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鈍牛倶楽部若手俳優インタビュー企画第二弾“小林桃子”

デビューからわずか3カ月で主演ドラマの座を射止め、初舞台の出演を控える18歳“小林桃子”の素顔を知ってもらうべく、俳優のインタビューを数多く手がけるライターの折田侑駿が鈍牛倶楽部とタッグを組みインタビュー企画の第二弾!


■自分で選んだことを心に素直に従ってやれている実感がある

──演技を学び始めてまだ間もないながら、すでにいくつものお仕事をされていることに驚きです。

日々の変化が目まぐるしいですが、ずっとやりたいと思っていたことに夢中で取り組めている喜びを、ふとした瞬間に感じますね。自分で選んだことを心に素直に従ってやれている実感があるんです。これって本当に幸せなことだなって。

──養成所で演技を学び始めるまでは、純粋に俳優業に憧れを抱いていただけですもんね。その入口に立った途端にこうして仕事があって、戸惑いませんか?

戸惑いよりも驚きのほうが大きいですね。幼い頃から俳優に憧れていたので、いまこうしていくつものチャンスをいただけている事実にびっくりしています。でも、漠然とした俳優への憧れはいつからか「これしかない」という決心へと変わっていたので、この現状を自然と受け止められているところもある気がしています。

──業界内の立ち位置的には“新人”のはずですが、こうしてお会いしてみるとすごく落ち着いているというか、堂々とされている印象があります。

そんなことありませんよ。へニョへニョです(笑)。たくさんのオーディションを受けさせていただいていますが、やっぱり緊張します。ただ、これまでは大人の方と接する機会が少なかったのですが、オーディションや撮影現場に行くようになってからは、さまざまな立場にある大人の方と日常的に接するようになりました。最初のうちはどんな言葉を発するべきか迷ったり、自分の気持ちを伝えることができなくてもどかしい思いもしたのですが、それが最近は少しずつできるようになってきた気がしています。変に気を遣い過ぎたりしなくてもいいのかもしれないという気づきもあって。それが堂々としているように思っていただける理由なのかもしれません。

──発する言葉や姿勢というのは、対面する相手であったり、場の雰囲気によって変わってきますしね。

そうです。“空気を読む”みたいなことではなくて、お相手や場所に自然と合わせられたらいいのかなって。演技を学び始めたことで、客観的な視点を持つ意識が身につきつつあるのかもしれません。

■思い立ったら行動に移さずにはいられないタイプ

──そもそも、どういう経緯で俳優の道を進むことになったのでしょう?

小さな頃から人前に立ちたい気持ちがあったんです。目立つのが好きだったので、将来的にはそういった方面の仕事に就きたいと漠然と思っていました。それで小学5年生の学習発表会で舞台に立ったとき、周りのみんなが乗り気じゃなくて仕方なく立たされているのに対し、私はとにかく楽しくてしょうがなかった。あの瞬間です。私が俳優になりたいと思ったのは。

──人前で何かを表現することの喜びが、俳優業というものに結びついたと。

表現欲や目立ちたい欲求は、この頃に明確に芽生え始めていました。でも家族で私の幼少期の話になると、もっと小さな頃から「女優さんになりたい」と口にしていたと言うんです。潜在的にずっと憧れていたのだと思います。

©️つぼいひろこ



──そして、小林さんは10代のうちから俳優への道を歩み出したわけですよね。最初の一歩を踏み出すきっかけは何だったのでしょう?

中学生の頃は部活動が忙しかったこともありましたし、どうやって始めればいいのかも分かりませんでした。なので高校生になったら絶対に始めようと思って、芸能事務所のことなどをかなり調べていましたね。こんなにもたくさんある中で、自分に合っているのはどんな事務所なのか。どの事務所だったら、演技に集中できそうか。友人のお姉さんがすでに俳優として活躍していることを知って、そのお姉さんの様子を聞かせてもらったりもしていました。それからオーディションに応募するには写真が必要なので、家族に撮ってもらうのか、それともきちんとしたところで撮ってもらうべきかを考えたり。ちょうどそんな時期に学校の文化祭に卒業アルバム用の写真を撮るカメラマンの方がいらしていたので、「私、女優になりたいんです!」と声をかけて撮っていただきました(笑)。

──すごくハングリーというか、アグレッシブですね。

思い立ったら行動に移さずにはいられないタイプなのだと思います。本当に自分のやりたいことのためなら、いまのこの楽しい瞬間を大切にするためには、多少は大胆な行動も取れるのかもしれません。

©️つぼいひろこ

■早く同じ土俵に立たなきゃ

──俳優への道に進むにあたって、他に何か大きな影響はありますか?

中学の同級生に俳優をしている友人がいるのですが、彼は中学時代からすでに活躍していました。仕事のために毎日のように早退したり遅刻したりしている姿を見ていて、「自分は何をしているんだろう」と私は感じていたんです。自分はのんきに学校生活を送っているけれど、彼は学業がありながらも自分のやりたいことをやっている。私も早くあちら側に行きたいと思うようになって、それからは「俳優になる」と周囲に宣言するようになりました。

──やっぱりとてもハングリーですよね。そして実際にちゃんと行動に移している。

その中学時代の彼の存在や、高校時代の同級生のお姉さんの存在が身近にあったことは、影響として大きいと思います。どうしても意識してしまうので、憧れというよりは、逸る気持ちですね。特別視してはいませんでしたが、早く同じ土俵に立たなきゃって。

──そしてこうしていまは鈍牛倶楽部との縁があって、養成所で演技の基礎を学んでいるわけですね。どういう流れでここにたどり着いたのでしょう?

とにかくたくさんの事務所を調べて、最終的に「ここだ!」と思ったんです。芸能事務所というよりも、役者事務所という印象が強くあって。私の中にある俳優業への強い想いとこの事務所とを、自分自身で繋ぎ合わせた感じです。

──お話を聞いていると、偶然ではなく必然なのだなという気がします。それまで演技経験がなかったわけですが、養成所ではどんなことを学んでいるのですか?

すごく基本的なことですが、セリフを言わないときにどうあるべきかというのはレッスンで初めて知りました。映画やドラマを見ていてイメージしていたものをやろうしても、シーンが成立しないんです。養成所では一つひとつの役の重さというものや、どうすればその役として生きられるのかを学んでいます。具体的には自分の身体を知っていく作業をたくさんやっていて。先生からは「心と身体の距離が近いね」と言われました。

──心の動きに対して身体が素直に反応する、ということでしょうか。

そういうことだと思います。実際に心が何かを感じると、自然と身体が動いてしまいますから。先生はいつも「演技はセリフ1割、身体9割」とおっしゃっていて、自分の身体がいかに周囲に情報を発信するのかを教わっています。


©️つぼいひろこ

■役を生きることの大変さにも触れられたように思います

──レッスンが始まって間もない段階でドキュメンタリードラマ『ケーキの切れない非行少年たち』の主役に抜擢されましたが、決まったときの心境はいかがでしたか?

最初は実感が湧かなかったです。しばらくしてから次第に嬉しさが込み上げてきましたが、やはり主役という役割の重さに対するプレッシャーや作品が扱っているテーマなどから、不安も押し寄せてきましたね。ただ、撮影に入ってしまえば自然と身体が慣れてきて、私が演じた小平恵とともに過ごす特別な時間になりました。とにかく役をまっとうしよう、恵として生きようということを一番大切にしていました。この現場を終えたらどんな自分になっているのかが楽しみでした。

──小平恵というキャラクターはどのように掴んでいきましたか?

本読みのときに監督から「似ている部分がある」と言われたことを覚えています。たしかに台本を読んでいて、恵の心情が理解できる瞬間が多々あったんです。そういったところを手がかりにして、心の距離を縮めていきました。すると自然と身体にも彼女が住み着くようになったというか。スタッフの方々からも「どんどん恵になってきてる」と声をかけていただいて嬉しかったです。あとはどうしても知識として取り入れなければならない部分も多かったので、関連する資料に触れたり、撮影前に養成所で個人レッスンをしていただいたのも大きかった。恵の複雑な行動原理を先生が一緒になって考えてくださったんです。そこでの時間がキャラクターの細部に反映されていると思います。

──恵として生きることを一番大切にしていたとおっしゃいましたが、重要視したのはどんなところですか?

実際に現場に立ってみて、恵が何を目にしているのかということです。彼女の言動の根っこには、簡単には説明することのできない何かがあります。その何かに少しでも触れるためには、実際に恵として現場で呼吸をして、いろいろなものを吸収するのが重要だと考えました。つまり、恵として周囲の環境に対して素直に反応することです。



──やっぱりこの現場ではたくさんの発見や気づきがあったのですね。他にこの作品で小林さんが得たものはありますか?

カメラワークに対する最低限の知識です。撮影に入る前はどう演じるかということばかり考えていたのですが、それだけでは作品は成立しないことを知りました。カメラとの距離感であったり、画角のことであったり。そういったものはやはり実際に現場に行ってカメラの前に立たなければ分からないことなので、これを得られて嬉しかったです。最初はカメラの動くスピードがまったく掴めなくて、ずいぶん失敗してしまいました(苦笑)。もちろん、カメラに自分の演技がどう映っているのかを知れたことも大きかったです。

──この『ケーキの切れない非行少年たち』を経たことによる変化はありますか?

撮影期間中は、普段の私が目にしているものとは違う景色が見えていました。恵として経験したことは、私が経験したことでもあります。これが“役を生きる”ということなのかと改めて実感しています。私はまだまだ未熟ですが、演じるのは楽しいだけじゃない。役を生きることの大変さにも触れられたように思います。自分の人生があるうえで、他者の人生も生きなければならないので、主役ということもあったので、よりこのことを強く感じました。

■カラフルな人間でいたい

──この2023年の夏は『怪獣は襲ってくれない』で初舞台も経験することになりますね。

とてもドキドキワクワクしています。映像の現場とはまた異なる演劇の稽古場で、私はいったい何を吸収できるのだろうかと。本作は新宿の歌舞伎町に集まる若者たちの姿を描いた作品で、私が演じるのは私自身とはまったく違うタイプのキャラクター。彼女はすごく自由で、みんなのカリスマ的な存在なんです。観客のみなさんの視線を浴びながら、ここでまた俳優として新しい発見ができたらいいなと思っています。



──本作も出演の経緯はオーディションですよね。こうして仕事が決まる理由を自己分析できたりしますか?

うーん……。私という人間の受け取り方が、お会いする方によって違うことを感じています。抱いていただくイメージにだいぶ幅があるといいますか……。なのでいつもオーディションでは、「もう少し見ていたい」「違う姿も見てみたい」と感じていただけたらと思っています。心がけているのはとにかく楽しむこと。変に取り繕ったりすることなく、自然体でその瞬間を楽しめればと。

──これからどんどん変わっていくものかもしれませんが、現在の小林さんにとって俳優業とはどんなものなのでしょうか?

未来です。ずっと憧れてきたものなので。かといって、すべてがキラキラしているものだとも思っていません。でもそんな世界で、すでに活躍されている魅力的な俳優のみなさんとはまた違う俳優像を提示していきたいです。これから俳優という職業を通してどんなことだってやれるはずですし、ひるまずにどんどん挑戦し続けていきたい。いろんな引き出しを持っている、カラフルな人間でいたいですね。いまの私にとって俳優業は無限の可能性を秘めています。だから“未来”という言葉になるのかな。

Interview & Text
Profile _折田侑駿(おりた・ゆうしゅん)
1990年生まれ。文筆家。映画、演劇、文学、マンガ、服飾、酒場など、さまざまなカルチャーに関する批評やコラムを各種メディアに寄稿。映画のパンフレットなどで俳優へのインタビューを数多く手がけている。 

Profile _ 小林桃子(こばやし・ももこ)
2005年2月5日生まれ。東京都出身。2023年にテレビ東京若手映像グランプリ「亀も、青春は短い」で初出演後、NHKBS1「ケーキの切れない飛行少年たち」の主演を務める。その他の出演作に、NHKBSP「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(第6話)がある。
8月30日(水)より初出演舞台「怪獣は襲ってくれない」がシアタートップスにて開幕される。

「怪獣は襲ってくれない」
HP:https://kaiju-stage.com/


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