです』大まかな流れは史実です。

虚偽・架空・実在しないモノゴト
・豊原大学 (#1にて登場)
   架空の大学です。
・深佐原准教授 (#1にて登場)
   架空の人物です。深佐原という苗字は実在しません。
・創成図書館 (#2にて登場)
   架空の施設です。
・棟島 護房 (#2にて登場)
   架空の人物です。棟島という苗字は実在しません。彼に関する全てが架空の事象です。
・棟島の名が載る文献 (#2 ある人物について にて登場)
   史料を真似てそれっぽく自作したモノ。
・軍事機密な建設を営繕局名義で施工する (#2 ある人物について にて記載)
   その様な事実はありません。
・新軌道拡大構想図 (#2 新たな1枚 にて登場)
   史料を真似てそれっぽく自作したモノ。無論、当時に地下鉄など存在しません。
・新北海道メトロ株式会社 (#3にて登場)
   架空の企業です。エピソードのモチーフは東京地下秘密路線説です。また作中に登場する路線も架空の路線名です。
・入渕 (#3にて登場)
   架空の人物です。入渕という苗字は実在しません。
・棟島 昭雄 (#3にて登場)
   架空の人物です。

※記事タイトルは Four Seasons『北へ』よりサンプリング

いいなと思ったら応援しよう!