見出し画像

鈍牛倶楽部若手俳優インタビュー企画第一弾“林裕太”

デビューから2年半、様々な作品への出演が続く俳優“林裕太”の素顔を知ってもらうべく、俳優のインタビューを数多く手がけるライターの折田侑駿が鈍牛倶楽部とタッグを組みインタビュー企画を実施!


■役や作品について考えるのはすごく楽しいのと同時に苦しい行為


──2020年のデビューからほんの数年でさまざまな作品に出演されていますね。

オーデションを受けて一つひとつ仕事を獲得してきました。最近は嬉しいことに少しずつオファーをいただく機会も増えています。俳優活動を始める前から拝見していた方とご一緒させていただくことも多く、「え、僕でいいんですか……?」と思うこともあります。現場に立って俳優同士として対等にお話しできるのが、自分なりの成長を感じる瞬間です。現場ごとに取り組み方がそれぞれ異なるので、いろいろと経験しては刺激を受けているところです。

──社会的に大変なご時世にデビューされていますよね。不安はありませんでしたか?

すごく困難な時代を生きているとは思いますが、この時期に俳優デビューをすることに対する不安はありませんでした。たまたまこのタイミングだっただけなのかなと。養成所でレッスンを受けているときから現在のような状況でしたので。それにその後、現場に行くようになって、この仕事だからこそ他者と触れ合うことができているとも感じています。もちろんそこではマスクをしていますし、周囲の方との距離に気をつけなければならない。でもこれらは僕にとって普通のこと。こういった状況だからこそ得られたコミュニケーションもあると思っていますしね。むしろ、この時期に俳優活動を始められた自分は恵まれていると思っています。仕事を通して、さまざまな人との繋がりを持つことができたんです。


©市川唯人

──映画にドラマにCMにと、とてもバランスよく仕事に取り組まれていますよね。

この仕事、本当に楽しいです。まだまだ駆け出しですが、すでにお話ししたようにオファーをいただく機会も増えてきましたし、考える余白の多い役どころをいただく機会も増えつつあります。役や作品について考えるのはすごく楽しいのと同時に苦しい行為でもありますね。でもこれこそが、作品世界の中を、そして一人の役を、“生きる”ということなのだと思っています。

■経験を重ねるごとに客観的に周囲の状況を見られるようになっている

──参加する作品ごとにシステムが違うと思います。それによって心持ちは変わってきますか?

一つひとつが大切であることに変わりありません。こうしていろいろと経験できている僕は、本当に恵まれているんだと思います。やっぱり、作品ごとに求められるものは違いますね。それは演技のトーンであったり、作品との関わり方であったり。さまざまな現場に立ってみることで、視野はどんどん広がります。重要なのは自分がどうしたいのかではなく、監督にとって、そして何より受け取る側のお客さんにとって、最良のパフォーマンスを提供すること。いまはこのことを考えるのが楽しくてしょうがないですね。経験を重ねるごとに客観的に周囲の状況を見られるようになっている気がします。

──もともとすごく柔軟なのでしょうか?

自分では不器用な人間だと思っています。いわゆるガンコな性格だと、養成所時代の先生に言われたこともあります。でも、柔軟でありたいとは思っていますね。自分の置かれている状況がどんなものであれ、それを楽しみたいし、有意義な時間にしたいと考えています。その気持ち以上に大きいのが、自分が他者からどう見えているのかということです。誰かから褒められるのは純粋に嬉しいですし、他者の視点を通して自分がどんな人間であり、どんな存在なのかを知ることに近づける気がしています。そこでは思いがけない自分の一面を知る面白さがあるんです。


©市川唯人

──他者の視点を通して、自分が何者であるのかを知る。

これは俳優活動を始めてから大きくなっている感覚ですが、さかのぼれば幼い頃からずっとですね。家族との関係性や、学生時代の交友関係などに起因しているのではないかと思います。それと僕は、昔から目立つことが好きでした。歌の発表会で指揮者に名乗り出たり、学芸会で一人で歌う役をやってみたり。これが後年になって、俳優活動を始めるきっかけに繋がっていきます。目立ちたがり屋で、いつも他者の視線を気にしていた少年期でした。

──さまざまな状況において、自分自身が表現したいことと周囲の求めるものを天秤にかけて、自分がどうあるのがベストなのかを考えていたということでしょうか。

明確な言葉にするならそれが適切だと思います。常に自分のありかたの最適解を考えていました。こういったことを言うと、僕は自意識過剰な人間だと表明しているようで、誰かを嫌な気持ちにさせてしまうかもしれません。でも僕の考える俳優というものは、他者からどう見えているかが重要ですし、いかに巧みにキャラクターを表現したとしても、お客さんの目に映ったものがすべてではないのかと。なのでいまの自分のこの意識の持ち方をポジティブに捉えています。いまのこれが、僕なんです。

■転機になった映画『草の響き』への参加

© 2021 HAKODATE CINEMA IRIS

──そもそもどうして俳優を志したのでしょう?

「俳優活動をやってみたい」と初めて思ったのは小学6年生の学芸会のときです。それから憧れだけを抱き続けていて、高校3年の進路を決めなければならないときに、一度は自分のやりたいことをやってみようと思ったんです。でも、ただそれだけなんです。決定的な何かがあったわけじゃない。本当にふわっとしていますよね。そうして養成所に入所してみて、多くのことを学び、自分の価値観が変わっていくのを感じました。けれども、僕が俳優を志すべき根本的な理由は見つかりませんでした。もちろん、やるからには一生懸命に取り組みましたが、ほかの人々と比べると理由が浅いのだろうと思っていました。そんな状態であったにも関わらず、現在の事務所に所属することが決まったんです。そして僕の俳優活動において、僕の人生において、転機といえる瞬間が訪れました。映画『草の響き』への参加です。この作品の現場で、演技の本当の難しさと面白さを実感し、「この仕事を続けていきたい」と心の底から思うようになったんです。

──この養成所に入っていなかったら……いまの事務所に入っていなかったら……『草の響き』に参加できていなかったら……。すべては偶然の流れのようにも思えますが、必然的な繋がりがあって現在の林さんがあるんですね。

選択やタイミングが何か一つでも違っていたら、僕はいまここにいないと思います。養成所で学んだ「セリフを直球で投げろ」や「演技はセリフ1割、身体9割」という教えはいまでも大切にしています。前者は、セリフを口にするだけでは何も始まらず、相手にちゃんと届いてようやく何かが始まるということ。後者は、俳優はセリフ以上に身体に意識を向けなければならないということ。それとあと、自分のパーソナルな部分を大切にすべきだとも教わりました。画面に映るのは僕でしかないのだと。演技の基礎と、演技を生業として生きていくための方法論を学びました。そしてこれらのことがいかに大切なのかを『草の響き』の現場でも痛感したんです。


──林さんは趣味も特技も長距離走なのに、『草の響き』では走るのが苦手な高校生役ですよね。何よりも身体の表現が重要になってくる。

斎藤久志監督は「芝居をするな」とおっしゃる方でした。けれども、僕自身はまったく疲れていないのに、本番では疲れた姿を見せなければならない。なのでカメラが回る直前まで実際に走り込んで、本当に息を切らして撮影に臨みました。それが僕に唯一できる役へのアプローチだったんです。あの当時の僕はいま以上に演技が下手というか、自然体で何かを表現することができませんでしたから。

© 2021 HAKODATE CINEMA IRIS

──『草の響き』への出演は俳優活動だけでなく、本当に人生においても転機なんですね。

初めての映画の現場だったので気負って臨んだのですが、僕が考えて実践する小手先の表現ではまったく太刀打ちできないことを思い知らされました。何もできない自分の無力さを知りましたね。その一方で、僕がこの弘斗という役を生きるうえで譲れないものもありました。ただその部分だけを持ってカメラの前に立った結果が、映画には収められています。とはいえ、この実感を得られたのは完成した映画を何度か観てからで、現場ではとにかくいっぱいいっぱいでした。俳優としてどうあるべきかもそうですが、一人の人間としてどう生きるのが大事なのかをこの現場で教わりましたね。監督やスタッフの方々、先輩俳優の言葉と姿から、完全な新人である僕は多くを学んだんです。初めての映画の現場が本作だったのは、とても幸運なことだったと感じています。

© 2021 HAKODATE CINEMA IRIS

■誰かの喜びも悲しみも、理解しようとし続けたい

──いまの林さんが思い描く理想の俳優像はありますか?

生きていると、ときには悲しいことや苦しいことが起こります。それでも人は生きていくしかありません。そして、生きていくしかないから、他者の心に触れたいのだろうなと思うんです。『草の響き』にも「人の心には触れられない」といったセリフが登場します。僕は誰かの喜びも悲しみも、理解しようとし続けたい。他者の幸福や痛みを本当に理解するのは無理だと思います。けれども理解しようとし続ける人間でありたいし、そんな人間こそが他者に寄り添うことのできる存在だと思っています。まずは僕がそうあり続け、俳優として画面の中で生き続けたい。抽象的な言い回しになってしまいましたが、これが僕の理想の俳優像です。具体的に言うならば、純粋に世の中の人々の元気が出るような、そんな作品に出続けられる俳優になりたいですね。あとはやっぱり、自分にはないものを持っている方に憧れます。僕はごく普通ですから。

──東京育ちとのことですが、どんなものに影響を受けてきましたか?

流行の最先端みたいなものとは無縁で過ごしてきました。地元は都心部から少し離れているので、友人たちと集まっても近所の公園でボール遊びをしたり。でもこの大都会で育ちながら、帰れる場所があることを大切に思っています。これは僕にとってすごく大きい。地元に帰って家族や友人と話す時間があることで、自然と素の自分に戻れるというか、何か嫌なことがあったとしても前を向ける。僕は本当に環境に恵まれていますね。“自分は支えられている”という実感が、俳優活動を始めてから強くなりました。

──周囲の人々の存在が、いまの林さんの拠り所になっているんですね。

家族、友人、そして事務所の方はもちろん、自分を育ててくれた環境を大切に思っていますね。そして、そんな自分に居場所を与えてくれた人々のために頑張りたいと思っています。オーデションで誰かと役を競ったり、何か勝負をしなければならない瞬間は確実にありますし、そこでの自分は本気で闘います。でも根底には、“自分を支えてくれている人たちのため”という気持ちがあるんです。いまここに僕がいられる理由。何度も言葉にしていますが、僕は恵まれた環境にいることを自覚していますから。とはいえ、「自分を見せつけたい!」という気持ちもどこかにあるはずです。どちらも大切だなと思いますね。

──自分がどんな環境にいるのかを自覚できているのは大きいですね。

でも以前は、この恵まれた環境にいることをコンプレックスに感じていたんです。多くの方は地方から一人で上京してきて、俳優を目指しています。彼らや彼女らにはそれゆえのハングリーさがあって、自分にはそれがないんじゃないかと。僕はいまも将来も、ただ幸せになりたいと思っています。でも、いまの自分の状況をネガティブに捉えているようでは、幸せになどなれないと気がつきました。それからは純粋に、仕事をいただくために自分はどうすべきかだけを考えています。つまりこれが、“自分を支えてくれている人たちのため”という気持ちに繋がっています。

──キャリアをスタートさせたばかりの20代前半の段階で、すでに冷静に自分のことを俯瞰できているんですね。

ただ、これから変わっていくものだと思いますし、それはそれでいいのかなと。演技だってそうですが、何かを決めつけることはよくないと思うので。悩み続けていくことこそが成長にも繋がると考えています。今後のビジョンとしては、やっぱり演技が上手くなりたい。でも一口に演技の上手さと言っても、いろいろありますよね。僕にとって演技が上手くなるというのは、まず人間的にもっと成長することです。小手先の技術ではなく、ただそこに存在するだけで役を表現できてしまう、これが僕の目指す俳優の姿です。そして、純粋に多くの方の目に触れる俳優になりたいです。そうすれば自然と出演できる作品の幅も広がるはずですし、理想の俳優像にも近づけるはず。とはいえ、これもまたずっと悩み続けることだろうと思います。ずっと、ちゃんと、悩み続けていきたいです。   


©市川唯人


Interview & Text
Profile _折田侑駿(おりた・ゆうしゅん)
1990年生まれ。文筆家。映画、演劇、文学、マンガ、服飾、酒場など、さまざまなカルチャーに関する批評やコラムを各種メディアに寄稿。映画のパンフレットなどで俳優へのインタビューを数多く手がけている。 

Profile _ 林裕太(はやし・ゆうた)
2000年11月2日生まれ、東京都出身。
2020年に俳優としての活動スタート。2021年に『草の響き』(斎藤久志監督)にて映画初出演し注目を集め、翌年に『間借り屋の恋』(増田嵩虎監督)にて映画単独初主演。
さらに今年の2月に公開された、俳優である中川大志が監督を務めたアクターズ・ショート・フィルム3「いつまで」でもメインキャストを演じた。
近年の主な出演作に、映画『少年と戦車』(竹中貞人監督)、『少女は卒業しない』(中川駿監督)、ドラマ『特捜9』(EX)、『家政夫のミタゾノ』(EX)、『センゴク 大失敗したリーダーの大逆転』(NHK-BSP)、『ちょい釣りダンディ』(BSテレ東)などがある。
W主演を務めた『ロストサマー』(麻美脚本・監督)の公開が控える。                                         

Information
『ロストサマー』
2023年公開予定

林裕太・小林勝也W主演
中澤梓佐(889FILM)・関口アナン(889FILM)・椿弓里奈(889FILM)・廣田朋菜・土屋壮・橋野純平・松浦祐也 他

脚本・監督/麻美(889FILM)

https://www.makuake.com/project/lostsummer/


WOWOWアクターズ・ショート・フィルム3『いつまで』
監督:中川大志
出演:井之脇海・板垣瑞生・林裕太

<WOWOWオンデマンド>にて配信中!
https://www.wowow.co.jp/detail/181832

©WOWOW

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?