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言語学オリンピックのサンプルで遊ぶ

 今年の夏、本邦で最も盛り上がったイベントと言えば東京オリンピック・パラリンピックですね。私はスポーツとか余り詳しくないし、得意でもないので雰囲気だけ楽しんでいました。なんか私の地元でもクソ暑い中マラソンとかしてたみたいです。よく知らないですけど。
 フィジカルがゴミのへなちょこなのでスポーツとかよりもパズルやゲームの方がまだ楽しめる質なので、私はこっちのオリンピックを紹介したいと思います。言語学オリンピックという中高生向けの大会です。科学オリンピックと称されるコンテストの1種目であり、国際大会も開かれる程に学習的価値の高い競技パズルです。偶に友達と解き合って遊んでいました。とは言っても最後にやったの2020年の5月末ですけども。最近ではゆる言語学ラジオというコンテンツが注目され始め、言語やことばの面白さが再評価されている印象があります。本家五輪が話題になっていたので、言語学五輪のサイトを覗いて見たところ最終更新が7月末と最近で、しかもお試し問題が追加されていました。ということで今回はお試し問題を通して、言語学五輪の解き方や楽しみ方についてを書いていきたいと思います。

 以下ネタバレ(解き方の解説)が続きますので、ご自身の力で解いてみたい方はここでブラウザバック等を行って下さい。問題はこちら


1. インドネシア語

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 まずインドネシア語の構造がよく分かりませんので要素に分けてみます。
jalan(道)とberjalan(歩く)はほぼ一致しており、「歩く」はber+jalan(道)で構成されている事が分かります。berには何か意味がありそうです。
 次の「汗をかく」を見るとこちらにもberがあるのでber+keringatで構成されています。「汗びっしょり」はkeringat+anなので、共通しているkeringatには「汗」の意があると考えられます。

(a)keringat=「汗」

 とすれば「歩く」と「汗をかく」から推察するとberは「行為」を意味する接頭語だと推察できますね。つまりber+nafasは「息+行為」となります。
 では「とげまみれ」は如何でしょうか。「とげ」がduriであるのは分かっているので、「まみれ」をどう表現するかを考えなければなりません。問題文で「まみれ」に近いニュアンスの日本語を探すと「汗びっしょり」内の「びっしょり」が見つかります。
 「汗びっしょり」を要素に分けるとkeringat(汗)+an(?)である事が見えてきます。そうするとanは「びっしょり」を意味する接尾語だと考えられます。「びっしょり」≒「まみれ」だとすれば「とげまみれ」もduri+anで表せそうです。

(b)「息をする」=bernafas「とげまみれ」=durian

 旅行雑誌の『じゃらん』て多分このjalanが由来なんじゃないかなと思って調べたらどうやらその通りらしいです。ソースがWikipediaなので怪しいですけども。あとdurianはそのままドリアンだそうで、これはJOLの答えにコラムとして書いてありました。

2. アイヌ語

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 これは深く考えなくとも分かりますね。「シ+コタン」が「大きい・村」で、「コタン+ペッ」が「村・川」ならば、「シ+ペッ」は「大きい・川」。

(a)「シペッ」の語源は「大きい・川」

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 (a)の解き方を同様に当て嵌めます。「サムナイ」「ポロナイ」を同類項で括ると「ナイ」=「沢」だと分かります。「カムイシリ」「リシリ」を同様に括ると「シリ」=「山」になります。「カムイシリ」の残った方である「カムイ」は「神の」であると分かるので「カムイナイ」は導けます。

(b)「カムイナイ」の語源は「神の・沢」

 札幌という地名は、市内を流れる豊平川をアイヌ語で「サッポロペッ」(乾く・大きな・川)と呼んだ事が由来であるという説があるそうです。(出典)

3. スワヒリ語

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 nilipika(私は料理した)とninajenga(私は建てている)を見比べると、語頭のni(私は)が共通してます。「ni=私は」
nilipika(私は料理した)とanapika(彼は料理している)を比較すると、末尾の
pika(料理し)が共通してます。「pika=料理する」
nilipika(私は料理した)を分解するとni(私は)+li(?)+pika(料理する)となった。これからliが過去形を表すと思われますね。「li=~た」
以上の事からスワヒリ語の動詞は「人称+時制+行為」の順に組み上がると言えそうです。

 anapika(彼は料理している)とninajenga(私は建てている)を見ると共通しているのはna(~ている)になります。「na=~ている」
「人称+時制+行為」の構造に当て嵌めるとa(?)+na(~ている)+pika(料理する)となるので元の日本語から「a=彼は」であると考えられそうです。
ninajenga(私は建てている)で日本語訳が判明していない部分はjengaなので必然的に「jenga=建てる」だと推測できます。

 「彼は建てた」は a(彼は)+li(~た)+jenga(建てる)で作れそうです。

A. alijenga(彼は建てた)

 これもオモチャの『ジェンガ』の由来っぽいです。また出典がWikipediaなので心許無いですけど。正直に言うと大問1~3を全て解くのに5分と掛からないでしょう。次から始まる大問4~6の難易度が本来の難易度と言えます。では早速、大問4に取り掛かりましょう。ここから難易度がぐぐーんとあがります。

4. トルコ語

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 まずやるべきなのは単語の意味を明らかにする事です。1,2,4,8,9に共通している単語を抽出し「Canavar=かいじゅう(主格)」と目星をつける事ができそうです。次に4と5を見れば「Top=ボール(主格)」だと見えてきます。同時にtop(ボール)+aで「ボールに」を表すのだと伺える事から「名詞+a=~に」と言えそうです。さらにトルコ語の文法が主語+目的語+動詞の順(SOV型)であるのが推察できます。これは日本語と全く同じ文法構造なので、日本語訳をそのまま順番に当て嵌められそうです。以下の画像に整理しました。

スクリーンショット (253) - コピー - コピー - コピー

 この画像を参考に考えると途端に理解し易くなった様に見えますね。ここから(1)~(4)を導いて行きましょう。2と9を見れば(1)arkadaşは「友達を」の意だと分かります。(2)Canavarは先述の通り「かいじゅう(主格)」でしょう。(3)okulは1と10から「学校を」に該当します。
 (4)Çocuklar gelip canavara balon verdi. のそれぞれの単語に日本語を当ててみます。Çocuklarは9から「子どもたち(主格)」になり、canavaraは「かいじゅうに」、verdiは3から「あげた」が分かります。3を見るとverdiの前に来る語は「~を」の意味を伴うのが明らかなので、balonは8から「風船を」になりそうです。
 gelipは1のgeldi(来た)と似ていますが形が異なります。8と9のbinip(乗って)とbeğenip(気に入って)を見てみます。どうやら「動詞の原形+ip=~って」と言えそうです。1~10が全て過去形なのを考慮すると「動詞の原形+di=~た」であるとも言えそうです。「来た」がgel+diなのでgel+ipは「来て」です。Çocuklar(子どもたち(主格)) gelip(来て) canavara(かいじゅうに) balon(風船を) verdi(あげた) を違和感なく日本語に直してあげれば(4)の答えになります。

A. (1)友達 (2)かいじゅう (3)学校
    
(4)子どもたちが来てかいじゅうに風船をあげた

 解く為の手順が一気に増えましたが比較的楽な方です。トルコ語は日本語と同じSOV型の言語です。トルコ語はアルタイ諸語の1つであり、日琉語族も広義のアルタイ諸語であるとする説もありますが、決着はついてないです。アルタイ諸語(トルコ語やモンゴル語や韓国語など)は日本語そのままの感覚が割と通用するので、言語学五輪に出題された時はサービス問題です。

5. 古代エジプトの数字

えげgrg

 古代エジプト数字は環境文字の関係で横書きが出来なかったので各数字を(α)~(ζ)で置き換えています。各部位もI,∩,〇,に置き換えて表記しています。

 今回は言語と算数の両軸を使って解く問題です。分かる文字から当ててみます。(α)Iと(β)IIIIIを見るとそのまま1と5を意味する事が察せますね。(γ)と(δ)に5が共通しているので選択肢が1/5か15(=10+5)に絞られます。
 一旦(γ)=15と仮定して他を考えてみましょう。そうすると〇=10、∩=1/nと置けそうです。そうなると(ζ)が1/10+3/10=2/5となってしまい、選択肢にない答えが出て来てしまいます。どうやらこの仮定は間違っている様です。
 では(δ)=15と仮定してみます。そうなると〇=1/n∩=10と置けますね。(ζ)を計算してみると1/10+1/30=2/15となって、仮定が正しいと分かります。(ε)も1/(10+5)=1/15となるので全てが繋がりました。

A, (α)=1  (β)=5 (γ)=1/5 (δ)=15 (ε)=1/15 (ζ)=2/15

 単純な算数の問題を別言語で書くとこんなにも面倒臭くなってしまうんですね。アラビア数字の偉大さを改めて思い知った問題でした。数字は言葉以上に抽象的な概念を記号化したモノなので、特有の数詞は見ているだけでも楽しいです。

6. トンガ語

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 今回は極限的にヒントが少なく、今まで以上にパズル的な考え方でないと解けないかも知れません。valu ono=86 を見ていきます。86を表現する際に日本語では八十六となって、8×10+6を意味します。また英語ではeighty-sixで、80+6です。これは10進法的な数詞ですが、他にも12進法や20進法的な表記をする言語は山程ありますので気にしすぎたらキリがありません。これ以外の候補としてあり得そうなのは、数字をそのまま読むパターン。ニュアンスとしては86を「ハチロク」と読む感覚です。こうした言語があるのか知りませんけど、コンピュータ言語を触ってると10を「イチゼロ」って読む時があるので可能性としては捨て切れません。これらの前後入れ替えも候補に入れて考えてみます。

 valu onoで86と2桁の数を意味している点を考慮するとtolu toluやhiva hivaも2桁だと考えるのが妥当そうです。またtolu toluやhiva hivaの様に同じ語が全くの変化なく連続しているという事は「ハチロク」パターンである可能性が高いと推測できます。現段階での断定は出来ませんが、一旦「ハチロク」と仮定してみます。

 tolu×tolu tolu=hiva hivaであり得るパターンは「1×11=11」「2×22=44」「3×33=99」であり、更にtolu=1であるならhivaの存在が矛盾するので、実質的には「2×22=44」「3×33=99」のどちらかになりそうですね。という事は tolu=2 or 3、hiva=4 or 9と言えそうです。
 次にtaha tolu×fitu noa=hiva taha noaを考えてみましょう。tolu×noaの積における1の位はnoaである様です。別の数同士を掛けても1の位に変化がないパターンを考えます。tolu=2 or 3であるのでそれぞれ書き出してみます。2×1=2   2×2=4   2×3=6   2×4=8 2×5=10
2×6=12 2×7=14 2×8=16 2×9=18  2×0=0 tolu=2の場合
3×1=3   3×2=6   3×3=9   3×4=12 3×5=15
3×6=18 3×7=21 3×8=24 3×9=27 3×0=0 tolu=3の場合
式の中でも太字の部分が条件に合っている所になり、noa=0 or 5だと示しています。
 ua nima×fā=taha noa noa右辺の1の位もnoaです。noa=0 or 5なので1の位も0か5になります。仮にnoa=5と置いてみましょう。1の位が5になるのは「5×奇数」の時だけであり、左辺にnoaがない事から消去法的にnoa=0が導かれます。

 次の段階としてtaha tolu×fitu noa=hiva taha noaにそれぞれ分かってきた数字を当ててみます。
「tolu=2、hiva=4、noa=0の場合」
taha2×fitu0=4taha0
12×fitu0=410 32×fitu0=430 52×fitu0=450……
「tolu=3、hiva=9、noa=0の場合」
taha3×fitu0=9taha0
13×fitu0=910 23×fitu0=920 53×fitu0=950……
これらの式を計算すると13×fitu0=910のみが成立します。910÷13=70なのでfitu0=70となり、fitu=7が確定します。この式は「tolu=3、hiva=9、noa=0の場合」に発生するモノなのでtolu=3hiva=9も固定となりました。更に言えばtaha3=13の時に成立する式なのでtaha=1も明らかです。

 分かっている数字を整理すると以下の通りです。
0=noa   1=taha   2=?   3=tolu   4=?   5=?   6=ono   7=fitu   8=valu   9=hiva

 最後にua nima×fā=taha noa noaを解きます。taha noa noa=100なので、式もua nima×fā=100と直せます。未判明の数字2、4、5を組み合わせて100になる式が作れれば良い筈です。25×4=100以外に該当パターンを作れないのでこれでua=2nima=5fā=4が埋まりました。0~9の全てが埋まったのでこれが正しいと考えて良いでしょう。では問題に戻りましょう。

 324をトンガ語で表すと3=tolu、2=ua、4=fāになり、そのままtolu ua fāですね。1228は1=taha、2=ua、8=valuからtaha ua ua valuと表せます。最後にfitu ua valuを算用数字にするとfitu=7、ua=2、valu=8ですので728です。

(a)324=tolu ua fā 1228=taha ua ua valu  (b)fitu ua valu=728

 割と強引に進めた結果なんとか答えが出た感じですね。本当はもっともっと考慮すべき事があるらしく、本家サイトの解説ページに今回私が見落としていた注意点がずらっと並んでいます。見切り発車な仮定を多く積み上げたのでどこかで歯車が狂わないか心配しながら解きました。こんな単純な問題に半日近く掛けてしまったので私は選抜にはなれそうにありません。そもそも応募資格もありません。それにしてもトンガ語って不思議な数詞使うんですね。書かれる分にはまだ良いとしても、発声する時に差し障りないんでしょうか。1桁の羅列なのか、数桁の数字を1つ言ったのか、音で聴いた時に判断するのは難しそうに感じました。

終わりに

 ここまで解いてきましたが如何だったでしょうか。自分の考え方を言語化するのってやはり難しいです。今回の記事はいつも以上に理解しにかったんじゃないかなって思います。でも実際に解いてみた人はきっと「言語学五輪おもしろ!」ってなってくれていると信じてます。面白い、面白そうと思ってくれた方は是非過去問もやってみて下さい。2017年版が最も解き易いので、これから慣れていくのが良いかも知れません。これをキッカケに言語に対し興味が出て来たら雑にゆる言語ラジオとか聴けば良いと思います。
 そして今回クソ程興味なさ過ぎて読み飛ばした人はごめんなさい。当たり外れの激しいnoteですのでご容赦下さい。次はもっと万人受けする様な記事書きますので見捨てないで下さい。
 学生の頃ちゃんと勉強して来なかったから英語もドイツ語も習得できず仕舞いですし、母語も完璧に使えるかと言ったら疑問が残ります。ちゃんと勉強しておけば良かったなぁと今になって思います。

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 今回、解くのに使用した問題用紙を見れるように整えた奴です。私だけが分かれば良いと思ってたので、一瞥しただけじゃ読めないかも知れません。仕事メモ書きフォントで清書してます。公式さん案件お待ちしてまーす。

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