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星の王子さま(抜粋)

8
「おとなたちには、いつだって説明がいる」

23
「新しい友達のことを話しても、おとなは、いちばんたいせつなことはなにも聞かない。『どんな声をしてる?』とか『どんな遊びが好き?』『蝶のコレクションしてる?』といったことはけっして聞かず、『何歳?』『何人きょうだい?』『体重は何キロ?』『おとうさんの収入は?』などと聞くのだ。そうしてようやく、その子のことがわかった気になる。」

30
『毎日のきまりにすればいいんだよ』のち王子さまは言った。『朝、自分の身づくろいがすんだら、今度は星の身づくろいをていねいにしてあげるんだ。それでそのとき、これはバラじゃなくてバオバブだってわかったらすぐに、きちんと抜くようにする。はじめのうちは、バラとバオバブってよく似ているから。おもしろくもない仕事だけど、とってもかんたんさ』

38
『何百万年も昔から、花はトゲをつけている。何百万年も昔から、ヒツジはそれでも花を食べる。なんの役にも立たないトゲをつけるのに、どうして花があんなに苦労するのか、それを知りたいと思うのが、大事なことじゃないって言うの?ヒツジと花の戦いが、重要じゃないって言うの?赤い顔の太ったおじさんのたし算より、大事でも重要でもないって言うの?ぼくはこの世で一輪だけの花を知っていて、それはぼくの星以外どこにも咲いていないのに、小さなヒツジがある朝、なんにも考えずにぱくっと、こんなふうに、その花を食べてしまっても、それが重要じゃないって言うの!』
...
『もしも誰かが、何百万も何百万もある星のうち、たったひとつに咲いている花を愛していたら、その人は星空を見つめるだけで幸せになれる。<ぼくの花が、あのどこかにある>って思ってね。でも、もしその花がヒツジに食べられてしまったら、その人にとっては、星という星が突然、ぜんぶ消えてしまったみたいになるんだ!それが重要じゃないって言うの!』
...
「僕は王子さまを抱きしめた。やさしく揺すった。そして言った。『きみが愛している花は、危ない目になんかあわないよ...僕がきみのヒツジに、口輪を描いてあげる...きみの花には、身を守るものを描いてあげる...僕が...』だがそれ以上、なにを言えばいいのか、僕にはわからなかった」

45
『ぼくはあのころ、なんにもわかっていなかった!ことばじゃなくて、あの花を見るべきだった。あの花はぼくをいい香りでつつんでくれたし、ぼくの星を明るくしてくれたんだ。ぼくは、逃げだしたりしちゃいけなかった!あれこれ言うかげには愛情があったことを、見ぬくべきだった。花って、ほんおに矛盾してるんだね!でもぼくはまだ、あまりに子どもで、あの花を愛することができなかった』

90
『きみはまだ、ぼくにとっては、ほかの十万の男の子となにも変わらない男の子だ。だからぼくは、べつにきみがいなくてもいい。きみも、べつにぼくがいなくてもいい。きみにとってもぼくは、ほかの十万のキツネとなんの変わりもない。でも、もしきみがぼくをなつかせたら、ぼくらは互いに、なくてはならない存在になる。きみはぼくにとって、世界でひとりだけの人になる。ぼくもきみにとって、世界で一匹だけのキツネになる...』

101
『ぼくの暮らしは単調だ。ぼくがニワトリを追いかけ、そのぼくを人間が追いかける。ニワトリはどれもみんな同じようだし、人間もみんな同じようだ。だからぼくは、ちょっとうんざりしてる。でも、もしきみがぼくをなつかせてくれたら、ぼくの暮らしは急に陽が差したようになる。ぼくは、ほかの誰ともちがうきみの足音が、わかるようになる。ほかの足音なら、ぼくは地面にもぐってかくれる。でもきみの足音は、音楽みたいに、ぼくを巣の外へいざなうんだ。それに、ほら!むこうに麦畑が見えるだろう?ぼくはパンを食べない。だから小麦にはなんの用もない。麦畑を見ても、心に浮かぶものもない。それはさびしいことだ!でもきみには、黄金の髪色をしている。そのきみがぼくをなつかせてくれたら、すてきだろうなあ!金色に輝く小麦を見ただけで、ぼくはきみを思い出すようになる。麦畑をわたっていく風の音まで、好きになる...』

108
『じゃあ秘密を教えるよ。とてもかんたんなことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない』
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『きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ』
...
『人間たちは、こういう真理を忘れてしまった』
...
『でも、きみは忘れちゃいけない。きみは、なつかせたもの、絆を結んだものには、永遠に責任を持つんだ。きみは、きみのバラに、責任がある...』

115
『星々が美しいのは、ここからは見えない花が、どこかで一輪咲いているからだね...』
...
『砂漠が美しいのは』
...
『どこかに井戸を、ひとつかくしているからだね...』

117
「それから王子さまは眠ってしまったので、僕はそっと抱きあげて、また歩きだした。僕は胸がいっぱいだった。自分が、壊れやすい宝物を抱いている気がした。地球の上に、これ以上壊れやすい宝物はないような気さえした。月の光のなかで、僕はその白い額を、閉じた目を、風に震える髪の房を、見つめた。そして思った。<こうして今見ているものも、表面の部分でしかないんだ。いちばん大事なものは、目には見えない...>
わずかに開いた王子さまのくちびるは、ほほえんでいるかのようだ。<眠っている小さな王子さまを見て、こんなに胸がいっぱいになるのは、王子さまに、一輪の花への誠実さがあるからだ。王子さまのなかで、眠っていてもなおランプの炎のように光を放っているのは、そのバラの花の面影なんだ...>そう思うと、王子さまはいっそう壊れやすく感じられた。ランプの炎は、しっかり守らなくては。さっと風が吹いてきただけで、消えてしまうかもしれないから...」

132
「『夜になったら星を見てね。ぼくの星は小さすぎて、どこにあるのか教えられないけど。でもそのほうがいいんだ。ぼくの星は、夜空いっぱいの星のなかの、どれかひとつになるものね。そうしたらきみは、夜空のぜんぶの星を見るのが好きになるでしょ...ぜんぶの星が、きみの友だちになるでしょ。今からきみに、贈り物をあげるね...』そして王子さまは、笑った」

133
『きみが星空を見あげると、そのどれかひとつにぼくが住んでるから、そのどれかひとつでぼくが笑ってるから、きみには星という星が、ぜんぶ笑ってるみたいになるっていうこと。きみには、笑う星々をあげるんだ!』